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辛いことを忘れたいとき、世界から消えちゃいたいときはどうしますか?
《そんな時は最近あった良い事を頭の中で思い浮かべましょう》
いろんな本を読んで調べて見たけど、書いてあるのは大体こんな感じの内容で多少脚色されただけで、
みんなおんなじ。
辛いことを忘れたい、消えたいって思ってるときは
あたしの場合、最近嫌なことがあったからで、そんな方法を提示されたって実践できるわけないから仕方なく昔のことを思い出す。
その思い出だって良いことじゃなく、いっぱいある嫌なことを少しの良いことで薄めた〈良い思い出〉だけど、嫌な今を忘れられるのは間違いなかったから
あたしが小さかった7.8歳くらいだった頃、国の外交官をしていた父はよくお屋敷に偉い人を招き入れることが多く、ほとんど毎晩社交会が開かれてた。
今のあたしだったら自分の家に他人が毎日来るなんて考えられないけど、戦争中に社交会を開く余裕はなく、何より昔のあたしはほとんど家に閉じ込められて
誰かと遅ぶ時なんてなかったから、偉い人たちが連れてくる同じ年齢の子たちと一緒に遊べるのが嬉しかった。
国の重要な役割を担ってるあたしの家は他の家と比べて少し裕福らしく、自室には珍しい装飾品や本が沢山
あった。
今よりはマシだけど、やっぱり他人と話すのは苦手な昔のあたしはそれに興味を持ってくれる子たちと本を読んだり、装飾品で着飾ったりしたことを今でも鮮明に瞼の裏に思い浮かぶ。
特に他国の子たちが着てる見たことが無い服やドレスという服等を見るのはすごく新鮮で、外に出れないあたしにとっては唯一無二の刺激だった。
楽しかったのはそれくらい。他にもあったかもしれないけど嫌なことが大きすぎて、良いことじゃ隠しきれないから思い出すのはやめた。
昔の良い思い出に浸りすぎると今を生きるのが辛くなるから、良いことを思い浮かべろって本の言葉は間違ってるんだなって思う。だってこれを正しいと思う人はきっと心の底から辛い、消えたいなんて思ったこと
すらないだから。
だからあたしは辛くて忘れたくて、逃げたくて消えたい今を必死になって生きている。
それがあたしのせいで死んでしまった人たちへの
あたしにできる精一杯の手向けだと思うから―
第1話 終わり