「広瀬、課題のノート全部集めたら職員室に提出してくれな。」
「分かりました。」
いつもどこかの上司みたいな仕事の押し付け方をする先生。
それにいつも何も言わないロボットみたいな男子。
背は、170後半ぐらいか、スラッとしていて、眼鏡をかけている。
ロボット男子、広瀬葵くんは、The真面目な優等生だ。
6限目が終わった放課後、教室に残ってその光景を見る。
広瀬くんの了承を確認すると、上司は自分の車の鍵を見て口角を上げ、教室を後にした。
(今日もか。懲りない上司。)
広瀬くんは言われるがままに、教室にいる人達のノートを回収し始めた。
ほぼ毎日のようにこの光景を見ている。
「××〜!おまたせ〜!」
「あ、うん。今行くよー。」
ノートを回収する広瀬くんの後ろで、小春が手を振っている。
私はカバンを持って椅子をしまった。
「あ、○○さん、ノートありますか?」
「え、あー、机に入ってる。適当に持ってって。」
「…はい、分かりました。」
不意に自分も広瀬くんにノートの件を触れられたが、私は淡々と返事をして小春の所へ向かった。
ほんとにロボットみたいな人だ。
「今日ね今日ね〜宮本先生に授業の質問しに行ったら『天野が質問しに来るなんて明日は雪だなー』とか言われたんだよ!こんな春に雪降らないし!」
放課後、いつも寄る駅前のカフェでお茶をする。
私の前でプンスカ怒りながら今日の話をする女の子。
高校2年生にしては少し小柄で、ボブヘアーの可愛いを兼ね備えた子。
彼女、天野小春は、私の唯一の友達で、とても大切な親友だ。
「決めた!もう次から宮本先生に質問しない!」
「けど小春、数学苦手じゃなかったっけ?」
「よくよく考えたら××に教えてもらえば解決だよ〜!」
小春は腰に手を当てて満足気にドヤ顔をした。
私は少々呆れながらも、小春のあどけなさに微笑みフルーツタルトを口にした。
「実は今日ね、××に聞いて欲しいことがあってね…。」
しばらく会話を挟んだ後、小春が突然、モジモジしながら言った。
「聞いて欲しいこと?」
食べ終わったケーキのお皿にフォークを起き、端に寄せてメロンソーダを一口飲んだ。
「あのね…私…その…。」
なにやら言いずらそうに口を動かす小春。
私はゆっくりでいいよと、小春に微笑みを見せた。
それを見て安心したのか、小春は小さく息を飲み私を見た。
「あのね!私、好きな人出来たの!」
どこかで密かに考えていたことが私の頭から引き出された。
なので小春の発表に、そこまで派手に驚くことは無かった。
「そっか、良かったね小春!」
小春は顔をさっきよりもさらに赤らめ、照れ隠しなのか、両手でコップを持ってオレンジジュース飲み込んだ。
「で、相手はどんな人なんですか〜?」
私は小春を少しからかうような聞き方をした。
小春は自分の手で顔を覆いながらモゴモゴ話し始めた。
「気づいたら、すごく好きになっちゃって…。」
夕暮れ時のカフェからの帰り道。
小春の好きな人の続きを、私は隣で聞いていた。
聞くところによると、結構前から小春はその人のことを気にかけていたらしい。
好きになったのは最近だと。
「同級生、だっけ?何組なの?」
「えっとねー….あ。」
小春は急に足を止め、土手の下を見下ろした。
「ん、どうしたの?」
私も足を止め、小春の視線と同じ方に目を向けた。
その瞬間、私は目を大きく見開き、息を飲んだ。
心臓が、止まったようにさえ感じた。
一瞬で目も心も全て奪われた気さえした。
そこには、夕日に反射する綺麗な金髪と、しなやかな手で高く上がるボール。
スローモーションで空へと上がるボールと、その反動でなびかれる少し長めの髪の毛。
彼はきっとただボールを上げているだけなのに。
その一面がとても素敵で、綺麗だった。
私は小春の横で、何も言えず、ただひたすら感動していた。
金髪の彼は、高く上げたボールを手元に戻し、土手の途中に座ってスマホを取りだした。
私はきっと、今の一瞬で、恋に落ちた。
一目惚れなんて、正直ないと思っていた。
恋は唐突に現れるって意味が、今少しわかった気がする。
「あれ…あの人。」
「え?」
小春が不意に口を開き、私は小春に視線を向けた。
夕日のせいなのか、あるいは違う理由なのか、小春の顔はより一層赤みがかっていた。
「わ、私の好きな人、あの人なんだ〜!」
隣で囁く小春の言葉が入った瞬間に、私はその恋を終わらせた。
今の数分、いや、数秒の出来事は、全て忘れよう、そう決めた。
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