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「…貴方…誰?何者なの…?」
脳が知識を欲して、唯一出た質問がそれだった。
彼は視認できる空気に黒い羽を浮かせてこう言った。
『僕は傍観者さ。この空気にいるたった1人の、ね。』
白いコートを翻して、彼は風を仰いだ。
ネオンの光が人を貫くその街では、少しミスマッチではないかと思った。
『名前は知らなくて良い。好きに読んでくれれば良いよ。』
そういうものだから、という目をした後、毳毳しい桃色に指を埋めた。
広い背中が遠ざかって行き、なんだか「ついて来い」と言われている気がした。
目紛しいような情景を通り越していくと、世界がまた輝きを帯びているように様変わりした。
自分の家のような安心感があるソコは、爛れたような腐敗臭さえ感じてしまうほどだった。
『不思議だろう。この街が君に反応を起こしているんだ。』
男が呟いた。
「反応…?」
『この街は静かな揺れを認知して輝く街なんだ。』
あっちで話そうと言わんばかりに、彼は指を動かした。
漆器が並べられているが、そこには料理も、飲み物さえもなかった。
椅子は、さっきまでここに誰かが座っていたよ、と物語っている。
『まずは、簡単に。身近なことから話していこうか、デジャヴって知ってる?』
「名前と、なんとなくの意味であれば。」
『それで良い。デジャヴ、簡単に言うと「あれ、前もあったような…」って言う既視感を感じることだ。』
影が3つ、4つと増えて行き、時は夕暮れになった。太陽が逆向きに動いている。
西日が目を刺し、彼の顔立ちがはっきりと濃く映し出される。
澄んだような青い瞳と、かきあげている前髪が少し乱れていた。
『でも、人たちはまあ良いかで押し流すだろう?その間がこの世界だ。
不思議と時空の揺れが生じて、一度見た景色が再構築されるんだ。』
なんとなくだが理解できる様な現象が巻き起こる。
さっき知識を欲した脳は、もう良いと外方を向いていた。
『めっちゃざっくり言うと時空の歪みで作られた世界。通って行ってる歪んだ人間は全部本当の世界からモニターで映し出された擬似人間みたいなもんだ。』
「…この世界に本当の人間は貴方と私しかいない…って事?」
そうだね、と彼は呟いた。
灰緑色の髪が、紅の漆器を茶色に染めていた。
『これを持っておくと良い。』
そう言って彼から渡されたのは、鴉の形をしたガラス細工だった。
『街たちが君を受け入れてくれる、夜鳥のお守りだ。』
よく見ると、羽の先が小さく燃えた様に、銀色に光っていた。
ふと、此処に来る時に追いかけたあの一回り大きい鴉のことを思い出した。
「…これは、あの子と同じ?」
『…さぁ、その子かもしれないし、全く別の子か。将又、その子の親なのかもしれないね。』
切れ長なアーモンドアイで、彼は影の形をした人間を見つけた。