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「へぇ~、やっぱり知り合いだったんだ。世間て狭いよね~」
「そうですね」
私は自分の口の軽さを呪った。
どこそこのと具体的な名称を出さずに、ただ引っ越してきたという話をすれば
よかっただけなのに、なまじリアルなマンション名を出して身元がバレるような
ことをして、あぁ、私ったらプロ失格じゃない。
そう思い至り圭子は凹んだ。
「それでね、僕はもう小泉さんと結婚しようって決めてるんだけど親がね、
心配性なものでプロポーズに待ったを掛けられてるんだよな」
「ご両親は何て言ってらっしゃるの?」
「興信所を使って彼女の素行に問題がないか、調べてからにしても遅くないと、
まぁそんなふうに言ってる」
「松尾さん、後顧の憂いなくご両親にも祝福してもらって結婚されたほうが
いいと思いますよ」
「それってやはり、調査したほうがいいってこと?」
「ご両親を安心させてあげてください。親孝行だと思って」
「何か反発心が湧いて、何なんだよ人が決めたことに文句付けるなんてっ
て思ってたけど、渚ちゃんにそう言われると不思議とあぁそうだなって
納得できるわ。相談してよかった。ありがとう」
「いえいえ、どう致しまして」
「ところで、ちなみに渚ちゃんが結婚を決めた時って旦那さんの身元調査なんか
したのかなぁ?」
「うちは、同じ会社の同僚だったし恋愛だったので、全くそういうのは……。
両親も何も言わなかったですし。
でも、お見合いだったらうちの両親も松尾さんのご両親と同じ提案を
したかもしれません。
何年も側で見ていて、その人の人となりが分かっているわけでは
ないですので」
松尾さんは、私と結婚相手について話せたことで拗れていたであろうご両親とも
揉めずに済みそうな手応えを感じたみたいで、その表情は明るかった。
あとはもう、北村さんや詩織さんとの会話に合流して楽しいお酒になったみたいで
良かった。
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