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私の瞳に映る彼。

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私の瞳に映る彼。

3 - 2.続けられなかった過去の恋(Side百合)

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2024年08月09日

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松井春樹《まついはるき》と出会ったのは、高校1年のことだった。


私の通う高校は公立だけど、部活動に力を入れているスポーツが強い学校で、学科も普通科とスポーツ科がある進学校だった。


特にサッカーと野球が強く、中学で活躍していた強豪校の選手が多くスポーツ科に在籍していて、春樹もその中の1人。


彼はサッカー部に所属していた。



私は普通科で部活もしていなかったので、春樹とは特に接点がなかったけど、春樹は目立つタイプの生徒だったから入学して早い段階で彼の名前と顔は知っていた。


そう、春樹は目立っていたのだ。


サッカーが上手くて1年からレギュラーになっているだけでなく、目鼻立ちがスッキリした端正な顔立ちのイケメン。


二重だけど涼やかな目元は少し冷たそうなクールな印象を与えているものの、明るく笑顔で誰とでも気さくに話す性格のため、みんなの輪の中心にいるような人気者だった。


女生徒からは当然モテる。


入学するやいなや、同学年だけでなく、上級生の先輩方からも注目されていた。



そんな春樹と私が初めて話したのは、高校へ入学してしばらく経った6月。放課後の保健室でだった。



梅雨入りして雨の日が続く6月。

その日は珍しく雨が止み、晴れた日だった。


外で活動する部活も久々に練習ができるとあって、賑やかな声がグランドから聞こえてくる。



私はというと、もう1日も終わろうとする頃に生理が急に来てしまって、生理痛がひどく我慢できずに、放課後に保健室で薬を飲んでベットで横にならせてもらっていた。


保健の先生は会議があるとのことで、私がベットで休むのを見届けると、保健室を出て行ってしまい、私は1人。


いつの間にかだんだんウトウトしてきて、痛みを紛らわすかのように眠り込んだ私が目を覚ましたのは、保健室のドアが開く音がしたからだった。


ガラガラ‥‥


(保健の先生が戻ってきたのかな?)



そう思い、ベットから身を起こして、ベットの横に仕切るためにかかっているカーテンを開けてドアの方を見た。



「あれ?先生は?」


そこに立っていたのは、サッカー部のユニフォームを着た松井春樹だった。


どうやら練習中に怪我をしたようで、ヒザのあたりから血が出ている。


「先生は会議でしばらく不在だって」



(あ、松井くんだ。私は松井くんのこと一方的に知ってるけど、松井くんは私を知らないだろうな。不審者に思われないかな)



相手は自分を知らないだろうと思いながら私はとりあえず状況を説明する。



「そうなんだ。並木さんは何してるの?」


「えっ、私のこと知ってるの!?」


春樹が私を知っているのは意外だった。


だって私は部活もしていない普通の生徒だったから。


「知ってるよ。1年7組の並木百合さんでしょ?」


「そうだけど‥‥」


「並木さんは有名だから。それより保健室に1人で何してるの?具合でも悪いの?」


有名って??


春樹の言葉に若干の疑問を感じながら、私は彼との会話を続ける。


「うん、ちょっと具合が悪くて寝かせてもらってたんだけど、復活したみたい」


「良かったね。ところでさ、消毒液とバンドエイドがどこにあるか知ってたりしない?怪我しちゃってさ」


「それならたぶん、そこのデスクの横の棚にあると思うよ」



先生がさっき使っていたのを偶然見ていた私は棚を指差した。


春樹は棚の中からお目当ての物を見つけると、怪我をしたヒザを自分で手当てし始めた。


手持ち無沙汰になった私はその様子をベットの上に座ったまま、なんとなく見る。



「ふふっ」


「なに?どうしたの?」


「いや、並木さんが俺をじーっと見てるから面白くって。よく女の子って、手当てしようか?って言って近寄ってきてくれたりするけど、並木さんは見てるだけだね」


「‥‥‥‥」


いや、それはあなたがモテるから女の子が近寄ってくるのではないでしょうか?


思わず心の中でそうツッコんだけど、言葉にはせず、曖昧に微笑んだ。


春樹はそんな私の様子は気にせず話を続ける。



「さっきさ、並木さんは有名だから知ってるって俺が言ったでしょ?あれも意味分かってないよね。何のこと?って思ってる顔してた」


「‥‥そのとおりです」


「並木さんが可愛いって男子の間で有名なんだよ。気づいてなかったの?」


「まさか。全然」


「ふぅーん。じゃあ俺が今すごくラッキーって浮かれてるのも気づいてないの?」


「えっ」


急にそんなことを言われて驚く私。


ちょうど怪我の処置が終わった春樹は、手を止めて私と目を合わせた。


「俺もずっと並木さんのこと可愛いなって思って気になってた。話したのは今日が初めてだけど、いろいろ無自覚なところとか、マイペースな感じも可愛いなって思うし、こうやって2人きりになれたのもチャンスだと思うから言うけど‥‥もし良かったら俺と付き合ってくれない?」


「‥‥‥!」


「いきなりすぎるかもだけど、早くしないと他の男に取られそうだしね」



思いもよらない告白に言葉を失う。


あの松井春樹が私を‥‥?



黙り込んだ私を何も言わずじっと見つめる春樹。


保健室に静寂が訪れ、グランドから聞こえる部活動の声だけが響く。



男性と付き合ったこともないし、付き合うということ自体が未知だ。


春樹と話したのも初めてだったし、春樹のことはまだよく知らない。


ただ、サッカーに一生懸命な姿とかを遠目から見ていて好感は持っていた。


こんなふうに言われて嬉しいのは確かで。


だから私は正直にそれを告げた。


「あの私、付き合ったこととかないから、正直よく分からないし、松井くんのこともまだよく知らないけど‥‥私で良かったら」


「ほんとに!?思い切って言って良かった!」



こうして春樹と私の恋は始まった。


最初はなんとなく付き合い始めた感じだったけど、春樹との交際は順調だった。


春樹の部活が休みの日の放課後にデートしたり、テスト期間は勉強を教え合ったり、サッカーの試合の応援に行ったり。


一緒に過ごすうちに、私も春樹に惹かれていき、いつしか本当に好きになっていた。


お互いにとって初彼氏・初彼女であり、私たちはすべての初めてを一緒に経験した。


初手繋ぎ、初キス、初エッチ‥‥。


春樹とだったから幸せだった。



そうして過ぎていった私の高校時代。


大学生になっても春樹との付き合いは続くと思っていたのに、ある日突然、終わりが訪れる。



それは、高校3年の3月のことだった。

受験も終わり、あとは卒業式を迎えるだけの頃。



私は受験勉強を必死に頑張った甲斐があって、第一志望の偏差値の高い有名私立大学に進学が決まっていて、春樹も推薦でサッカーの強豪大学に進学することになっていた。



家族仲の良い春樹は、その日ご両親とともに、高校最後の旅行として近県へ車で出掛けていた。


そしてその旅行からの帰路、交通事故にあい、春樹とご両親は帰らぬ人となったーーー。



別れの言葉も何もないまま、私と春樹の恋は続けることができなくなってしまった。


その痛みを誤魔化すかのように、春樹ではない男性との付き合いと別れを繰り返しながら、今も私はあの頃に囚われているーーー。

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