「街道って歩きやすいのね…」
二人が今いる場所は、ガウェインとミラードを繋ぐ街道近くの川である。
季節は夏真っ盛りとなっていて、二人は川の中程にあった岩に腰を下ろし、川に足をつけて涼をとっている。
「うん。ごめんね。最初は山道ばかりで」
「そういう意味で言ったんじゃないわ。ただ、きちんと整備されている道を歩くのが初めてだから驚いたのよ」
街と街を繋ぐ街道は馬車の往来も多い。その為、雨でぬかるんで車輪を取られないようにしっかりと整備されていた。
大きな街の近くになると石畳やレンガなどの道もあるが、ここは該当しない為、土ではあるがかなり固められており、道は平坦だ。
「次の街はガウェイン領ではないのよね?」
「うん。別の領だけど、僕達は冒険者だから問題ないよ」
この国では正確な戸籍は存在しない。もちろん身分の高い者や豪商豪農などの富裕層は、国もしっかりと把握している。
では、平民の管理は?となるが、基本的に領を跨いではならない。
領境を越えるには許可が必要なのだ。
その為、細かく管理しなくても税収に大きな影響はない。むしろ管理するほうがお金がかかる為、現実的ではない。
その為、領境には検問(関所)があり、出入りを厳しく管理されている。
冒険者が自由に出入り出来る理由は明白だ。
税金を納めているのがギルドであるからだ。自分達の代わりに税の計算から徴収まで行ってくれて、さらには冒険者のレベルに併せて仕事の斡旋まで行ってくれているのだ。
もう一つの理由は、冒険者ギルドは国を跨ぐ巨大組織の為、喧嘩を売れないからだ。もちろん日々、魔物という脅威から土地や人を守ってくれているので、喧嘩する理由は皆無なのだが。
さらには税金までしっかりと納めてくれているのだ。
領や国を冒険者が自由に出入りするくらいの事は、目を瞑ったとしてもおかしくはない。
「必要なのはタグを見せる事だから、ミルキィのレベルが高いのに僕が低い…というか、1だっていう言い訳がアイラさんにしたみたいに通じるかだけ心配だね」
「私が指導しているっていうのはどう?…ごめんなさい、無理があるわね」
「ううん!いいんじゃないかな!それで行こうよ!」
ミルキィの冗談めかした提案だが、レビンには刺さったようだ。
「そ、そう?」
「そうだ!ミルキィのレベルは33だから、村の天才剣士って設定はどうかな!?それで僕はミルキィの親に頼まれた世話役とか?!
あっ!そうだ!それなら僕の両親が若くして高レベルのミルキィに僕の指導を任せたっていうのも捨て難いね…」
何やら踏んではいけないモノをミルキィは踏んでしまったようだ。
(そういえば…小さい頃は空想話をすると止まらなくなっていたわね・・・)
休憩が終わり再び歩き始めても、レビンの独り言は止まらなかった。
2日後、迷いながらも設定を決めたレビン達は領境に来ていた。
領境は簡易的な関所があるだけで、街道から離れたら簡単に越えられそうだ。
しかし、この世界には恐ろしい魔物達がいる為、わざわざそんなことをする者はいない。
もちろん犯罪者などの後ろ暗い者を除いてはだが。
「冒険者のようだな。タグを見せろ」
領境の検問所に着いた二人に、高圧的な兵士が指示を出した。
二人は指示に従いタグを見せると……
「冒険者だな…何故こんなにもレベル差があるのだ?」
二人をすんなり通してくれる空気が、少しだけピリッとした。
「私達はタグの通り同じ村の出です。私は幼い頃より魔物を狩っていました。その為レベルが高く、村を出る時にレビンの両親に世話を頼まれて一緒に活動をしているのです。
ガウェイン領ではすでに私の相手になる魔物がいない為、旅に出ているところですね」
「それじゃあ坊主は嬢ちゃんにおんぶに抱っこか。カッコ悪いから早く卒業しろよ?」
どうやら二人が同じ村出身ということもあり、特に嫌疑があったわけではなく、自分の興味本位で聞いてきただけだったようだ。
「は、はい!ミルキィさんにはお世話になりっぱなしで…」
「はははっ!嬢ちゃんは美人で坊主は子供っぽ過ぎるから恋人でもないんだろ?早く嬢ちゃんを解放してやるんだな!」
レビンは役になりきりこの状況を心底楽しんでいたが、ミルキィはハラハラしていたのだった。
ガウェイン領を出る時には銀貨2枚かかったが、逆に隣の領へ入る時にはお金を取られなかった。冒険者ギルドに目をつけられない程度の涙ぐましい政策のようだ。
無事に二つの関所を越えた二人は、新たな土地へと足を踏み入れることとなった。
「タグの有効期限まで後4日だね。兵隊さんの言う通りなら、ミラードまでは2日程度だから余裕はありそうだね」
「…それよりも!」
ミルキィが急に大きな声を上げた為、レビンはビクッとなった。
「な、なにかな?」
「何かじゃないわよ!決めていた設定じゃなかったわよね!?」
「ご、ごめん…サイドストーリーを持たせた方が真実味が増すと思って…」
「馬鹿なのっ!?いえ、馬鹿よね!何も怪しんでなかったじゃないっ!むしろ私が可哀想な人みたいな設定で居た堪れなかったわ!」
レビンはあの後、次の関所にてさらに妄想を膨らませた設定を披露していたのだった。
「それで?レベル6の冒険者さんになった感想は?」
暫く口を聞いてもらえなかったレビンは、傍目には反省しているように見えた。
その為ミルキィは話をしてあげる事にしたのだが……
「タグに6っていう数字が刻まれているだけだよ。特にないかな」
まさかの冷めた感想が返ってきたのでキレそうになったが、せっかく大人ミルキィに戻れたのだからと我慢した。
レビンのレベルが6になっているのは、流石にレベル1だと怪し過ぎる為、道中で山や森に態々入って魔物を狩りまくった成果である。
ゴブリン換算で凡そ100体もの魔物を狩って、漸くレベル6になれた。
魔石は越領させると税金が掛かる。そして、レビン達は手持ちが乏しく税の支払いができない為、泣く泣く諦めたのだった。
「それよりも魔石は勿体無かったね…」
「近くにギルドも出張所もないのだから仕方なかったわ。
でも、あれだけ倒せば近くの人達の助けにはなったと思うわよ」
レビンとは違い大人の階段を登り始めたミルキィは、聖母のように慰めるのであった。
「わぁーーーーっ!?」ガシャンッ
ミラードへ向けて順調に旅をしていた二人の耳に、悲鳴と重い音が飛び込んできた。
「あっちだ!行くよ!」
悲鳴を聞いたレビンに『何かあったのかな?』などという悠長な考えは一切なかった。
レビンの指示を受けたミルキィも、一二もなく頷きレビンを追いかけた。
街道を声のした方へ駆ける二人の視界に、魔物に襲われている馬車が飛び込んできた。
辺りはレビンの胸元まで伸びる草原であり、整備されている街道以外は視界が悪かった。
「あれは!?ウルフの群れ!?」
「プレイリーウルフかしら?」
街道の休憩場で一緒になった行商馬車の老人に、この近くではプレイリーウルフの群れが出るから気をつけるようにと、二人は教えられていた。
老人曰く、鼻が良い魔物には臭い玉と呼ばれる魔物避けが有効らしいが、襲われている馬車はそれを知らなかったか、怠っていたようだ。
「ミルキィ!突っ込むからミルキィは自身の身の安全を優先して!」
そうレビンが告げると、自身と殆ど変わらない大きさの狼の群れへと突っ込んでいった。
腰の短剣を抜いて手当たり次第に攻撃するレビン。
しかし狼の数は10を超える為、次から次へとレビンに襲いかかった。
(このままだとレビンがプレイリーウルフの群れに呑み込まれちゃう…)
最悪の事態を想像したミルキィは、ロングソードを手にレビンの援護に飛び込むのであった。
レベル
レビン:1→6(39)
ミルキィ:33
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