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あかりは元の希望通り、占いをはじめた。
とは言っても、普通のタロットでだ。
なにか恐ろしい結果が出たら怖いので……。
「では、この一番上のカードをめくってみてください」
崩れゆく塔が現れた。
タワー、崩壊っ!
あかりは震える手でそれを受け取り、言った。
「良い兆しです」
横で青葉が、
いや、なんか崩れ落ちてってるぞ、という顔をする。
「奥さんが疲れているときは、お弁当を買ってくるか、出前をとってあげると、夫婦の関係が良好になるでしょう」
いやそれ、占い関係ないですよね、という顔で元が苦笑いする。
「でもあの、崩れ落ちてってるみたいなんですけど……」
「こっ、これは、ここ最近のぎくしゃくした関係の崩壊を意味していますっ」
崩壊なくして、再生はあり得ませんっ、とあかりは叫ぶ。
「ご主人っ、たまには料理も手伝ってあげてくださいっ」
……だから、なにも占いじゃないぞ、という顔を青葉もしていた。
元は、いや~、とちょっと頭を掻いてから言う。
「実は、僕、一人暮らしのとき、結構作ってたんで。
料理、そこそこできるんですよ。
で、結婚前に穂月を招いて料理をご馳走したんですけど。
穂月、すねちゃって。
ちょっと凝ったものを作り過ぎちゃったみたいで。
穂月のために頑張ったんですけどね……」
……穂月さん、とあかりは崩れ落ちそうになる。
このタワーのカード、私が崩れ落ちるという意味だったのか。
ご主人が料理作らないの、穂月さんのせいだったんじゃないですか~。
そのときの穂月は、自分より料理が上手い彼氏に、ちょっと拗ねてみただけだったのだろうが……。
「えーと。
そのときとは、状況が違うので。
今なら、料理してあげたら喜ぶと思いますよ」
「そうなんですかね……」
と言う元はまだ不安そうだった。
あかりは店内のランプを見て、ふと、穂月の言葉を思い出す。
「穂月さんのお父さんは、キャンプにはまってるそうですが。
ご主人はキャンプとかは」
「ああ、穂月のお父さんとたまに二人で行きますよ。
男二人で料理して、夜空を見上げながら、一杯やるの、格別です。
……お互い、奥さんへの愚痴を言ったりして」
ははは……と元は笑ってみせる。
「キャンプ飯ならどうですか?」
「え?」
「男らしい感じのキャンプ飯とかなら、角が立たないのでは」
「あっ、いいですねー。
庭で調理してみんなで食べるのとか、穂月もいい気分転換になるかもしれないし。
うん。
やってみよう」
と言ったあとで、元はすぐ近くにあったランプを手に取った。
「このランプ、素敵ですね。
ひとつください。
庭の木にぶら下げて、この下で料理したり、食べたりしたらよさそうだ」
「なんかすみませんね」
買ってもらって申し訳なく、あかりがそう言うと、
「いやいや、なに言ってるんですか。
ほんとうにお世話になりました」
それに、このランプ、ほんとうに素敵です、と元は言ってくれる。
「ところで、キャンプグッズはおかないんですか?
テントとか」
と元はキョロキョロ店内を見回しはじめた。
「……こ、今度から置きますね」
遠からず、この店は、キャンプグッズと雑貨を扱う、占いカフェになるだろう。
「お、これはなんのカードだ、あかり」
二人がもう占いそっちのけで話しはじめたので、青葉はひとり、見よう見まねでタロットをやってみていたようだ。
回る歯車のカードを青葉は手にしていた。
「それは、運命の輪です。
今までと違う局面に向かい、運命が動き出す」
いい意味もあり、悪い意味もある。
どっちでも、とりようかな、とあかりは思う。
運命にもてあそばれるって意味もあるけど、と思ったとき、元が青葉に言った。
「そうだ。
秋の運動会、入園前の子たちも出るんですよ。
父兄も競技に参加したりして、結構盛り上がりますよ。
ご主人も来られますか?」
一緒に走りましょうっ、と爽やかに誘われている。
「いいですね。
行きましょうっ。
私が日向の父ですからっ」
と事情を知らない人には、何故、そこで父であることを強調する? と思われそうなことを青葉は叫ぶ。
だが、そこで、いきなり大吾がやってきた。
「話は聞かせてもらった」
いや、何処から……。
「その運動会には俺が出る。
日向の未来の父だからなっ」
「日向の父親は過去も未来も俺ひとりだっ」
よく似た二人が揉めはじめるのを見て、元が、えーっ? と困った顔をする。
そんな平和な夜。
来斗が呪文を発動した――。