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キーワード:逆に・指を噛む・舌をさわる・やだ
「なぁ、柔太朗さん」
閉店後、いつものように二人きりになった店の奥で、舜太はふと思いついたように切り出した。カウンターの片付けはすでに終わり、あとは灯りを落とすだけの、静かな時間だった。
「今度は、俺が噛んでみたいんですけど」
唐突な申し出に、柔太朗はグラスを拭く手を止めた。
「却下」
「なんでですか」
「舜太くんに、そんな牙もないでしょ。噛むって言っても、ただの人間の歯だし」
「歯でも、痕くらいはつけられるでしょう。駄目ですか」
「駄目。それに、俺、首とか耳、弱いから」
弱点を自ら明かしてしまったことに、柔太朗は少し遅れて気づいたらしい。だが、時すでに遅かった。舜太の目が、面白いものを見つけたように、すっと細まる。
「弱いんですね、そこ」
「今の、聞かなかったことにして」
「無理です。せっかくやから、確かめさせてください」
有無を言わせぬ調子で、舜太は柔太朗の腕を引き、そのまま抱き寄せた。抵抗する間もなく、舜太の唇が、柔太朗の首筋に触れる。
「ちょっと、待って」
「待てません。ずっと、この白い首筋見る度に、思ってたんですよね。俺も、一回くらい、噛んでみたいなって」
囁くような声とともに、舜太の唇が、皮膚の柔らかい部分を辿っていく。柔太朗の体が、びくりと小さく跳ねた。
「ここ、本当に弱いんですね」
「言ったでしょ……っ」
言葉の途中で、柔太朗の声が、甘く掠れた。舜太はその反応に気を良くし、白い首筋に、そっと歯を立てる。人間の歯では、ヴァンパイアの牙のような鋭さはない。それでも、強く食まれた感覚に、柔太朗の背筋が、じわりと痺れていく。
「いっ…、声、出るから」
「出したらええのに」
「駄目。やだ」
柔太朗はそう言うと、堪えるように、自分の指の背に、そっと歯を立てた。声が漏れないよう、必死に抑え込もうとするその仕草に、舜太は思わず目を奪われる。
「それ、めちゃくちゃそそりますね、その顔」
「……煽らないで」
涙の滲んだ目で睨まれても、その迫力は、いつもの余裕とはかけ離れたものだった。舜太はますます愉しくなって、今度は指先を、柔太朗の唇へと運んだ。
「柔太朗さんの、これも、見せてもらっていいですか」
指先が、唇の隙間から、そっと差し込まれる。奥には、普段は隠されている、鋭い犬歯があった。危ういとは分かっていながら、舜太はその先端に、指の腹でそっと触れる。
「危ないから、それ」
「大丈夫です、優しくするんで」
囁きながら、舜太は首筋に歯を立てたまま、指先で、犬歯の輪郭をなぞった。牙の根元から、そのまま口の中の柔らかい場所へと、指が滑り込んでいく。
「ん、ぅ……」
抑えきれない吐息が、柔太朗の喉から漏れた。舌先に触れた指の感触に、体の奥が、じわじわと熱を持っていく。危うい遊戯だった。指先が触れるたび、理性の縁が、少しずつ削られていくのが分かる。
「めちゃくちゃ、可愛い顔してます、今」
首筋から顔を上げ、舜太は満足げに、柔太朗の様子を覗き込んだ。涙で潤んだ目、上気した頬、そして、堪えきれずに漏れた吐息。完全に、舜太の手のひらの上で翻弄されている。
「ずるいって、これ」
「ずるくてもいいです。たまには、俺が勝たせてもらわんと」
得意げに笑う舜太を、柔太朗は涙目のまま、恨めしそうに見上げた。だが、その視線にすら、拒絶の色は含まれていない。むしろ、もっと、と願うような、隠しきれない熱が滲んでいた。
「今日のところは、これくらいにしといたるわ」
勝ち誇ったようにそう言って、舜太は柔太朗の頬に、労わるようなキスを落とした。柔太朗は詰めていた息を、ようやく細く吐き出す。
「今度、絶対仕返しするから」
「望むところです」
不敵に笑う舜太に、柔太朗はそれ以上何も言えず、ただ小さく息を吐いた。
余裕な人が、やだっていうのは煽ってるとしか思えないよねって話。
犬歯を撫でるのが倒錯的で、初めてヴァンパイア設定にしてよかったと思った。
#YJ
コメント
1件
読んだ読んだ!もう今回も最高すぎたわ…🔥 舜太くんが攻めに回って「噛みたい」って仕掛ける流れ、普段余裕な柔太朗さんの「やだ」がもう反則でしょ。声漏らさないように自分の指噛む仕草とか、るりさんが後書きで書いてた「倒錯的」って表現、まさにそれ。犬歯撫でる描写がえっちすぎて、ヴァンパイア設定ここで活きるんだ!って震えた。 不用意に弱点ばらしちゃう柔太朗さんも可愛いし、最後の「仕返しするから」に続きが待てない…次回も楽しみにしてる!