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「…今日は、やけに眩暈がするな…」
くるくると微かに回る視界に気持ち悪さを覚えながらも、大日本帝国は弱音を吐かずに訓練に勤しんでいた。
基礎体力向上訓練、射撃訓練、近接戦闘訓練、どれもこれも過酷であり、体調不良の身では辛いものだ。
しかし、日帝は誇り高い人物である。
国民であり兵士であり仲間であり友である人間たちに、そのような姿は晒せない。
吐き気を堪え、体調不良を気合いでどうにかしようと力を入れる。
ピシッと軍服を着こなし、皆の手本になろうと動き続けた。
心なしかいつもより熱い体温を無視して、上手く力の入らない己を律する。
普段から無口無表情の日帝は、誰にも体調不良を悟られなかった。
そうした体調不良が続いた3日後。
本日は中華民国と対談をするため、日帝は体調不良を無視してこの場に来ているのだ。
くるくるぐるぐる、先日の比ではないほどに視界が回る。
ガンガンと金槌で殴られているような頭痛もするし、真夏日のように体が熱い。
「っ…目眩…が…」
回っていた視界が、突如暗転した。
とん、とん、と一定のリズムで叩かれている。
すぐ近くから懐かしい声が聞こえる。
まだ少し熱いものの、頭は冷たく、体は心地良い温もりに近づいていた。
日帝は薄らの目を開け、自分を寝かしつけているであろう人物を見る。
「…だ、れだ…」
はぁはぁと苦しげに息を吐きながらそう言えば、とんとんと叩かれていたリズムが止む。
少し寂しさを覚えるも、相手の返答を待った。
「ようやく起きたネ?俺だヨ、中華民国」
「中華…民国…」
「そうそう。お前がぶっ倒れてたから救護室で看病してやってる、優しい優しい中華民国だヨ」
おちゃらけた調子で言いのける中華民国だが、おかげで状況は把握できる。
相手は一応敵国ではあるものの、熱で頭がふわふわしているのか、それとも単に寝起きだからか。
日帝は警戒のけの字もない様子で、そうか…と言って頷く。
「お前、熱40度くらいあったぞ?倒れるほど具合悪いなら、断ればよかったのに」
そう言って撫でてくれた中華民国の手は冷たく、高熱であるらしい日帝にとっては気持ち良かった。
「まあ、お説教は後にするとして…まだ辛いだろ?もう寝ろヨ」
「…ん…ありがとう…」
目を細めて、日帝は心地良さそうに布団を被り直す。
今更気がついたが、少し涼しかったのは軍服を脱がされて中に来ていたシャツだけだったからのようだ。
動きやすいはずなのに布団ですら重く感じるほど、身体は悲鳴をあげていたらしい。
大人しく目を瞑って枕とシーツに身を委ねれば、すぐに夢の世界が訪れる。
まだ少し息は荒いものの、すやすやと眠り始めた日帝。
中華民国は頭を撫でながら、よくやく一息つけた。
「はぁ…思ったより安定しててよかった…」
多少熱は下がったのか、発見時よりは楽になっている様子の日帝に安堵する。
すぐに温まってしまう濡れタオルを何度も何度も替えながら、すっかり冷え切った手を服で拭う。
「全く…この俺を焦らせるとは、相変わらず油断ならない国だヨ」
ぷにぷにと赤い頬を突ついたり摘んだりして弄ぶ。
可哀想なくらいの高熱だが、ここはあくまで救護室。
氷枕と濡れタオルと解熱薬の用意くらいはできようが、栄養のあるものを作ることはできない。
この生き急ぎは食事を抜くことがよくある。
なので今回のように体調を崩した時、普段の分も合わせて一気にくるのだ。
日帝が 少しでも具合が良くなれば、その時点で飛び出していくことは確実。
日帝は生き急いでいるのか、と言いたくなるほどに真面目でストイックであるため、中華民国的にはもっと人生を楽しんでほしい。
仮にも敵国である自分にできることはほんの少ししかないのだ。
また昔のようにとは絶対にいかないからこそ、いつ命が消えるのかわからないからこそ、美味しいものを食べさせたい。
完全な親心とも言い切れないのはわかっている。
ただ、自分との記憶を増やしたいだけだ。
死ぬその時にだって忘れてほしくなくて、忘れたくなくて。
だからこそこうして敵国の面倒を見ている。
もしそうでなくとも、高熱で倒れているやつを見放すほど冷酷ではないが…
日帝は中華民国からすればまだまだ子供で、我武者羅に突っ走っているようにしか見えない。
しかしながら、そんな日帝に親心以外の思いを抱いているのも事実。
敵国なのに愛でてしまいたい衝動に駆られるのだってきっと、そういうことだ。
静かで薄暗い救護室。
中華民国は温い濡れタオルを替えた後、そっと日帝を抱きしめた。
2人が生きている中で、最後の抱擁だった。
コメント
3件
気付くのめっちゃ遅くなりました、泣きました。 読んで感想書いてから死んできます。 帰ったら爆速で読みます。
言葉で表せない、、、もっと人生謳歌してあわよくば自分との思い出も増やしていきたい中華民国あざと可愛い、、、!でもそんなこと察せなくてどんどん体に鞭打って破滅に突き進んでいくんだろぉなぁ、日帝は、、、ハァ、好きです、もどかし尊い、、、!