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その夜、獅子合たちが約束通り迎えに来てくれた。車の中で、心拍数が徐々に上がるのがわかった。カチコミメンバーは私、獅子合、佐山の三人。目標は誘拐された三兄弟の救出。私はまだ緊張していたが、彼らの冷静な様子に少し落ち着きを取り戻す。獅子合はハンドルを握りながら、これからの作戦について簡潔に説明してくれた。「敵は全員殺す。お前は三人を探して保護して、気絶させるだけでいい。後は俺たちが処理する。」
その言葉を聞き、私は少し胸が苦しくなった。殺しに参加するわけにはいかないけれど、三兄弟を守るためには迷っている暇もない。
「分かりました。」
と答え、心を決める。
車はどんどん速く、そして暗闇に溶けていった。敵のアジトがある場所は繁華街の一角に位置しているビル。その裏に、誘拐された三兄弟が監禁されていると信じて疑わなかった。
「じゃ、ここからは歩きだ。用意はいいか?」
獅子合が声をかけ、車を停めた。
「もちろん。」
私は竹刀の入ったバッグを肩に掛け、すぐに車を降りた。冷たい夜風が肌に刺さり、身が引き締まる。獅子合と佐山が先導し、私はその後ろをついていく。ビルに近づくにつれ、緊張が再び胸を締め付けた。
ビルの中は薄暗く、静寂が支配している。獅子合と佐山が前方に立ち、私がその後ろに続く。次の瞬間、佐山が大声を上げた。
「どうもぉ!ぶっ殺しに来ましたぁ!」
その声がアジトの中に響き渡り、敵の注意を引きつけた。
「てめぇら全員生きて帰れると思うなよ!」
と敵が怒鳴り返してきた。二人が注意を引いている間、私は別の部屋に入り、誘拐された三兄弟を探し始めた。目が慣れてきたのか、目の前に広がる倉庫のような部屋の奥に気配を感じ取った。
窓から外に目をやると、倉庫の隅に二人の男が見張りをしている。見張りの一人が油断している隙に、私は背後からその男を一撃で打ち倒した。勢いよく殴り込むと、男が倒れた瞬間にもう一人をも同じように倒し、気絶させた。二人の手には鍵が握られていたので、その鍵を使って倉庫の扉を開けた。
「だ、誰!?」
と驚いた声がした。電気をつけると、そこには二人の男の子が手錠で繋がれていた。
「大丈夫?怪我はない?」
と声をかけ、近づくと、一人の子供は身体中に広がる薔薇のような痣を見せ、もう一人は足元に宝石のかけらが散らばっていた。
「これって……」
私は息を呑む。この痣と宝石のかけらは、やはり奇病の症状だろう。しかし、そんなことを考えている暇はない。急いで次の子供を探さなければならない。
「ねぇ、君たちのほかにもう一人いるよね?どこにいるか知らない?」
二人は顔を見合わせ、そして私に縋りつくように言った。
「きっといつもの部屋だよ!」
「案内するからついてきて!」
私は急かされるようにその手錠を外し、二人を助け出した。外に出たところで、全身返り血まみれの佐山が目の前に現れる。
「見つかったんだね、よかった、よかった。」
「それが、もう一人いなくて……二人に聞いたら、いつもの部屋ってことだったんですけど。」
薔薇の痣のある子が私の腕を引っ張って急かしているので、その手を取って後をついていくと、目的の部屋に辿り着いた。
「きっとここにいるはずだよ!」
彼の声に、私は慎重にドアを開ける。部屋の中には、鎖で繋がれた男の子と、その男の子に鞭を撃っている男がいた。
「コウタ!」
彼らは叫び、男の子に駆け寄る。その顔は赤い結晶で覆われており、全身がまるで石にされてしまったかのようだった。
「あ、お前ら何逃げてんだ!?」
と言い放つ男が拳銃を取り出し、子供たちに向ける。それに気づいた佐山はすぐに反応し、しなやかに日本刀を抜いて、男の体を一刀両断した。
「ぐえええええっ!」
男は絶叫し、その場に倒れた。
「まだ一匹残っていたのか」
低く、淡々とした声が響いた。
「お見事。」
すぐに、二人の子供たちがコウタの鎖を解き、「大丈夫か?」と声をかける。
「この結晶は一体……」
「これも奇病の一つなんじゃない?」
この子を病院に連れて行かなければ、命が危うい。
「三人とも、早く車に乗って。病院へ行こう。」
私は背中を押しながら言ったが、ひとりの子供が少し不安げな表情を浮かべる。
「あなたも、俺たちを傷つけるの?」
その目がまっすぐ私を見つめてくる。私はその手を握り、微笑んで答えた。
「ひどいことはしないよ。病院に行って君たちの傷を見てもらわなきゃ。それに、君たちの病気もね。」
急いで三人を車に乗せ、美紀さんがいる病院へと向かう車の中で、私は彼らの顔をじっと見つめた。彼らの未来に希望をもたらすため、私は全力で守り抜くと心に誓いながら。
車で二十分ほど車を走らせると病院についた。
「美紀さんいる?」
「ここは救急病院じゃないんだがねぇ。」
あくびをしながら美紀さんはそう言った。
「実はさっき誘拐された三人を見つけてきて、どうも奇病みたいなの。」
「ほう、どれ、見せてみな。」
三人を診察室の中に入れると美紀さんは診察を始めた。私たちは待合室で待つ。
「ねぇ、獅子合。」
「どうした。」
彼の無表情な顔を見ながら、私は少し躊躇ったが、気になっていたことを口にした。
「怪我してないの?」
獅子合は軽く肩をすくめて答えた。
「あぁ、俺たちは無傷だ。」
その言葉に、少し安心した。だが、隣にいた佐山が口を挟む。
「あいつら弱すぎたからな!」
彼は笑いながら言うが、その目はどこか冷たい。無理もない、あんな奴ら相手に命をかけるようなことはないだろう。私も自分の中で、冷静に判断できる部分があったから、少し安心した。まぁ、本物には勝てないかぁと苦笑いを浮かべながら、私の気持ちを落ち着ける。
しばらくすると、美紀さんが診察室から出てきた。彼女の表情は険しくもなく、どこかホッとしたような安堵が見え隠れしていた。
「終わったよ。」
三人の子も一緒だった。咲いていた薔薇はすっかり無くなり、体を覆っていた結晶も美紀さんの手によって取り外されていた。
「こいつは薔薇咲病、こいつは宝石病、こいつは狂獣病だ。」
どれも聞いたことのない病気だった。詳しく聞くとこうだ。
薔薇咲病は体中に黒ずんだ痣があり血を流すと共に咲く病気。しかもこの薔薇の茎には刺があるため、それが肌に刺さり痛みを伴う。末期になると貧血や衰弱が進行し、死ぬと体中に根を張り大きな薔薇の木になる。貴族たちが最も美しい死だと噂しているため高値で人身売買される。生きたまま埋められたりすることもあるそうだ。突然変異で発症した患者が見つかり、この子供が生まれる確率は一パーセントにも満たない。
宝石病は流した涙が宝石に代わる病気。死ぬと大きくて高価なダイヤモンドに変わる。感情によって流した涙が変わるのだが、どれも高値で売れる宝石である。例えば、喜びの涙だったらエメラルド、怒りの涙はルビー、悲しみの涙はターコイズ、楽の涙はローズクォーツというように。
新生児の段階で判明することが多く、生まれつきの体質である。ただ、頻繁に涙を流すと涙腺に痛みがでる。末期になると体の一部が硬化していく。宝石が高価すぎるため、患者は狙われやすい。涙を無理やり流させる「搾取施設」が存在し、犯罪組織が彼らを拘束し、感情を揺さぶることで宝石を収穫する。先程彼らが捕らわれていた場所もそうだった。一部の王族や貴族は、彼らを愛人や妻に迎え、「美しい涙を流させることがステータス」と考える異常な文化もある。
狂獣病は人体実験により生み出された病。怒ると狂った獣のように暴れ出すことからこの名が着けられた。傷つけても傷つけても流した血が硬化して彼の防具となるため殺すことは不可能と言われる。元々軍事実験の産物であり、特定の血統に遺伝することもある。末期になると常に怒りが抑えられなくなり、理性が完全に消失する。その昔、殺せない兵士として戦場で利用された過去があるとか。
私たちが持つ病は「美しい死」を持つため、闇市場で取引される。一般市民には呪われた病として恐れられているが貴族には高値で取引される資産と見なされているのだ。
「玲子みたいに何年で死ぬとかは?」
「ないよ。三人共治らないけど人と同じように死んでいく。」
「よかったなー坊主たち。」
佐山は三人の頭をわしゃわしゃとなでくり回した。私は優香に電話をかけた。
「もしもし、優香?」
電話の向こうから優香の声がすぐに響いた。
「あぁ、どうした?もう終わったのか?」
「うん、終わったよ。それで一つ相談なんだけどさ……今日保護した三人、私名義で養子にしてもしていいかな。」
優香がしばらく黙った後、少し驚いたように答える。
「ほぉ?お前あと一年も生きられないんだぞ?」
その言葉に少し心が締めつけられたが、私はそれでも決意を新たにして答える。
「わかっている。でも、自分の星屑を誰かのために使いたいって思える子たちだったの。それに優香、雨宮家の財産を渡す人が欲しいって話していたじゃない。」
電話の向こうで、優香がため息をつくのが聞こえた。まるでどうしようもないと思っているような声で、
「やれやれ、わかったよ。いったん家に連れて帰ってきなさい。いいね?」
「わかった。」
私は軽く答え、電話を切ると同時に獅子合が驚いた表情をしているのに気づいた。
「玲子、お前正気か!?」
その質問に私は苦笑いを浮かべながら答える。
「えぇ。」
獅子合はその答えにさらに驚き、佐山は少し焦りながら言う。
「養育費はどうするの?」
私は少しの間黙ってから、ゆっくりと目を閉じて答える。
「それなら私の星屑を使えばいい。有り余っているし。高値で売れるし。」
前から決めていたのだ。自分の星屑は他の人たちのために使おうと。これが私の残された時間でできる唯一のことだと思った。
「君たち、私の家に来ない?」
その言葉に、三人は驚いたような顔をしたまま、無言で私を見つめている。
きょとんとした表情のままで、まるで私の言葉が信じられないようだった。