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──ベッドで寝ていた私は、朝早くに彼に起こされて目を覚ました。
「……ん、先生、どうされたんですか?」
瞼をこすりながら枕の傍らに置いていたスマホの時計を覗くと、まだ朝の5時を過ぎた頃だった。
「こちらに来てみてください」
彼に手を引かれるまま窓辺に寄ると──
幻想的な白い靄のような雲海に覆われて、まるで天空に浮かんでいるかのように、小高い山の上に建つホーエンツォレルン城が、朝焼けの光に照り輝いていた──。
「…………。」
言葉もなく、絶景の美しさに目を見張る。
「……素晴らしいでしょう?」
彼の言葉に「ええ…」と頷いて返す。
「……おとぎの国のお城みたい」
「おとぎの国ですか、ではあの城には君のような姫がいるのかもしれませんね」
彼が微笑んで、私の身体を傍らへそっと抱き寄せる。
「なら一臣さんは、王子様ですね。昨日の挙式でのタキシード姿は、本物の王子様のようでした」
「…ふっ」と彼が小さく笑いを浮かべて、
「では、お手を、姫…」
と、私の手を取り、目の前にスッと片膝をついた。
跪いた姿で、おとぎ話の世界から抜け出してきたかのような端正な顔立ちでじっと見つめられて、
本当にお城の王子様にでも見初められたかのように、立ちすくんだまま身じろぎも出来ずにいると、
「愛しき姫に、私の永遠の愛を誓いましょう」
さながらおとぎ話の中の王子様のような優雅な所作で、私の手の甲にふっと口づけを落とした……。
──ホテルで朝食を終えた後、二人でドイツの街並みを散策に出かけた。
お洒落な佇まいのカフェでベーグルと紅茶を愉しんだり、物珍しい雑貨を売るお店や古い時代のアンティーク商品を扱うお店を覗いたり、原書を買いたいと言う彼と共に本屋に立ち寄ったりした。
そのどんなシーンでもごく自然にドイツ語を操る彼には惹かれるばかりで、ますます魅了されてしまうようだった……。
……夕方になると、クリスマスマーケットに多くの人が集まって来て、私たちもマーケットが催されている聖堂前の広場にもう一度出向いた。
最初に訪れた昼間の時とは違い、大きなクリスマスツリーやサンタクロース、トナカイにスノーマンのオブジェなどが色鮮やかなイルミネーションに彩られた煌びやかな様には、まるで子供みたいにもわくわくとして心踊るみたいだった。
「少し寒くありませんか?」
開いたコートの内側に私の身体を引き寄せた彼が、「あっ…」と小さく口に出して、空を仰いだ。
彼の視線を辿り空を同じように見上げると、ちらちらと雪が舞い始めていた。
「君といると、本当によく雪が降りますね…」
彼の言葉に、いつか別荘で見たしんしんと降る雪や、ススキに音もなく降り積もっていた雪のシーンが頭をよぎった。
「この先も、あなたとずっとこんな風に、思い出を重ねていけたらって……」
「ええ、私も……君と、ずっといつまでも共にありたいと……」
頬が両手で挟まれて唇がそっと重ねられると、雪の降る寒さの中でもじんわりとあたたかな思いに包まれていくのが感じられるようだった……。