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市民ホールでのイベントが終わり、二人は宿泊先の小さな旅館に戻った。廊下の明かりが柔らかく揺れ、木の床が静かに軋む。ふたりとも長時間のイベントで少し足取りが重く、互いの疲れをひそかに感じながら歩いている。その表情には、終わったばかりの達成感とともに、肩の力が抜けた安堵がにじんでいた。
部屋に入ると、くられは荷物を置くや否や軽くため息をつき、少しだけ背を伸ばした。カバンや資料を片付けたあと、くられはゆっくりと部屋着に着替える。ゆったりした袖が手首まで覆い、裾は少し膝にかかる長さ。普段の白衣姿では見せない無防備な姿に、ツナっちは胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。肩の緊張が解けると、指先がそっと揺れる様子や、膝の上に置いた手の仕草が、どこか子どもっぽく、可憐に見える。
「……楽しかったね」
くられは小さな声で、けれど少し誇らしげに言った。手を顔の前で組み、ふわりと伸びをするたびに、袖がさらに手を覆ってしまう。
「先生、疲れてませんか?」
ツナっちは心配そうに声をかける。イベントでずっと子どもたちに囲まれ、慌ただしかったくられの肩を思わず撫でたくなる。
「んー……まぁ、二日目だからまだ大丈夫だけど、普段よりも体力は使ったからね」
くられは目を細め、肩の力を抜いたまま少しだけ笑う。光の柔らかさに照らされて、瞳がほんのり潤んで見える。
「また徹夜したんですか!」
ツナっちは思わず突っ込む。くられは軽く苦笑いし、目を伏せたまま小さく頷く。
疲れた体をソファに預けるくられの姿は、無防備で、どこか子どもっぽさすら感じられる。伸びをして袖が手首まで覆い隠れる様子、膝に置いた手の仕草、小さく吐く息――そのすべてがツナっちの胸を熱くさせた。
「……先生、やっぱり可愛いな……」
声にならない言葉が、静かな部屋に溶ける。耳に届かぬ小さな呟きが、自分だけの秘密の感情として胸に残る。
くられは微かに目を閉じ、ふぅっと息をついた。そのまま小さく頭をソファの背もたれに預け、肩をゆるめてうとうとし始める。手の力が抜け、袖が膝にかかる布の感触が心地よさそうに揺れる。背もたれに沈む肩の角度、ゆっくりと上下する胸、指先の微かな震え――普段は見せない繊細さが、静かな部屋の空気に溶けていく。
ツナっちは視線を下ろさずにくられの寝顔を見つめる。呼吸が徐々に深く、安定していくのを感じながら、胸の奥の高鳴りが少しずつ落ち着いていく。肩の力が抜けた瞬間の無防備さや、伸びた指先、膝の上で組んだ手の形――そのすべてに、息を呑むほどの愛おしさを感じた。
窓の外から夜風がそよぎ、障子をかすかに揺らす。静かな旅館の部屋に、二人だけの時間がゆっくりと流れていく。ツナっちは、くられが眠っている間、この瞬間を守るように静かに座り、視線を逸らさず見守った。
ゆったりとした時間の中で、ツナっちの視線はくられの仕草の一つひとつに向けられる。袖が手首を覆い、裾が膝にかかる無防備さ、伸びた指先、微かに揺れるまつ毛――普段は見せない柔らかさに、ツナっちの胸は熱くなる。
夜の静寂と、くられの眠る柔らかな気配の中、ツナっちは小さなため息を漏らす。心の奥に残る「好きだな」という感情が、今はただ静かに、くられの寝息と共に揺れていた。