テラーノベル
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俺が取引先の相手をしている間、李衣菜さんは周りの奥様方と談笑している。若いながらいい度胸の持ち主だ。
社長夫人になるのに、必要なスキルを完璧に持ち合わせている。
咲坂なら……。
彼女なら、きっと真っ赤になって困るだろう。
俺が傍から離れたら、きっと壁の花になって、自分はこの場には似合わない……というような卑屈なことを考えながら、そこに立っているだろう。
全く社交には向いていない。社長夫人になれ、と言ったら嫌がられること請け合いだ。
李衣菜さんと比べるならば、明らかに結婚相手としては李衣菜さんのほうが向いていると言える。
それなのに、俺は彼女を忘れられずにいる。
この空間の中に、彼女がいたらいいのにと今も思っている。
馬鹿げてる。……馬鹿げてるのが、恋なのか?
考え疲れた俺は、盛り上がっているテーブルから少し外れ、壁に背中を預けた。
ふうと息をついたと同時に、白い壁に、彼女の幻影を見たような気がした。
頭の中で幻想の彼女に手を伸ばし、“一緒に行こう”と誘う。
彼女は上目遣いで俺を見つめ、小さな唇を開いて何かを答える。
俺は一歩を踏み出してほしくて、壁の彼女に触れようとした。当然、幻影の彼女は揺らめいて消えた。
【今の私じゃダメなんです】
あの日の彼女の声が重なるように頭に響いて、胸が締め付けられた。
そして、焦燥とともに沸き上がるのは、必死な感情だった。
会いたい。ダメだというなら、それでもいい。
だったら俺も君と一緒にもがくから、ただ傍にいさせてくれないか――。
「……深山さん?」
いつの間にか傍に来ていた李衣菜さんの声に、驚いて瞬きをした。
「ああ、李衣菜さん。すみません、ひとりにさせて」
「いえ。お料理とてもおいしかったですよ。深山さんもいただきません?」
「ありがとう」
ぼうっとしていた俺に気を使ってくれたのだろう。
気の付く、いいお嬢さんだと思う。打算的な言い方をすれば、この子は“買い物件”だ。
だけど、今の俺には、彼女の手を取ることはできない。
こんな女性を目の前にして、思い出すのは彼女のことばかりなのだから。
『……初めて名前、呼んでくれましたね』
遠田社長と咲坂が対峙したとき、彼女は泣き出しそうな表情をした。
本当は名前を呼ばれたいだけだったんだと、切に語った彼女がいじらしくて。
俺は多分あの瞬間に、彼女に強烈に惹かれたんだろう。
俺からすれば、悩みもせずに告げれるようなたった一言を、あんなに遠回りしなければ言えなかった彼女だからこそ、俺は彼女をなんとか助けてやりたいと思ったんだ。
不器用でどんくさいともいえる彼女の気質は、それまではマイナス要因だと思っていた。
だけど、熟考することは思いを深めることだと、俺は今回のことで気付いた。
彼女を待っていたこの期間で、思いは募り、自分の気持ちが深まっていく。
不安になっても、迷っても、結局はやっぱり君が好きだという思いが残るなら、これは本物の恋なんだろう。
鷹槻れん

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鷹槻れん

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#年の差
水無月 京
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#大人の恋
月詠 涼
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コメント
1件
第59話読了〜!😭💕 深山Sideだからこそ伝わる、彼の不器用なまでの執着心が胸に沁みたよ…「一緒にもがくから傍にいさせて」って感情、重すぎてめっちゃ刺さった📌💘 李衣菜さんが"買い物件"なのに、それでも咲坂さんを選べない深山の不器用な純情が尊すぎるんだが?!「悩みもせずに告げれる一言をあんなに遠回りした彼女」という深山の視点、こっちまで切なくなるね…次が待ちきれない〜!🌸