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「は~い!」
元気に手を上げてくれる子ども達。
「じゃあみんな。今日パンの作り方を教えてくれる先生を紹介しますね。美山 雫先生です」
私は、みんなの前に出て頭を下げた。
「こんにちは。美山 雫です。今日は一緒に美味しいパンを作りましょうね。みんな、エプロンと三角巾の準備はいいですか?」
それぞれ自宅から持参してくれた物を、すでにみんなにつけてもらっていた。
小さなエプロン、とっても可愛らしい。
「じゃあ、始めますね。説明を良く聞いて、わからないところは近くのスタッフのお姉さんや私に何でも聞いて下さいね」
みんな一斉にイスから立ち上がった。
レシピ通りにパンの作り方を説明し、ひとつずつ作業をこなしていく。
子ども達が焦らないよう、ゆっくり丁寧に進めることを心がけた。
なるべく発酵時間が短くなるような生地にして、発酵の間もパンの話を紙芝居にして読んであげたりして、とことん飽きない工夫をした。
そのおかげで、最初は興味のなさそうだった子ども達も、だんだん目がキラキラしてきた。
特に、生地を好きな形にしたり、味を変えてみる作業は本当にみんな楽しそうで……
思い思いのパンを作ってる子ども達からは笑顔が溢れ、笑い声がこぼれた。
わんちゃんやぞうさん、パンダなどの動物や、お花の形にしたり、キャラクターを作ってる子もいた。
小さな子どもの個性には驚かされる。
私もいつか……こんな可愛い子どもを持つことができるのかな?
母親になるなんて、今の自分には想像もつかないけど。
「先生~できましたぁ。ウサギさん」
「うわぁ~本当に上手だね。あきちゃんはウサギさん好き?」
エプロンの胸元に付いてる名札を見て名前を呼んだ。
「うん! だ~い好き。お耳がぴょこんってして可愛いもん」
そう言ってるあきちゃんが可愛い。
たまらなく母性本能がくすぐられた。
そんなことを思ってるうちにみんなのパンができ、後は焼くだけになった。
「じゃあ、今からみんなが作ったパンを焼くから、でき上がるまでお家の人と待ってて下さいね。焼きたてのパンはみんなが一生懸命作ってくれたから、絶対美味しいと思います。帰ってからもお家の人と、このレシピを見ながらまた作ってみてね。今日は本当にありがとうございました。これでパン教室は終わります」
教室の後ろにいた親御さん達の元に子ども達が戻って、みんな部屋を出ていった。
出口のところで子ども達が「ありがとうございました」って言ってくれて、その何ともいえない可愛さになんだかホッとして、今までのいろんなことが全て報われた気がした。
この仕事を引き受けて良かったって、今、改めて思えた。
みんなの笑顔が私の最高の思い出になり、本当に良い経験ができたと感謝した。
それから、パン教室もパンの販売も特に問題なく順調に進み、あっという間にパンのイベントは終了した。
5日間の怒涛のような日々が終わってホッとしたと同時に、子ども達に会えなくなるのはすごく寂しかった。
みんなの喜ぶ顔に元気をもらって、最後まで頑張ることができたから。
あんこさんも『杏』の従業員も、東堂社長も慧君も……
本当にフル回転でやり切って、充実した素敵な5日間だったと全員が口を揃えた。
最終的な売り上げも驚く程で。
あんこさんは「みんなに特別ボーナスを出すから」って、嬉しいことを言ってくれたけど、百貨店でイベントをするということのすごさを改めて思い知った。
前田さんたちスタッフの企画力にも感動したし、いろんな思いが詰まった最高のイベントだった。
でも、結局、仕事が長引いてしまったらしく、祐誠さんには会うことはできなかった。
毎日、何となく「今日は会えるかな?」って考えてる自分がいたから、ちょっと複雑で変な気持ちになった。
とにかく……
百貨店でのパンのイベント、私達の素敵な5日間は大成功で幕を閉じた。