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※タランザとアドレーヌが旧知

※セクトニア様を期待してた方に関しては本当に申し訳ありませんが出演しません

※捏造しか存在しません

※何でもありな方のみお進みください


「ん…あれ?ここ…どこなのね?」

神殿の中に満ちる光。その中から聞こえる、どこか馴染みのある声と、印象的な語尾。少し見えはじめたシルエットもその記憶のとおりで、徐々に晴れはじめた光はまるで、あの日見た月影の帝都のようだ。

「…あ、勇者様…じゃなくて、カービィ!?」

「タランザー!ひさしぶりだね!」

隣で再会を喜んでいるらしいカーくんの声は底抜けに明るくて、まだ現実に追いつけていないあたしとは対照的だ。戸惑いつつも笑顔を見せるその人――タランザさんもまた嬉しそうにしている。まるであの時のことなんて、覚えていないのかというほどに。

「…あ!忘れてた!放っててごめん、アドレーヌ… 」

今さらという感じだが、カーくんが振り返って呼んだ。怒っていたわけではないが、少しの間存在を忘れられていたことにムッとした。でもあたしの存在が頭の中に入ってくるのは、何もカーくんだけじゃない。

「…え?キミ…もしかして、あのときの…!?」

「あー…えっと、はい…」

その瞬間、神殿に満ちていた再会を喜ぶ和やかな空気が、一気に緊張に変わった。

「…え?えぇ!?」

ただ一人、状況を理解していないカーくんの声だけが、今もなお明るかった。


昔の話

数年前――天空の国、フロラルド。

ここではある種族の女王が、圧政で民を苦しめていた。しかしそれは、地上から招かれた一人の勇者によって終わりを告げた。弓矢と紫の帽子を装備した勇者は、地上を治める大王と共に、その女王を討ち倒したという――

その事件よりも、ほんの少しだけ前の出来事。

それが、あたしがあの人と出会ったきっかけ。

「ずいぶん、ひさしぶりだなぁ…」

明るい色合いの花々を見渡して、ほうっと吐き出した。ある依頼でポップスターに戻ってきて、待ち合わせ場所に向かいながら、前のことを思い出す。水晶をめぐる、宇宙の旅。あの楽しい思い出はいつの間にか遠くへ行ってしまったけど、いつでも鮮明に思い出せる。

「…あ、もしかして…本当に、来てくれたのね!?」

約束の場所に着くと、遠目からでも印象的な角が見えた。どうやら依頼人は、先にこの場所で待っていたようだ。

「こ、こんにちは…。えっと、依頼してくれた、タランザさん、ですよね?」

「…今日からしばらく、お世話になるのね。大変かもしれないけど、こっちも何かとサポートさせてもらうから。…もし何かあったら、ワタシに話してほしいのね。」

そういってタランザさんは、優しい笑顔を浮かべた。春風に揺れる銀髪が太陽の光を反射してとても綺麗だ。差し出された手のひとつをそっと握る。するとふわりという浮遊感と共に、強い魔力が体を包んだ。あたしの体はあっという間に天空へ上っていく。一瞬で視界は少し離れたデデデ城を見渡せそうなほどに高くなる。低い位置の雲を突き抜け、クラウディパークを通り過ぎて。ほんの数秒間に及ぶ空の旅は、差し込んだ陽光で締めくくられた。

「わぁ…!」

遠くまで続くツタの道。道の脇を彩る虹の光。そして、どこまでも広がる雲。本来なら自分の力では届きもしなかった景色に、心が躍る。

「ふふ…気に入ってもらえたのね?」

どこか自慢げなタランザさんの声がした。彼もまた、この浮遊大陸の景色が好きなのだろう。何度も見ている光景のはずなのに目が輝いている。

「ここはまだ浮遊大陸の中でも最下層に位置する――ファインフィールド。でもここの景色はワタシのお気に入りだから、キミにも見てもらいたくて。…さ、あんまり時間に余裕はないから、もう少ししたら出発するのね」

帰るときに寄っておこう、とひそかに決めて、再び彼の手を取った。


帝都の民

お菓子の世界や火山を視界の端に入れながら、フロラルドの上の辺りに到着した。目の前には荘厳な城が建っている。ここがタランザさんの主がいる場所なのだろう。ここまで昇ってくるときに、自分は女王に仕えている身だということ、何百年も生き続けていることを聞いた。その見た目からはそんなに長く生きているなんて考えられなかったから、純粋に驚いてしまった。

(あたしじゃあどうやっても生きられないような年月を、この人はどうやって生きてきたのだろう)

ずっと仕えていたと言ったから、それで気が紛れていたのかもしれない。それか、あたしとは時間の感覚が違うのだろう。だからこの時間さえも、彼にしてみればほんの一瞬に過ぎないはずだ。少しでも思い出に残るような絵を描きたい。そんな想いが強くなっていく。

彼に案内され、城の門前まで進む。戸の前には二人の衛兵が立っていた。そこまでなら何ら違和感のない光景だったのだが、よく見てみると、その二人と話している人影があった。いや――話している、というよりかは、なにか抗議しているみたいだ。抑えられながらも激しい声色で叫んでいる。

「通してください!わたしは、あの人に抗議しに行きたいだけなんです!噂話くらいで、そんな処罰にしなくても、って…! 」

「いいや、ここを通すわけにはいかない。民は誰も通すなと、上から言われているからな」

――やはり、平和な内容ではなさそうだ。関わらないほうがいい、と隣から言われはしたが、放っておくなんてできない。

「…あのっ!な、なにかあったんですか?」

彼らからしてみればあたしは相当異質な見た目をしているせいなのか、衛兵だけでなく、抗議していた民らしき人も恐れた目で見てくる。助けたい、と思っていたのに、その冷たい反応に胸が痛む。

「ああ、別にこの人はキミに危害は加えない、はずなのね。…それで、そっちは何の用?――あの子のことは、諦めたほうがいいよ。キミも同じような目に、遭いたくないのならね」

「っ…!」

それまでとは全く違う表情だった。さっきまでの優しかった目つきは、まるで投棄品でも見るかのようなものに変わっている。その一場面だけでも、この国の本質を物語っているのだと、旅をしてきた経験が言っていた。

「…嫌なところ、見せてしまったのね。…もし気分が悪くなったなら、今のうちに逃げておいたほうがいい。これ以上はもう、引き返せないから」

さっきの“外向けの顔”に戻ったタランザさんがそう言った。自分の安全を第一にして考えるのなら、彼の言うとおりここで逃げてしまうのが一番だろう。この国の現状がもしどこかで漏れたとしても、たどり着ける人はあまりいないはずだから、他の人が危険な目に遭う可能性はかなり少ない。けれど、ここで退くのはそもそも選択肢に入っていない。この世界の景色を知ってしまったから、たぶんあたしは、よほどのことでもないと逃げることはないだろう。

「いや…あたしは逃げません。請けた依頼は最後までやり切るのは勿論だし…それに、この国にも好きになれる場所があるって、分かったから…それを教えてくれたのは、タランザさんですよね。だったら、あたしの想い、分かってもらえたら嬉しいです」

その言葉に、周囲の四人は驚いたあと、安心したように微笑んだり、また堅い表情に戻ったり、或いは、悲しそうな目線を注いだりして、それぞれの反応を示した。

(――たぶん、最初にタランザさんが驚いてたのも、依頼された人たちが全員、逃げていったからだ。…こんな依頼、本当に、請けてもよかったのかな。あたしに何とかできるような依頼なのかな)

門が開いたのを確認したあと、衛兵の二人は脇に逸れ、タランザさんが先に立つ。振り向いてもなにも言われなかったが、その背中からはどこか緊張を感じた。

「…気をつけてね」

門が閉まる直前に、か細くて消えかけの、そんな声が聞こえた気がした。


散花

風が吹いた。花が揺れる。春の夕日に照らされた草原は橙を被る。あの時は気がつかなかったけれど、“浮遊大陸の花畑”の名に違わず、たくさんの花が咲く草原はちゃんとある。ここが天空だということなど、一瞬で忘れてしまいそうだ。いつか訪れた草花の星にも引けをとらない美しさ。それはどうしてか、この国の女王が望んで造りあげた光景のようにも感じられた。

(どうしてだろう )

こんなにも美しく、力強ささえ感じる花々や自然が、実際は全て儚いものだなんて。

この数日間で、たくさんの場所を巡った。

月影の帝都“ロイヤルロード”。

灼熱の火山地帯“エバーエクスプロージョン”。

自然豊かな古代遺跡“ワイルドワールド”。

氷雪が印象的な“オールドオデッセイ”。

心弾む仕掛け満載の“ロリポップランド”。

どこも美しく、険しい地だった。依頼を無事に終えたあと、自分の足で訪れ、自分の目で見てきた世界。タランザさんに魔力強化の特訓をしてもらって、大型の絵でも長く保つようになってからは、クラッコなどの空を飛べる子を描いて移動するようにした。あまり彼の仕事を増やすわけにもいかない、という配慮からの判断だったが、自分のペースで回れる利点もある。…色々な意味で、彼に感謝すべきなのだろうか。

(最初はこわかったけど…なんとかなってよかったなぁ)

実際に謁見してみて、美しさよりも先に感じた威圧感。これから何日か、この人と仕事をしなければならないと思うと正直やっていける気がしなかったが、自分の腕が動くままに描いた絵はとても美しかった。(最後まで圧には慣れなかったけど)その空気に慣れてきた頃には、知らずのうちに感じていたのだろう。そういうのは、やっぱり性なのだとも思ったりして。

水月が昇り、藍色の空に星がかかる。澄んだ空気のおかげで見える景色。その中で、落ちていった光がひとつ。群れからはぐれた流星が、目の前を通って、地上のどこかへと消えた。再びキャンバスに向き直る。

――しかし、その集中は一瞬で消えた。

突然、上空にもかかわらず地鳴りが起こった。ひとまず冷静に、落とさないように荷物をたたんでしまい込む。身一つになって、近くの硬そうなツタにしがみつく。二時間か、三時間か、それ以上か――とにかく、長い時間が過ぎていた。いつの間にか夜は明け、空からは星が消えていた。

(今の…なんだったんだろう? )

恐ろしさのあまり閉じていた目を開く。視界は昨夜までと変わりなかった。結局なにが原因だったのかは分からずじまいで、また起こらないことを祈りながらそっと立ちあがる。

「――なに、してるの?」

一人だと思っていたから、余計に驚いてしまった。

「あ…タランザ、さん」

「まだいたのね…昨夜の揺れ、大丈夫だった?」

「あ、はい…急だったからびっくりしたけど…でも、怪我とかは」

「そう。だったらいいのね。 ――じゃあ、今すぐこの国から出ていって」

「…え…?」

天空から、突き落とされたような気分だった。

「え…待って、そんな、急には…」

「悪いけどこっちは忙しいの。もうキミに関わっている余裕なんてないから」

目は向けられなかった。あの時と同じ、帝都の民にしていた目をされていたらと考えてしまう。あんなにも優しかったひとが、今はもう違う。生憎か、幸いか。この場に二人きりだった状況に感謝した。今の自分の顔なんて、想像もしたくない。 きっと彼女のように、その醜さを嫌って遠ざけている。天空でよかった、というのは精一杯の自律。

こんな顔なんて、絶対あの人には見られたくない。

「キミの握力では、ワールドツリーを使って降りるのは難しいと思うから…前に教えたとおり、なにか飛べるものを描くといいのね。……じゃあね。…――…」

最後のほうは、何を言っているのか分からなかった。

雲から飛び降りて彼が姿を消したあと、筆を握る力を込めて呟いた。

「なんで…そんなこと、言わないでよ」

後ろで生まれたばかりの絵画のクラッコが、不思議そうに目を閉じた。


従者と絵師と、ときどき勇者

ぽかぽかと、春の陽気を思わせるほどのちょうど良い暖かさのある神殿。これがポップスターの危機でなければ、もっと長く滞在していたかったところだ。

「…あの…」

「…前のことは、本当に申し訳ないと思ってる」

こちらが話しはじめる前に、謝罪の言葉が口から出てきた。

「あの時は、本当に…ただキミを、巻き込みたくなくて…」

「でも、あたしは許してない」

気まずい雰囲気をどうにかしようと言いかけた言葉は引っ込んでくれた。

「急に態度が変わったのも、何も説明してくれなかったのも、あとは――とにかく、色々と」

「…」

「タランザさんの顔を見て、色々なこと思い出しちゃって。だから、まだ自分の中でも整理がついてなくて。勝手に謝られても、困るだけなんです」

「…そう。それは、悪かったのね」

また謝らせてしまった。本当は彼だって悪くないのに。まだ怒りたい自分はいるけれど、そうしてもどうにもならないから我慢してもらう。

「――あたしはただ…最後にあんなこと言われたのが嫌で…本当にあれで最後になったらどうしよう、って」

「…でも、意味はちゃんと分かってるんだよね?」

「…はい。でも――嘘だとしても、嫌なことは嫌じゃないですか…『もう二度とキミに、会いませんように』だなんて…」

「…聞こえ、てたんだ」

静かに首を振る。声では伝わらなかったけど、口がちゃんとそう言ってた。声にならない声で言われたのも、余計に悲しくて。

「でも…あんまり良い状況ではないにしろ…こうして普通に会えたから、本当によかった」

今がポップスターの危機という状況でなければ、もっと嬉しかっただろう。前回は依頼人と絵師という関係でしかなかったけど、いつの間にか仲良くなりたい、と思っていたらしかった。

「…そう。――じゃあ最後に一つだけ、いいかな?…もう“フレンズ”なんだから、お互いに敬語はナシにしてほしいのね」

「…うん!」

神殿の中を、あの日の春風が通り抜けていったような感じだ。爽やかで、暖かくて、やわらかい。あたしたちの新しい旅立ちを、祝福するかのような。

「おーい、二人とも!早く行こうよー!」

遠くから、あたしたちを呼ぶ声。顔を見合わせて立ちあがった。勇者と共に世界を救う一員になって、今日もまた旅を続ける。

「待ってよ、カーくん!」

「いま行くのね!」

楽しそうな声だけが、神殿の中に残っていた。

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