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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第五十一話 約束の場所
彼から届いた、
『事故の日、誰かと一緒にいたかもしれない』
という言葉を、彼女は何度も読み返していた。
「誰かと一緒にいた」。
その一言が、妙に引っかかる。
彼女自身も、あの日のことを何も覚えていない。
でも――完全に何もないわけではなかった。
断片だけが残っている。
駅。
夕方。
誰かと歩いている感覚。
そして、何かを渡そうとしていたこと。
彼女は机の上に置いた古いノートを開いた。
昨日見つけた「渡す」という予定。
そのページの前後を確認する。
すると、その日の予定の下に、
薄く消された文字が残っていることに気づいた。
鉛筆で書いたような跡。
何度も消したのか、ところどころしか読めない。
彼女は光を当てながら、ゆっくり文字を追った。
「……駅……裏……?」
その先は読めない。
でも、駅という文字だけははっきりしていた。
彼女はすぐに彼へ送った。
『事故の日の予定、もう少し調べた』
『何かあった?』
『「駅」って文字が残ってた』
彼から返事が来る。
『俺の方にも駅がある』
二人は、それぞれの記録を見比べた。
場所は同じ。
時間も近い。
やっぱり、
あの日に二人が会う予定だった可能性は高い。
でも、まだ確信は持てない。
彼女はふと思った。
『ねえ』
『うん』
『事故が起きた場所って、分かってる?』
少し間が空いた。
『詳しい場所までは知らない』
『調べられそう?』
『たぶん』
彼は自分の古い書類を探し始めた。
しばらくして、一枚の紙を見つける。
事故後の記録だった。
そこには、事故が起きた場所が書かれている。
彼は住所を見て、固まった。
駅の名前。
その近くにある道路。
写真に写っていた道。
全部が近い。
『見つけた』
『どこだった?』
彼はその場所を送った。
彼女は地図を開いた。
そして、息を止めた。
事故現場。
写真に写っていた道。
駅。
すべてが一本の線でつながっている。
『……ここ』
『うん』
『写真の道から駅に向かう途中』
『そうみたい』
二人はしばらく何も送らなかった。
ここまで偶然が重なることなんてあるのだろうか。
彼女はスマートフォンを握りしめた。
『私たち、本当にあの日ここにいたのかな』
彼からの返事は、すぐには来なかった。
やがて、
『確かめたい』
と届く。
その言葉を見て、彼女は少しだけ迷った。
会う。
実際に会って、一緒にその場所へ行く。
それは、今までよりずっと大きな一歩だった。
『……会ってみる?』
送信してから、彼女は心臓が速くなるのを感じた。
既読がつく。
数秒。
十秒。
そして――
『うん』
たった一文字だった。
けれど、その一文字が
二人の関係を変えるには十分だった。
事故のことを知るため。
過去を確かめるため。
それだけのはずだった。
それなのに彼女は、なぜか少しだけ思っていた。
この人に、ちゃんと会ってみたい。
過去のこととは関係なく。
今の自分として。
コメント
1件
いやー、このエピソード、めっちゃ良かったわ……! 「駅」っていう共通の手がかりから、お互いの記録を照らし合わせて徐々に真実に迫っていく感じ、ドキドキが止まらなかった。特に、事故現場の住所を見つけた後の無言のやり取りと、『会ってみる?』からの一文字『うん』。あの沈黙に二人の覚悟と不安が全部詰まってて、胸がぎゅっとなった。 過去の謎を追ってるはずなのに、最後に『今の自分として会ってみたい』って思う彼女の気持ち、すごく共感できる。続きが気になりすぎる🔥