テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
1,113
それから一週間後。待ちに待った瀬名の退院の日がやって来た。昨夜は柄にもなく寝付けず、朝からずっとそわそわして落ち着かなかったほどだ。
理人が迎えに行くと、瀬名は見送りに集まったナースたちと楽しそうに談笑していた。その光景に、胸の奥でチリリと焼けるような独占欲が首をもたげる。
不機嫌を顔に出しそうになるのをグッと堪え、理人は瀬名のもとへと大股で歩み寄った。
瀬名は足音に気付いたのか、こちらを振り返ると同時にパッと花が咲いたように笑う。その無垢な笑顔を見た瞬間、先ほどまでの苛立ちは嘘のように霧散していった。
(――我ながら単純だな……)
呆れつつも、抗いようがない。彼への想いを自覚してからは、どんな些細な言動にも一喜一憂してしまう自分がいて、ほとほと戸惑ってしまう。
以前の自分なら「煩わしい」と切り捨てていたはずの感情が、今はひどく愛おしく、心地よいとさえ感じているのだから驚きだ。
「――おい。荷物はこれだけか?」
「あ、はい。元々そんなに物が多い方じゃないですし……」
理人がボストンバッグとキャリーケースを指差すと、瀬名は少し照れくさそうに頬を掻いた。それをひったくるようにして受け取ると、挨拶もそこそこに駐車場の方へと歩き出した。
「理人さん、タクシー乗り場はあっちですよ?」
「必要ない。今日は車で来た」
「えっ!?」
驚きの声を上げる瀬名を尻目に、手際よく荷物を積み込んで助手席のドアを開けてやる。
「なんだ、乗らないのか?」
「あ……いや、理人さんが車を持ってたなんて知らなくて。普段は電車通勤ですし」
「普段は使わん。仕事帰りに酒が飲めなくなるだろうが」
「あ、そういう……。ははっ、確かに理人さんらしいです」
苦笑しながら瀬名が乗り込むのを確認し、理人も運転席に滑り込んでエンジンを掛けた。サングラスを掛け、瀬名がシートベルトを締めたのを見届けてから、勢いよくアクセルを踏み込む。
「わっ、ちょっ……飛ばしすぎですよ! スピード違反で捕まりますって!」
「安心しろ。そんなヘマはしない」
「あぁもう……なんでそんなに自信満々なんですか……」
瀬名の呆れ声を、理人は鼻で笑い飛ばしてハンドルを切った。
「決まってるだろ。……一刻も早く、二人きりになりたいからだ」
言い放つと同時に、信号待ちの隙を突いてするりと左手を伸ばし、瀬名の太腿に置いた。途端、ビクッと身体を震わせる瀬名。理人はそれを見て、フッと意地の悪い笑みを浮かべた。
「……ッ、運転中に悪戯するのはやめてください」
「別に構わないだろ? どうせ外からは見えやしない。……それに、スリルがある方が燃えるんじゃないのか?」
「~~ッ、そうやって煽って……。狡いですよ、理人さんは……」
恨めしげに睨んでくる瀬名に、理人はますます口角を上げる。
信号が変わると同時に再び加速させ、左手はさらに際どい部分へと這い上がった。スラックス越しに、下から上へと形を確かめるようになぞり上げる。瀬名は小さく息を呑むと、堪らず身を捩った。
「んッ……」
「ほら、もっといい声で鳴いてくれよ」
「~~~~ッ! 調子に乗らないでください、このエロオヤジ!」
真っ赤になって抗議する瀬名だったが、理人は愉快そうに喉を鳴らすばかりで、一向に手を離そうとはしなかった。
そのまま暫く走り続けると、窓の外の景色はビル群から次第に緑豊かな風景へと移り変わっていく。
平日の昼間ということもあり、道路は比較的空いていた。時折すれ違う対向車の視線を勝手に意識してしまい、瀬名は居たたまれない気持ちで身を固くする。
一方の理人はといえば、サングラスの奥で不敵な瞳を光らせ、堂々としたものだった。
そんな彼の横顔を見つめながら、瀬名はこれからの「二人きりの時間」を予感して、さらに顔を熱くさせた。