千春が椎名にしごかれているとき、 2人の人物が、廃屋に入っていく。 その場所は、今はもう潰れた旅館だった。
「ふう‥トドメをさされなくてよかったですねぇ…ワタシ本当に死んだと思いましたよ」
「全くだよ。普通、叩きつけられるだけで頭潰れるか?」
「いやぁ、無理デスネ。物理的に。人間のソレじゃない」
2人は話しながら廃屋の奥へと歩いてい き、何人かの人影が見える部屋の襖を開け た。 襖を開けたとき、 中にいたおおよそ身長170cmくらいの細身 の男が、2人を見て口を開いた。
「ジャマー。ジグソー。よく戻ったね。で、どうだったんだい?特葬課は?」
「どうもこうもねえよ、俺達はなすすべもなく殺された…トドメをさされなかったのは相手がバカだったからだな。てか、俺はジグソーじゃなくてジグゾウだって何回言えば分かんだよ!」
「ジャマー、君は?」
「ジグソー君の言う通り、ワタクシたちは命からがらここに帰ってキマシタ。おそらく他の者も、やられたカト」
「そうかぁ。俺は、君たちになにを命じたか、覚えているかな?」
「何が言いたい?命令通り足止めはした。殺せなかったことを責めでもするつもりか?」
「なに、君たちに最初から期待はしてないさ。だいたい今の特葬課がどの程度強いか、それが知りたかっただけだから。そう考えれば、君たちの戦果は十分と言ってもいい。お疲れ様」
「お、おう。そりゃどうも」
「スミマセン。ワタクシ一つ質問をシテモ?」
「なんだい?」
「我々に足止めをさせて、市民を誘拐して、一体なにをするおつもりで?」
「知る必要はないよ、君たちは俺に従っていればいい。‥いや、やはり気が変わった、教えてあげよう」
細身の男は、2人が入ってきた襖とは違う 襖を開け、そこにあるものを見せる。 そこには、椎名を襲った死呪人が、 黒焦げになって天井から吊るされていた。
「な‥!こいつは‥!なんでこんなことに‥!?」
「俺の目的は、死ぬことだ。後にも先にもそれは変わらない。彼は、そのための目的を果たせなかったから、処刑させてもらったよ」
「彼になにを命令していたんデスカ ?」
「花咲椎名を殺せ。それが彼に与えられた使命だった。でも、彼はそれをできなかっただけでなく、おめおめと逃げ帰ってきた。だから殺した」
「なにも殺さなくとも、まだチャンスはあったはずだろ!その爺さんは強かった!実際あんただって、それだけの信頼をおいてたじゃねえか!」
「信頼をおいていた。か。どうやら君は、勘違いをしているね。俺は、何度もチャンスを与えるなんて、一言も言っていない。できないのなら殺す。俺の計画を遅らせる原因を減らせなかったんだ、それくらいが妥当ってものだろ?」
脅している。 それがわかったのはジャマーだけだった。 変に詮索をしたり、命令を果たせなければ いつでも殺すという警告だ。 だが寺具蔵はそれをわかっておらず、 疑問をぶつけ続ける。 なだめようとするが、果たしてそれが逆鱗 に触れないという保証があるかがわからな いので、止められずにいた。 すると案の定、男の顔がゆがむ。
「やかましいよ。君のいいところは、素直なところだと思ってたんだけどね‥悪いが、これ以上はもう看過できない」
そう言って男は、 わめく寺具蔵の肩に手を置く。 すると、寺具蔵の体が凍り始めた。 あっという間に全身に氷が回り、 寺具蔵は氷漬けになってしまった。
「オヤオヤ‥相手は子供ですよ‥?なにもそこまでしなくとも良かったのデハ‥?」
「らしくないじゃないか、ジャマー。安心したまえ、君の権能は便利だ。姫百合や金坂と同じく、君には命が保証されてる」
「ハハ‥‥。喜んでいいのかわからないデスネ。言われなくとも大人しく命令に従いますトモ」
「なに、念には念を、だよ」
ジャマーが冷や汗をかきながら応じている と、 う、ぐ‥ といううめき声が聞こえ た。 見ると、吊るされて黒焦げになっていた老 人が、まだかすかに生きていた。
「おや、コトリさん。生きてたんですね?良かった、これでまた仕事を頼める。あ、今回の失敗は気にしないでください。いまのでチャラなので」
男は、そばにおいてある真剣で、 老人の喉元を刺した。老人は うっ と うめき、再び意識を失った。 つくづくイカれた世界だ、と、 ジャマーは心のなかで呆れていた。
千春たちのいない特葬課では、 百田と赤津、そして鶴吉が、 なにやら神妙な面持ちで話していた。
「今回の襲撃事件で、上が僕たちに圧をかけてきた。次の任務で、百田の言う“死人党”を壊滅させろとのことだ」
「敵の目的はなんなんだい?赤津氏」
「束屍《たばね》だ。なぜ、奴らがそれについて知っているかは知らないが‥それを使ってなにをするつもりなのかはわからない」
「束屍か。それは確か、我らしか知らないはずでは?」
「いや、もう一人だけ、知っている人物はいる。だが、それはありえない。彼は死んだ」
「“ありえない”か。それがありえてしまうのが、この仕事だからなぁ。赤津氏、もしそいつが生きていたとして、なぜあれを狙うと思う?」
「わからない。束屍を手に入れたところで得になるような事は起こらないし、そもそも存在自体マユツバものだ。いまいち狙いが見えない」
「ともかくまず必要なのは、情報だな。他の皆が、もしかしたら手がかりをもっているやもしれん」
百田が言うと、2人はうなづき、 その時ちょうど、輝夜が戻ってきた。 手には大量のの飴玉が、 袋入りでいくつもあった。 輝夜は袋の中から5つ程一気に口に入れ、 バリボリと音をたてて噛み砕く。 3人はそれを見て固まり、絶句する。 静寂を破るように赤津が口を開いた。
「輝夜クン。前から気になっていたんだが、それ、美味しいのかい?」
「いえ、別に。」
「‥‥‥‥そうか。」
相変わらず輝夜は淡々と答える。 赤津は、千春と椎名のいる部屋につながる 内線をかけ、こちらへ来るように伝える。 情報共有のこともそうだが、 なんとなくこの状況に耐えられなくなった のもあったからだった。
コメント
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中盤までシリアス展開だったのに、最後ギャグ風味で面白くて今回個人的に好きです!
飴玉…美味しそう…(♢∆♢)✧キラキラ 続き楽しみしてます。