コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
(くっ…数が多過ぎる…)
一体ずつ処理できれば今のレビンであれば問題はなかったが、魔物の中でも統率の取れているプレイリーウルフは、中々そうはさせてくれなかった。
(焦るな。こういう時こそ冷静に相手を観察するんだ!)
目を凝らし、何か打開策はないかと狼の攻撃を凌ぎつつ観察していたレビンの視界に不可思議な動きが入ってきた。
それはミルキィが攻勢に出た影響で、狼が前後を挟まれた形になり、後ろを気にして出来た僅かな隙だった。
「うおりゃあっ!」
ザシュッ
『ギャインッ!?』
レビンはその隙につけ入ることに成功し、ミルキィに気を取られた個体の首に致命傷を負わせる事が出来た。
仲間がやられた声にミルキィの近くにいた個体が後ろを気にしてしまい、今度はミルキィに討ち取られた。
何度かそれを繰り返したところで、勝ち目はないと判断し、狼の群れは草原の中へと消えていったのであった。
「ミルキィ!?大丈夫!?」
「大丈夫よ。怪我はないわ。レビンも問題なさそうね?」
お互いが掛け替えの無い存在である。無意識の中で、馬車よりもお互いの安否を先に確認した。
「大丈夫ですか?」
馬車は箱型のモノであるが、豪華絢爛というほどのものではない。
馬は狼の攻撃により絶命しており、馬が倒れた事によりその重さに耐えられず馬車は横転していた。
悲鳴はその中から聞こえてきたものだと考え、レビンは馬車に向かい声をかけたのだ。
「ま、魔物は!?」
「全ては仕留められませんでしたが、残りは逃げていきましたよ」
二人は馬車に乗った事がない為、その場に馭者がいない事に気づいていなかった。
「そ、そうですか…あの、申し訳ないのですが、馬車から出してもらえないでしょうか?」
「わかりました。少し待っていてください」
返ってきた声は男の子の声だった。恐らくレビンとそう変わらないであろう年代の。
レビンは横転した馬車に飛び乗ると、扉を開けて中の人を引き上げることに。
「捕まってください」
「はっ、はい!」
引き上げた少年を馬車の下の地面へとゆっくり降ろした。
「私はこの先にある領都ミラードに住んでいる領主の息子です。名をシーベルト・ミラードと申します。この度は助けて頂き、ありがとうございました!」
助けた少年は領主の子息であった。二人にとっては領主どころか貴族がどういうものか知らない。
しかし、偉い人だという事は村人でも知っていた。
少年は金髪の髪を振り下ろしながら二人へと深々と頭を下げ、感謝の言葉を告げた。
「いえ。お貴族様でしたか。粗野な冒険者ですので無礼な事があったかと思いますが、お許しください」
助けたのに謝罪するとはこれ如何に。レビンは貴族の少年に倣い、頭を下げて伝えた。
「命の恩人に身分がどうとかありません。お二人ともありがとうございました。お顔を上げてください」
レビンに倣い、ミルキィも下げていた頭をゆっくりと上げていく。
「ところで…助けていただいた上に厚かましいお願いなのですが、私をミラードへと送っていただけないでしょうか?」
「私達も向かっている最中なので構いません」
「後…出来れば普通にお話ください。私のこれは口癖みたいなモノですからお気になさらぬよう」
レビンは村を出る時に、両親から貴族や役人には出来るだけ丁寧な言葉遣いで腰を低くして接しなさいと、口を酸っぱく言われていた。
対するミルキィは余計な事をしない、言わない。ただそれだけである。
「わかったよ。僕はレビン・カーティス。レビンって呼んで!こっちの子はミルキィ・レーヴン。二人とも15歳で冒険者だよ」
「よろしく」
「私も先日成人したばかりなのです。同い年でプレイリーウルフの群れを蹴散らすとは、凄い冒険者なのですね。お二人ともよろしくお願いします」
歳も同じだとわかり、レビンは気兼ねなく接する事が出来る。
相変わらずミルキィは人見知りを発動しているが。
「ミラードに向かっているって言ってたけど、一人で?」
「いいえ。家の者を供にして向かっていました。その者は馭者をしていたのですが、まさかこんな事をするなんて…」
レビンはどうやら何かあったのだと思い、道中に聞く事にした。
ここに長く留まれば、いつ狼共が戻ってくるかわからなかった為だ。
「えっ!?じゃあその人はシーベルト君を害そうとしたの!?貴族なのに?」
道中少年が語った話は、二人からすれば雲の上の話だった。
シーベルトはミラード辺境伯の嫡男。そして弟が2人いる。貴族家では基本的に男児を3人は抱えている。長男が跡取り候補筆頭であり、次男は予備である。三男は予備の予備、不測の事態の為の保険である。
御家存続の為に3人以上の男児を設けないとならない貴族は一夫多妻が望ましいとされていた。
そして、今回シーベルトが巻き込まれたのは御家騒動である。
嫡男であるシーベルトが生きている限り、弟達が家を継げる未来は来ない。シーベルトが余程の無能であれば可能性は十分あるが、頭脳、精神面、生活態度など、どれをとっても問題はなかった。
その上、風に靡く金髪が似合う美男子でもあった。そのお陰か、今代の年下の姫から婚約者候補として挙げられてもいた。
「貴族だからです。私が居なくなれば弟達のどちらかが代わりに家を継ぎます。辺境伯という地位は、この国でも上から数えた方が早い高さですからね」
実の弟から命を狙われていると聞いて、レビンとミルキィは憐憫の情をシーベルトへと向ける。
2人はお互いを家族以上だと思っているが、家族も同じように大切に思っている。その掛け替えの無い者達から命を狙われる事など想像も出来ず、さらに狙われたと知った時に正気でいられるとも思えなかった。
「そういう訳で、馭者をしていた者はどちらかの弟に買収されていたのでしょう」
「なんて酷い…」
「策略に気付けなかった私も悪いのです。高位貴族であれば当たり前に予見しなければなりませんでした」
シーベルトはそういうが、弟はまだ12歳と11歳だ。この前まで面倒も見ていた事もあり兄弟仲は悪くない為、仕方ないとも思える。
「恐らく弟達の母である第二夫人の差金だとは思いますが、証拠はないので何とも言えません。
まずは領都であるミラードへと帰り、父に報告します。ですのでそこまでよろしくお願いします。もちろんお礼は必ずします」
「第二夫人…」
ミルキィはそんなモノ・・を自分が許容出来るとは思えなかった。もしレビンに他の女の影がちらつけば、それだけで正気を保てないと変な自信はあった。
「お礼はいいよ。お金や名誉の為に助けたんじゃないし、送るのも目的地が同じだから気にしないで」
「いえ。大変ご立派な考えだと思いますが、お礼をしないとあれば、私だけではなく父も笑われてしまいますので。
助けると思ってお礼をさせて下さい」
「ははっ。そう言われたら断れないよー」
「ふふっ。そうでしょう?必ず受け取ってもらいますから、覚悟してくださいね?」
男二人は仲良く談笑しながらミラードまでの街道を行く。一方ミルキィは第二夫人の言葉に思考が止まってしまい、街に着くまで一言も喋らなかったのであった。
レベル
レビン:6(39)→7(40)
ミルキィ:33