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【僕を壊すのは、君じゃなきゃ嫌だ】
登場人物
ユウト マヒロ
・悠斗 (17) ・真尋 (17)
静まり返った温室の中。
割れたガラスから射し込む月明かりが、血の粒を鈍く照らしていた。
悠斗は木の椅子に座らされ、両手首を後ろで縛られていた。制服の袖は切り裂かれ、白い肌に赤い線が走っている。けれど、その表情は静かだった。
「痛い?」
そう問いかけたのは、真尋。
細い手には彫刻刀(ちょうこくとう)。
悠斗が愛用していた、部活の道具。
真尋はその刃を、まるで恋人の肌を
撫でるように、悠斗の首筋に滑らせた
「……痛くは無いよ。でも、少し冷たい」
悠斗は笑っていた。微かに、(かすかに)でも確かに。
その笑みが、真尋の胸をきゅっと締め付けた。
「悠斗、なんで……なんでそんな顔できるの?僕、君の手をこんなに傷つけてるのに」
「真尋が、俺を見てくれてるから」
それは、狂っているのはどちらなのか分からなくなるような言葉だった。
真尋の方が震える。感情が、怒りか喜びか、混ざりきらないまま溢れそうになる。
「ずっと……ずっと怖かった。悠斗が他の奴と笑う度、心臓が焼けるみたいだった。
ねえ、どうして俺じゃだめなの。なんで『好き』って、言ってくれなかったの…」
「……言ったら、君が壊れてしまいそうだったから」
その一言で、真尋の動きが止まった。
刃が手から落ち、コトリと音を立てる
「壊れてもいいのに。君が好きって言ってくれるなら、壊れる方が楽なのに…」
涙とも笑みともつかない顔で、真尋はしゃがみこみ、悠斗の膝に額(ひたい)を押し付けた。
※額とは、簡単に言うとおでこ
血の匂いか、2人の間に甘く漂う。
「ごめん…俺止められない。好きすぎて、どうにかなりそうなんだよ」
「うん……好きになってくれて、ありがとう。壊されるなら、真尋がいい」
ーーその言葉を最後に、悠斗は目を閉じた。
静かな夜。温室の中で、2人は”やっと”ひとつになった。
痛みと、愛と、取り返しのつかない選択の中で。