テラーノベル
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こんにちは、くろたです。
最終話ですよ。
⚠︎政治的意図なし
完全なるフィクションです。犯罪を教唆するものではありません。
「…った‼︎やった!やっと帰れる…‼︎」
いつぶりか、声を張り上げる。
忘れかけた喜声が、不格好に耳をついた。
嫌に空回るその声を眺めて、看守は労うように微笑んでいた。
きっと彼には僕の声がさぞ晴れやかに聞こえているんだろう。
それがことの終わりと、かけた気がした正当性を無理やり実感させた。
あのサイズの合わない囚人服も埃っぽい部屋も、全部終わりか。
残したものなんてない。あの場所に僕がいたという証拠は、何ひとつ残らない。
気にしない。気にすることは何もない。
近づく蒼穹が目を刺した。その青さがいたかった。
2日…。いや、2日と9時間。
日本が帰ってこない。
過ぎていく時間が、胸の奥で微かに蠢いていた嫌な予感を、少しずつ現実へと近づけていく。
考えたくないし、これが現実だとも思いたくない。
しかし、今まで散々現実主義的に生きてきた俺の頭は、望みなどお構いなしにそれが現実だと鳴らす。
…潜入捜査官としての任期が終わった。
それが、考えられる中で、最も蓋然性が高い。
…いや。分かっていたことだろう。
あいつの正体を知ってからずっと。終わりは来ると。
だが、心の何処かで、日本はこっちを選んでくれるんじゃないかと、盲信していた。
日本がいなくなってからぴくりとも動かなくなったロシアと、未だ日本が帰ってくると漠然とつぶやいているアメリカを振り返る。
時の流れを感じないように、頭ではわかっている現実を見ないように。
一見すると、日本が来る前の状態に戻ったようにしか見えないだろう。
ただ、そこに違いがあるとすれば、今の俺達には、埋めていた穴の大きさが分かってしまったということだ。
一度そこに何かを置いてしまえば、失った時に痛みを覚える。
そういうことなのだろう。
空気が重い。その一端を自分自身が担っていることが、どうしようもなく辛かった。
溺れた魚のような。行き場をなくした感情が胸の内に滞っている。血の巡りまで悪くなったような気がした。
「…おい、飯の時間だが」
やけに機嫌悪く、めんどくさそうに扉を開ける看守。
何で俺が、と言わんばかりに眉を顰め、かけられもしない圧のこもった視線を向けられる。
…確か、一番最初に日本に付き添っていたのもこいつだった。
アメリカも気がついたらしい。
ゆっくりとそれに目をやる。取り繕う笑みすら浮かべずに。
「…日本は?」
低くそれだけ。
看守は驚いたように目を瞬かせた。
だが、その顔は、すぐに嘲笑に満ちた。
「何だ、お前等、本当にずっと騙されてたんだな!」
「…は?」
ロシアがぴくりと顔を上げる。
「あの人は帰ったよ。」
「帰ったってなんだ。騙されてたって…それにあの人って、その呼び方は…!?」
聞いたこともない声量で捲し立てるロシアに、こちらまで気圧される。
突き刺すような視線も、そこに滲む殺気も意に介さず、看守は愉快そうに笑っていた。
…楽しそうな声が癪に触る。
ただ…『騙されていた』その範囲だけが、気にかかる。
この喜び様…日本が囚人だと偽っていたことだけ…で済んでくれるんだろうか。
…日本が俺たちを売るような人間ではないと、思ってはいるが、これも盲信に過ぎない。
「当たり前だろ。あの人は俺の上司だしな。」
「おいどういうことだ」
アメリカの声。隠しきれなかった動揺が、わずかに漏れ出ていた。
「はあ?そこまで説明しないと駄目か?ずっとお前等を騙して、情報を抜き取ってたわけ」
「…っ……」
ロシアが愕然と立ち尽くす。
「随分絆されてる様だったからなぁ」
「…は?」
クツクツと大げさに、耳障りな笑い声に眩暈がする。
アメリカが今にも殴り掛そうな目で、看守を見据えていた。
おそらく全員、最悪な結末に矢を打たれた。
絆された。罠にかかったネズミをわざとらしく見せつけるような声。
待て……まさか。本当に。
裏切られた…?
「……なんで」
ロシアの途切れた声。誰にも聞こえないように掠れたそれが、酷く悲痛に聞こえた。
言いたいことは色々あるだろう。
『なんであの時間を本物だと思わせた』と。
…身の上の話。記録を揉み消すのは、俺からすれば簡単な事だ。
だから痛い。どれもこれも可能性としては存在していた事象だったというのに。
今でさえ、俺はその事実を受け入れようとしてくれない。
「…おい、なんだその顔」
さっきまで笑っていたはずの看守が、興醒めたとでも言うように、こちらを見下げた。
「もう少し動揺くらいしろよ、つまんねぇな。健気な警察さんは無駄な努力ご苦労さまってか?」
「…え」
俺達の表情などろくに見ていないだろう看守は、苛立たしげに地団駄を踏んだ。
なんだ急に。
2日前。潜入捜査が今しがた終わったばかりだというのに、上司に呼び出された。
労るという言葉を教えてやりたい。少しくらい休みをよこせ。
まぁそんなこと言える立場ではないが。
「さて、お疲れ様日本くん」
「はは…」
上っ面だけの謝意に、内心舌を打つ。
「単刀直入に聞こうか。成果はどうだった?」
柔らかな物腰とは裏腹に、確かな圧を感じる。
勿論、何か情報を持ってきたんだろうな、とでも言いたげな。
最高に癪に障る顔をどうも。
「……」
…なんだかんだ、悪くはなかったよ。
懺悔とも言えぬ言い訳を吐いて。
口を開いた。
「………は?」
「は?はこっちのセリフだ。ほんっとにお前等厄介な奴らだな」
看守のブーイングなど、もはやどうでもいい。
日本がした報告。
『囚人の過去や経歴などを探るに値する決定的な情報は聞き出せなかった』
さっきから看守が苛ついているのはそのせいだったか。
さしずめ、期待していた成果が得られなかった腹いせに、俺達へ八つ当たりしたというところだろう。
……日本の報告は言うまでもなく嘘だ。
全てといっていいほど話した。
…駄目だ、まだ笑うな。
日本が俺たちを庇ったことが。いや、それ以上に、日本を信じてしまった俺たちを否定しなくていいことが、ただ嬉しかった。
黙りこくった俺たちに、完全に興味が失せたのか、看守はぐだぐだと不平不満を垂れながら去っていった。
その姿が見えなくなった途端、堪えていたものが溢れるように、笑みがこぼれた。
恐らく、全員。
「…なあ」
アメリカが弾む声で言った。
「これ、日本から誘われたってことで良いか」
「ああ」
「異論無い」
先のこともうはわかる。借りは返す。
単純明快だ。
久々に心臓が赤く熱を帯びた。
潜入捜査が終わってから、有給も取れずに数週間。
そろそろストライキを起こしたい。
助けて労基。
既に散々酷使された手は、休むことも許されずキーボードを叩く。
つい最近、長らく行き詰まっていた事件が急に解決したらしい。
そのおかげで、少しは胃痛が軽減されたのがせめてもの救いか。……喜びの代わりに瞼が疲労で痙攣したが。
「日本さん!」
形骸化した行動を乱すように、乱雑にオフィスの扉が開け放たれる。
「…なんですか」
声の方を見れば、やけに息を切らした同僚が目についた。
「日本さんに会わせろっていう人たちが来てて…!」
興奮した様子で、矢継ぎ早に告げられる。
静寂に慣れていた耳が、驚いたように耳を震わす。
「僕にですか?」
「はい」
…何かしたっけな…。
正直心当たりがない。
しかし、この慌て様。ただの一般人が押しかけてきたわけではなさそうだ。
全く、めんどくさい。
渋々席を立つ。籠もった熱が逃げて、乾いた空気が肌に触れた。
どこかざわつくような心地のまま、踏み出した。
「…失礼します」
扉に好き嫌いなんて感情は普通は湧かないものだが、僕はこの扉が嫌いだ。
扉の先に待つであろう上司…そして僕に会いたいという来訪者。
わざわざ上司のところまで来るなんてますます普通の人ではない。
…めんどくさいのは嫌だな…。
「日本」
扉を開けた瞬間集まる視線。
上司のものではないのに聞き覚えのある声。
疲労の中で散々聞いた声。
………おい待て。
「………なんでいるんですか…!?」
呆れるほど見てきた人等。
監視対象だったはずの3人が目の前に佇んでいた。
「あぁ、彼等、日本くんに用があるようだから、よろしく頼んだよ」
力の限り体を縮こめていたであろう上司は、そう言うが早いがとっとと出ていってしまった。
おい逃げんな。行かないでください、本当に。
「…haha!久しぶりだな。…会いたかった」
声の主を確認する前に体に走る衝撃。
抱きしめられたと気付くのは、その数秒後だった。
「え…あぁ…まぁ…お久しぶりで…」
望まぬ情報の供給過多により、半分処理落ちしかけた頭で答える。
「日本、ありがとうな」
ドイツさんに手を包み込まれる。
今しれっとアメリカさん押しのけたろ貴方。
「ありがとう…とは?」
もう色々とツッコミどころがあるが、僕は彼らに感謝されるようなことをした覚えがない。
「…看守から聞いた、日本の報告のこと」
後ろからロシアさんが顔を覗かせる。
報告…あぁ、あれか。
「ありがとう…って…。僕は別に、なんも…」
「まさか日本があんな大胆な嘘つくとはな」
驚いた、と茶化すように肩をすくめるアメリカさん。
「いや、嘘じゃないです。言わなかっただけで…」
あの時、馬鹿なことしてると自分でもわかっていた。
ただ、どれだけ自分を責め立てようと、その心は後悔の文字を語ってはくれなかった。
「…言いたくなかっただけです。」
戸惑うようにそういえば、眼鏡の奥の瞳が心底嬉しそうにゆっくりと細められた。
「いや、というか、なんでいるんですか!?」
危ない。三人のペースにのまれるところだった。
そもそも囚人である彼等がなんでこんなところにいるんだ。
「お前が言ったんだろ?」
アメリカさんがさも当然のように言う。
なにそれ知らん。
「言っていただろう。新聞を読んでいた時、『凄く助かる』と」
ドイツさんが先を引き継ぐ。
新聞を読んでいた時…ああ、三人が急に事件を批評し始めた時か…。
いや確かに助かるとは思ったけど…。
「…ん?…まさか最近急に解決したって言ってたあの事件って…」
「サプライズプレゼントみたいなもんだ」
おいマジか。
さっきまで必死こいて終わらせていた仕事が、まさか彼らの仕業だとは…。
あまりに突拍子もなく解決していたから、妙だとは思っていた。思ってはいたが…。
いや…えぇ…?
「えーと…つまり事件解決の役に立つからここに来た…と…?」
「…まあ、大筋はそんなものだな」
そんなものだな、じゃねえよロシアさん。
どこの刑事ドラマだよ。
「いや…貴方達囚人でしょう…?」
お世辞にもこんなところに野放しにしていいような存在じゃない。
「勿論、俺達にも監視役はついてる」
あ、良かった。
「日本の、な」
良くない。
おい良い笑顔だなアメリカさん。
「…よろしくな、日本」
よろしくないんですよ。
一向に離れようとしないロシアさんを見上げる。
えー…と……ちょっと待てよ………。
つまりどういうことだ…。
だんだん冷えてきた頭が裏目に出たらしい。
ますますわからない。
「…えーと…あー…お、お元気でしたか?」
進み続ける話に一旦タンマをかけるが如く、当たり障りのない挨拶を。
「心配してくれてたのか?」
アメリカさんが意外そうに眉を上げた。
それでもその顔が嬉しそうなのは、多分幻覚。そういうことにしておきたい。
「いや…まぁ…それなりには…」
嘘じゃない。実際、何度か頭をちらついたことはあるし…。
それなりに長い時間一緒に過ごしてきたのだから、無感情ではいられないだろう。
まぁ…要は少し心配していた。多分。
僕の言わんとしていることが伝わったのかなんなのか。
せっかく緩まってきていた腕にまた力が入る。
「はー…お前ほんとに…可愛いなぁ…」
とても失礼。
だが、頭上から降るアメリカさんの声があまりに幸福を帯びるものだから、何も言えなくなった。
「大丈夫だ。これからはずっと一緒だから」
ゆるりと口元を緩めるドイツさんの、出会った頃とはまるで違う笑い方。
こうも人は変わるものかと呑気に感心する。
………ん?ずっと?
「え?」
「勿論、彼にはついさっき許可を取ったところだ」
依然として楽しそうに続けるドイツさん。
彼、とは上司のことだろう。
成程。あの怯えようはそのせいだったか。
そりゃこんな異端囚人3人に囲まれたら誰だって逃げたくなるだろう。
まぁ同情する余地はないが。
…というか何ちゃっかり許可出してんだあの上司は…。相手は囚人だぞ。
今からでも撤回を…。
「…どうした?」
上司を追いかけようと振り返れば、いや、振り返る間もなく腕を引かれる。
そう力を込められているわけではないが、振り解けそうにない。
「いや…監視役、僕じゃなくてもいいでしょう?僕よりも適任の人なんて他にいくらでもいますし…」
そうロシアさんを見上げて言えば、心底理解できないとでも言いたげな目を向けられた。
「…監視役が日本以外なら、情報提供する気はないが」
「はい⁉︎⁉︎」
当たり前の様にそんなこと言われても困る。
僕が一体何をしたっていうんだ。
「日本そんな大声出せたんだな」
呑気にそう言うアメリカさん。
あぁ…また僕を置いて話が転がっていく…。
せき止めようが無さそうだ。
「…もうやだこの仕事……」
ヤケクソのようにそう呟く。
…聞く気のなさそうな三人の協力者に向けて。
本編これにて終了となります。
初めての長編作品でしたが、いかがでしたか?
小説のいろはもよくわかってないひよっこが書いたものですから、杜撰なところもたくさんありましたが…。(実際読み返して、酷すぎて悶絶したりしてました)
勢いで書き始めた今作ですが、思った以上にたくさんの方々に反応をいただき、嬉しい限りです。
気が向いたら後日談(というかおまけですかね)を出せたらいいなと思っています。
それでは、さよなら。
コメント
17件
………(゚∀゚)ぇ終わっちゃった⁈! 🇯🇵を追うために来た🇺🇸🇷🇺🇩🇪の 執着心が行動に映ったと思ったら 、まさかの監視役としてずっと側 に居たい方に向かってる物語で驚 きました、てか🇺🇸の場合抱きついてるし((尊過ぎやろ!!💗💗 🇩🇪がニコって笑うの""ん"ンゥ🪦in 本当に神作でめっちゃ好きでした これからも応援してます ((アホ長文ですいません💦)
終わっちゃった〜!マジでめっちゃ面白かったです!このお話の日本さんの性格がくっそ好きです。これからも応援してます!
本当にこの小説大好きです!!!
ぽてもち。
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廃棄米
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みずいろべ🫧
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桜花
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