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銀世界の生き物なのか。この世の者とは思えぬ【白】をその身に宿した生き物。余白のない…いや、その存在自体が空虚な余白であるかのような美しく儚げな姿。そして、その表情や目すらも空虚であった…
今この瞬間までは
空虚な生き物は、時折世界に現れてはその世界の一部を歪にし去っていく…そして、また現れては同じことを繰り返す。それは他人の目から見れば空虚で、そして標的にされた者からは見れば脅威となる。
けれど前者であれ後者であれ結末は同じ…全て歪に変えられその命は絶えるのだ。
しかし、空虚な生き物はそれを悲しまない。それが在るべき姿であり、自分の存在意義であるから。ただただ何も感じず、己の意義を遂行して征く。
だからこそ、今その胸に込み上げてきた溢れんばかりの感情に驚いた。
目の前で急所である首を己に捕まれ目を瞑る小鼠は、少し周りから逸脱した面はあれ、殆どが塵芥と変わらぬ存在だ。
しかしどうだろう?先程のこの小鼠の眼光、言葉…一挙一動、全てが己に無いはずの【心】を震わせた。そしてそこで初めて理解する。俺はコイツを探していた、求めていた!
気づけば空虚なはずの瞳に獰猛な光が輝き、動くことのないはずの口角は歪に引き上げられていた。一言であらわすのならその表情は【獲物をみつけた獣】である。
空虚な獣はその手にある獲物を逃さぬよう、腕に閉じ込めようとし…次の瞬間には胸を貫かれ文字通り身体が弾けた。ああ、邪魔が入ったか。
再び空虚な顔に…いや、その目の奥に確かな熱を持って、しかし冷めた瞳を邪魔者に向ける。
「……おい、小鼠を返せ」
「返せだぁ?元々コイツはお前のじゃないだろ。私の下僕だ」
二つの視線がぶつかり、火花が散った。その後は大きな力のぶつかり合いである。魔女は持つ限りの魔法を駆使して相手を攻撃し、空虚な魔法は何度歪に崩れようともその姿を戻し反撃する。
しかし、勝敗は思わぬ形で決着がついた。
最強の魔女に、天才の魔女が加勢をした。更に逃げ場を失っていたはずの塵芥はこれまた塵芥の手によって逃走を開始し…これ以上は冗長、意味のないことである。
しかし戦いが大きくなったこと、逃走に意識を削がれたことで大きな隙ができていた…そう、致命的な隙である。
「これ以上は冗長…しかし、最強ともあろう者が油断したな」
「油断……?……!!しまっ!」
「もう遅い……が、今回は挨拶だけだ。小鼠が目を覚ましたら俺の言葉を伝えろ、それくらいはできるだろう……いや、必要ないか」
気づいたときには空虚な猛獣の腕の中、意識の無い少年は脱力した状態で抱えられていた。その少年の姿に微笑むと耳元に顔を近づけ猛獣は囁く、その精神こころに届いていることを確信して。
「小鼠、聞こえているだろう。次来たときには貴様は俺の元に来る…生贄として。それが貴様の運命であり、俺たちの宿命だ。みつけたからには決して手放さない……本来温情をくれてやる意味など無いし決してしないが、今回は特別に時間をやる。覚悟を決めておけ」
空虚な世界で、俺と二人で生き続ける覚悟を
他の誰にも聞かれない声で言いたいことを終えると、少年の身体を魔女に向かって放る。
「あっぶな!…おい、待て!テメェの目的はなんだ!?」
呼び止められた空虚な猛獣…反世界の魔法は、既に歪な空間から出てきた掌の上である。先程まで少年に向けていた微笑みはどこへいったのか、何の感情ものっていない表情で、二人の魔女を見る。
「俺はただ、出現し、変滅し、去る……そうして破壊を続け、いずれこの世界を滅ぼす。それだけを使命とした存在だ」
そして去り際に眠っている少年…イチに目を向けると、目を眇め、微かに微笑む
「案ずるな、すぐにまた来る…すぐにな」
そして魔法は歪な空間の中へと消えた。彼がその姿を現すのは遠くない未来であろう…そして、少年と邂逅する時も。