テラーノベル
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「ありがとうございました。お嬢さん方、またいらしてください。」「えへへ……またね〜。」
「…………。」
「お騒がせしましたね、マスター……また近いうちに……。」
目を覚ましたが、千鳥足の麗奈。
顔を赤くしながらも、口調は冷静な晶。
少なくとも見た感じは素面で、ブレずにいる優香。
三者三様の三人は、扉を通り抜け、すっかり夜になった街へと出ていく。
「…………頑張ってください、坊っちゃん。」
バーテンダーは通り過ぎる晶につぶやいた。
そのつぶやきを優香は聞き逃さなかった。
無表情のまま、優香は「坊っちゃん」という、バーテンダーの晶に対する呼び方の意味を考えていた。
晶達三人がバーを出る。
オフィスビルが立ち並ぶだけのコンクールジャングルから2区画離れると、今度は風俗店がしのぎを削り合うビルが立ち並んでいる。
それらのビルから出っ張っている看板のネオンが眩しい。
道路を挟んで、その区画の近くを通りがかった三人。
ふと立ち止まり、ネオンの灯りを数秒見つめる晶の目には、何か悲しさが浮かんでいた。
優香は、それまでの九頭竜晶と名乗る男らしくない目に意表を突かれた。
「…………そういえば、一度女の人に質問したかったことがあるんですけど、お二人ならどう思うかな?」
「なーにぃ、晶さん?」
「…………?」
「ああいう大人の……夜の店に働く女の人は、多かれ少なかれ存在しますけど……麗奈さんと優香さんは、その人達のことどう思います?」
「え〜、何言ってるの晶さん?」
「…………。」
「麗奈さんは、大人の店で働く人……同じ女性としてどう思います?」
「あそこのエリアの?……あははっ!ないない!ありえない!あんな所で働くなんて終わってる〜!」
「終わってる?」
「お金のためなら好きでもない人とエッチなことするんだよ?ありえなくない?プライドないのかな?バカみたい!あははっ!」
麗奈が風俗店で働く人達を嗤う。
一瞬……。
それはほんの一瞬だったと思う……。
何かが熱くなる気配……怒り……。
暴力の予感……殺気……。
それらを優香は感じ取っていた。
晶の全身の毛が逆立った。
晶の身の回りの空気が、さっきまでの優男の醸し出す空気ではなかった。。
まるで氷の入った水が、一瞬で、思わず投げ捨ててしまう程の熱さに沸き上がったような……その熱さ。
そうとでも表現したらいいのだろうか?
とにかく、一瞬ではあるが、優香はそう感じ取っていた。
「…………え?」
優香が思わずそう口にした時には、晶からその気配は無くっていた。
「…………優香さんはどう思います?」
晶の言葉が、次は優香に投げかけられた。
「…………私なら無理。」
その言葉に、一瞬、晶の目が冷たく、怒りに満ちたような目になった。
「でしょ〜?優香もあんな仕事ありえないよね〜?」
「…………違う。」
「……優香さんの『違う』とは?」
「…………好きでもない男の前で裸になる。嬲られる。やり通すなら、かなりの我慢強さや根気よさが必要だと思う。」
「…………そうですか。」
優香には、晶が一瞬感心したように見えた。
「あ〜……でも、私晶さんとなら平気かも?」
「あははっ……嬉しいですね!まぁ、それは近いうちに……おっと!」
晶はすかさずタクシーを呼び止める。
「それじゃあ、今日はこれで……。」
「あ〜ん、もう晶さん帰っちゃうの?」
「すいません、明日も朝早いもので、…麗奈さん、今日はありがとう!また会えるかな?」
「もちろんです〜!絶対会う!じゃあね、晶さん!」
「…………。」
タクシーに乗り込む麗奈。
続いて優香が乗り込もうとする。
「水曜日…楽しみにしてます。」
晶は優香にだけ聞こえるようにつぶやいた。
「…………。」
優香は晶を一瞥すると、タクシーに乗り込んだ。
二人を乗せたタクシーを見送る晶……。
九頭竜晶と名乗る男の脳裏に、過去の苦い思い出がフラッシュバックした。
「……苦労知らずのお嬢様が分かるわけねぇよな。」
九頭竜晶と名乗る男は、一人夜の街に佇んでいた。
つづく
#オリジナル
柿の木七味
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コメント
1件
読み終わりました。このエピソード、結構重いテーマをさらっと挟んできたなという印象です。風俗店で働く女性に対する麗奈さんと優香さんの捉え方の差が明確で、特に優香さんの「好きでもない男の前で裸になる…かなりの我慢強さや根気よさが必要」という冷静な分析に、彼女の視点の現実味を感じました。そして晶さんの一瞬の怒りと殺気――あれは絶対に過去の何かと繋がってますよね。“坊っちゃん”呼びも含めて、優香さんがどこまで気づくのか、水曜日が楽しみです。