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体調不良ということになっていたようで、同僚には頑張り過ぎだと言われ笑って誤魔化した。
そして、いつもならねっちりとした視線を向けて座っている宇座課長の席は綺麗に片付けられていた。
「朝、警察が来て何か持っていった後、総務の人ががっつりと片付けて行ったんですよ」
プロジェクトのメンバーである佐々木さんが教えてくれた。
そして
「どうやら退職した人が宇座課長を訴えてるらしい」
やっぱり、私は未遂だったけど被害にあった人がいたんだ。
席についてパソコンの電源を入れると社内チャットに里中君から
[おつかれさまです。出社されましたら総務までお願いします]
とメッセージが入っていた為、今から伺いますと返事を送信してから総務部に向かうと案内された応接室には総務部長と里中君が待っていた。
里中君が昨日のことを説明してくれたんだろうか?セクハラを受けていたことも知っているしその件も報告してくれているんだろうか?
などと考えていると総務部長がおもむろに立ち上がると里中君と共に頭を下げた。
想定外のことで一旦座ったソファから立ちあがろうと中腰になったところで、部長が手のひらを上下させて座りなさいとジェスチャーをする。
「この度は大変な思いをさせて申し訳なかった。今回の件で怪我をしているようなら労災を申請することもできますが」
労災だと怪我をした経緯とか話をしなくてはいけないだろうし、それは嫌だ。
「いえ」
「里中君から話を聞いていて、これまでもハラスメント行為を受けていたと報告をもらってます。起訴されますか?」
「まだ考えていないです」
「そうですか、この件についての窓口は里中君に任せておりますので相談などがあるようでしたら遠慮なく言ってください」
そう言うと部長は出ていき里中君は残った。
やっぱり総務部長と里中君は繋がっていたんだ。
「奥山さん大丈夫ですか?」
目の下にクマが若さだけでは隠し切れないほどクッキリと出ている。
「私が起訴しなければ、あの人は無罪になるんですよね」
里中君はまっすぐに私を見て
「奥山さんにだけ伝えておきます。僕は社長の甥で倫理委員会の会員になります。今回、宇座氏」と言ってから一拍置いて
「宇座氏は先日付で懲戒解雇処分になってます。それから、もし奥山さんが起訴をしなくても宇座氏は最低2名の方から起訴されます。ですので、無罪になることはありません」
「やっぱり他にも居たんですね」
「僕の認識が甘かったです。スマホに証拠写真があることは被害者から聞いていて、セクハラやモラハラの実態調査をしていきその証拠を集め宇座氏を倫理委員会に呼びスマホやパソコンなどを確認する予定でした」
「だから、私に証拠を残すように言っていたのね」
「はい、奥山さん以外にもセクハラやモラハラを受けていた方はいたのですが、あからさまだったのは奥山さんでしたので、僕の方でも奥山さんをメインに証拠を集めてました」
いつも、タイミングよく助けてくれていたのはそういうことだったのかと納得した。
「もう少し、証拠をと考えていたのが裏目に出てしまい奥山さんに怖い思いをさせてしまって申し訳なかったです」
「新人で総務からの出向とか変だと思った」
「ですよね、僕が入社するちょっと前に画像と動画で脅されて関係を強要され怖くなって退職したという方から相談を受けたという社員から総務の女性社員に相談があり倫理委員会で宇座氏についての調査をすることになり、僕ならば宇座氏に警戒されることはないだろうということで新人研修の一環としていくつかの部署へ出向することになりました。その中で、被害にあっている方を見つけて相談を受けていたのですが警察に訴えるとデータを流出されるのが怖いということで先ずは宇座氏のスマホなどのデータをどうやって確保するかということを考えているところでした」
「データは出てきたんですか?」
出てきたんだろう、私も撮られたし
「スマホだけでなく画像サイト上に保存してました。共有はかけていないですが流出の危険性があったことを考えると怖いですよね」
「そうですよね。それほどパソコンやアプリに詳しいとも思えないですし」
「その画像からかなり前からそういうことが行われていたようです。被害者は増える可能性が高いです。それで、現従業員、元従業員は会社で弁護士を立てる予定です。プライバシーはもちろん守りますが、社でやるとなるとどうしても一部には知られてしまいます」
私は未遂だったが宇座課長を許したくない。だけど、裁判でまた嫌な思いをするのは嫌だ。
凌太に頼ってばかりだけど、弁護士を紹介してくれると言っていた。
それなら
「こちらで弁護士に頼んで示談にしようと思います。まだ、確定ではないですが」
「わかりました。こちらにもいつでも相談してください。それから、バレンタインの企画が終わったら総務に戻ります。短い期間でしたが勉強になりました。」
「こちらこそ、って。まだだけどね」
そう言って立ち上がってから昨夜のことを聞いてみた。
「昨日は本当にありがとう。でもどうして私があそこにいると思ったの?」
「廊下で会った時、奥山さんが資料を持っていたのと僕がデスクに戻った時に入れ替わりで宇座氏が出て行ったので気になって途中まで付いて行ったんですが異様に周囲を気にしていたのと資料室へ続く廊下を歩いていたので念のためセキュリティ室へ鍵を取りに行って警備の方と一緒に行ったら、普段鍵をかけていないはずなのに鍵が掛かっていたからもしかしたらと思いました」
「里中君は幹部候補ということなのよね。いい上司になりそう。」
自分のデスクに戻ると、宇座課長について〔横領してたらしい〕〔とうとうセクハラで訴えられた〕〔不倫がバレた〕〔パソコンの中はエロ画像が大量〕など少しの事実とデマが色々とささやかれていた。
[荷物があるから迎えに行く]
凌太からメッセージが入り弁護士のことも相談したかったので、凌太のマンションか凌太の会社の近くに行くとメッセージを返した。
7時にマンションに行くことになったが、凌太は大丈夫なんだろうか?
そんなことを考えながら会社をでて駅に向かって歩いていると軽く一度だけクラクションが鳴り、振り向くと白い軽自動車が止まった。
「Ryoさん、どうしたんですか?」
ウィンドウが下がりそこからさわやかな笑顔の三島亮二が顔を出した。
「お客様のところからの帰りなんですが、もしかしたら里中君か奥山さんに会えるかもって思っていたところなんです」
「そうなんですね、もしかすると以前もこんな風にすれ違っていたかもしれないですね」
「営業車でアレですが、食事でもどうですか?」
「この後予定があって、また今度さそってください」
がっかりしたような表情を隠すことなく「じゃあ明日は?」と聞いてくる。
「今週は色々と忙しくて」
「そうですか、じゃあラインをしますね」
あまりにグイグイとくるので面食らっているとRyoは言うだけ言って車を発進させた。
Ryoさんてあんなにグイグイくるひとだったんだ。
食事をした時はあまりわからなかった.あまりグイグイくる人ってちょっと苦手だなとおもいながら、電車で凌太のマンションに向かった。