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ルイスはゆっくりと馬車から降りてきた。

私はルイスの登場に驚いていた。

何か作戦を練らないと会えないと思っていたのに、こうもすんなり再会できるなんて。


「俺がいて、驚いたか?」

「驚いているわ。どうしてルイスが――」

「マリアンヌが士官学校の宿舎に突撃して、俺をこの馬車の中に放り込んだんだ」


ルイスはその場に座っているマリアンヌを見ている。

マリアンヌは笑っていた。

突撃、放り込むなど乱暴な言い方をしていたが、ほぼ事実だろう。


「僕は君のことなんてどうでもよかったんだ。でも、娘がどうしてもというから――」

「先ほどの話を聞いて、ここに連れてきてくれてよかったとマリアンヌに感謝してます」

「来てよかったでしょ?」

「まあな。来る前は突然すぎてイライラしてたけどな」


クラッセル子爵が苦言をさす。彼はまだルイスに心を開いていない。言葉に棘があるのは当然だ。

対してマリアンヌは、自分の行動は間違ってなかったでしょ?と言わんばかりの自身満々な表情だった。

マリアンヌの言葉に、ルイスは腕を組み、きつく目を閉じた。


「ロザリー、さっきの話……、本当なんだな」

「うん」


ルイスは私に手を差し伸べた。

私はその手を掴み、立ち上がる。

ルイスは真摯な表情で、私に話しかけた。

さっきの話というのは、私がアンドレウス国王の娘だということ。


「本当の父親がメヘロディ国王とか……、信じられねえよ」

「私も実感が湧かない」


ルイスは私をぎゅっと抱きしめた。

いつもは息苦しくなるほど強く引き寄せるのに、今は優しかった。

身体を密着させていると、ルイスの身体が震えているのがわかる。


「俺は……、お前と一緒になれないのか?」


ルイスの身体が震えているのは、私との仲をアンドレウスによって引き裂かれるのではないかという恐れだ。

事実、アンドレウスは私とルイスの交際を認めていない。

私をオリオンと結婚させるつもりだ。


「……」

「なれないんだな」


私の沈黙を肯定と判断したルイスは、しばらく黙り込んでしまった。

何か言葉にしないといけない。

私はそう思うも、言葉に出来なかった。

前向きな言葉をかければ嘘になるし、すべてを話せばルイスを絶望させてしまうことが分かっていたから。


(私の婚約者がオリオンだなんて……、ルイスには言えない)


オリオン以外の男性だったらすぐに口にしていた。

ルイスにとってオリオンは主従関係にあった大事な人。

オリオンの名を口に出したら、私が何を言ってもルイスは立ち直れなくなる。

それだけは絶対に避けたかった。


「私は……、ルイスと一緒になりたい」

「俺もだ」

「お父様はそう思っていないの。むしろ反対している」

「……なら、士官学校に居ても、騎士になっても無駄だな」


私は考えた末、オリオンの件は除き、アンドレスの意見だけを述べた。

私の気持ちは変わっていないことも。

私の話を聞いたルイスは気落ちしていた。

騎士になって、貴族になった私と結婚をする。

それだけがルイスの生きがいだったのに、すべてが水の泡になってしまったのだ。


「無駄にしないわ」

「どうあがいても、王女と結婚する方法なんて考えられない。王族付の騎士になるまでに何年かかると思ってるんだ! その間にお前は、俺以外の男と結婚して……、子供を作るだろ!?」

「ルイス、落ち着いて」

「ロザリーが他の男と家庭を持つなんて考えたくもねえ!! それだったら、騎士なんて辞めてメヘロディ王国を出て行く!!」


この話をすれば、ルイスが取り乱すかもしれないとは思っていた。

思った通りの展開になり、私はルイスから離れ、彼と向き合う。


「私……、考えていることがあるの」

「考えてること?」


私の話に関心を持ってくれた。


「私の作戦ではね、ルイスには騎士になってもらいたいの」

「……騎士になれば、お前と一緒になれるのか?」

「それが平穏に済むやり方」


私はアンドレウスから「ルイスのことは諦めろ」と言われてから、ずっと考えていた。

一国の王女が平民であるルイスと結婚する方法。


「それが叶わなかったら……、私はメヘロディ王国を捨てる。貴方についてゆくわ」

「……」


グレンには全て話したけど、ルイスを失望させないためには結論だけを告げた方がいい。

悲痛な表情を浮かべていたルイスも、私の言葉に耳を傾けてくれている。

希望はまだあるのだと、信じてくれている。


「だから、落ち着いて」

「ああ。お前を信じるよ」

「ありがとう」


私はルイスの手を握った。

ルイスの手のひらは大きくてガサガサしている。

私はこの手の感触が好きだ。

離したくない。他の人に触れさせたくない。

私もルイスが他の女の人と家庭を持ってほしくない。彼と同様、私も独占欲が強いのだ。


「ロザリーがメヘロディ王国の王女になったら、今のように会えなくなるんだよな」

「うん」

「手紙を書いても、受け取って貰えないんだよな」

「普通の方法では、私には届かないと思う」


暫くルイスに会えなくなることは覚悟していた。

手紙という連絡手段も、アンドレウスによって絶たれることも。

マリアンヌの手紙であれば、友人の一人として届くだろうが、ルイスのものは恋文と判断され握り潰される。


「グレンとマリアンヌ、二人の力を借りれば……、文通は出来るわ」


普通ではない方法。誰かの力を借りられれば、アンドレスの目をかいくぐって文通することができる。

現在の協力者はグレンとマリアンヌの二人。

私と約束をしたグレンと、私のことを理解してくれているマリアンヌの二人だけ。


「クラッセル子爵が出した条件よりも厳しくなるだけ」

「……そうだな」

「二年後……、結婚しましょう」

「ああ。必ず」


私とルイスは皆に見守られている中、誓いの言葉を立てた。

私の身分が変わろうとも、本当の父親に結婚を反対されてようとも、二年後、結婚をしようと。

ローズマリーは勝手に決められた婚約に抵抗するのだと。

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