⚠とても長い。 ⚠最終回
rt.side
「おはよう」
夜にも関わらずおはようと言い、アポ無しで訪れたこいつ。
アポ無しはよくあることだから別に今となってはどうでも良いことだが、久々に来られるとこちらも驚いてしまう。
「なに」
「え、暇だった。」
「俺は暇では無い。」
「強がらなくても~」
キヨはまたまたぁ~とでも言いたそうに手をひらひらと振っている。
俺だって実況を撮ったり……うん。撮ったり…しないと駄目なのだ。
「ま、いいや」
「はぁ…いいよ」
ガチャリと軋むドアの音が鳴り
ここから運命の歯車を狂わす出来事が起こってしまった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
机へとコンビニの袋を投げてキヨはソファへボスリと座りスマホをいじりだした。
なので、「ここは家じゃない」と大きな声で言いたかった。
しかし、お菓子を沢山買ってきてくれたらしいので許してやることにした。
それにしても珍しい。
いつもよりも倍の量のお菓子を買ってきてくれていた。
「なんで今日はこんなにお菓子沢山買ってきたの?」
「んー、食べたかっただけ。レトさんも好きなの食べて良いよ」
「ありがと」
…ていうよりも、ぶっちゃけ俺が好きなお菓子が多すぎる。
この袋の中の9割は締めている。
俺は一応遠慮をしてその中のお菓子の5割を頂くことにした。
コンビニの袋をガサゴソしている姿に気付いたのかキヨがこちらへとやってきた。
「あれ?そんだけ?」
「え?」
どういうことだろうか。そんなのまるで俺に食べさせるために買ってきたみたいじゃないか。
「え、これ全部とってもよかったの?」
「全部は流石にだーめ」
「…まだ、受け付けてる?」
「心が広いから許してあげる」
そう言ってくれたので袋に手を伸ばそうとすると、次々と俺が欲しかったお菓子をあいつがとっていく。
「は?」
素っ頓狂な声を出して相手の顔を見ようとすると、キヨは「はい」と俺の前にずいっと俺の大好きなお菓子達を手に抱えきれないくらい持ってドサドサと俺の腕に落としてきた。
「まだ欲しいのあった?」
そう言われたので机の上にあるぺたんこになってしまったコンビニの袋の中身を覗くと、残りは彼が好きなものばかりが入っていた。
「ううん」
「そっか。ならよかった。」
ニコリと軽く笑ったように見えた顔がこちらを見ている。
妙に優しい今日の態度、表情、行動。
オンの時とオフの時の間みたいな、ぬるま湯につかっているような歯がゆいキヨにとてももどかしくなってしまう。
いつもよりも、静かでもないしうるさくもないから牛沢と居るみたいでリラックスできるから別にいいけれど…やっぱり彼らしさがないのでなんだか不思議に思ってしまう。
まあ誰だってそういう日もあるだろう。
俺はこの考えの締めくくりを曖昧に結んで幕を閉じることにした。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
モグモグと静かにさっきのお菓子を二人で食べている。
こんな時にキヨはぜっったいといっていいほどに話しかけはしないのだ。
なのに、今日は「おいしい?」とか「コレ一個食べてみてよ」とかポツリ、ポツリと言葉を零していった。
俺はそれに「うん」とか「ありがと」とかいつもとは変わらぬ返答をそいつに返すだけ。
けれど、その度にまるで弟のように、猫なはずだけど…犬みたいに無邪気なオーラで誇らしげな顔が見えるから。
嬉しくて、どうしても甘やかしてしまいそうになる。
だけどその時にきゅっと胸が痛くなるからちゃんと我を取り戻して、また黙ってお菓子の山に手を伸ばす。
ふと、俺よりも長い腕が目の前に現れた。
「ねー、これさ新発売なんだよね。」
キヨが指をさした先に目を向けると新発売と大きく書かれたチラシが置いてあった。
「へー。おいしそうじゃん。」
「でしょ?でさ、レトさんは食べたい?これ」
「うーん…食べれるなら食べたいけど買いに行くのが面倒くさいかな。」
「ふっふっふー。そういうと思ってましたよ。」
目をキラキラと輝かせてこちらを変なポーズで覗いてくる。
「待ってて」
そう言って俺の家の冷蔵庫の方まであいつが歩いて行くと綾鷹と、そこに書いてあったチーズケーキがそいつの手の中にあった。
「え?な、何でここにあるん?」
「え、だってレトさん、チーズケーキすきで……しょ?」
「そりゃぁまぁ……うん。そうなんだけど…」
「…嫌い……に、なっちゃってた…?」
「なら、おれたべよ」
「は、は、半分こ!半分こにしよう!」
「ん。いいよ」
散々俺をイジったのが満足したのか、いたずらげににやりと笑って綺麗に半分こにしてくれた。
そして少しだけだけど大きい方を自然と差し出してくるから俺はそれをすらりと避けて小さい方にわざわざ手を伸ばした。
そうすると、キヨはむぅと眉間にしわを寄せていかにもな不機嫌そうな顔をしていた。
大きい方じゃないと腹がいっぱいにならない癖に今日に限って、こんなに優しさの欠片を積み重ねられると本当に頭がおかしくなったのかと心配してしまう。
この空気に耐えられなかったのでフォークで自分のケーキを切る。
「うまいよ!これ!」
隣に振り向き笑顔で言うと、「良かった」とふわりとした笑顔で返される。
細くなった綺麗な二重の目を見てまたもやきゅぅとさっきよりもほんの少し強く胸が痛くなる。
駄目だ。このまま溺れては絶対にいけない。
ブンブンと脳内で雑念を振り払い、意を決して聞いてみる。
「キヨ君。今日なんか変だよ?」
「え?」
きょとんと目をまん丸にしてこちらを見てくる。
「いや、なんかいつもと雰囲気が違うなぁって思って。」
「そ…そんなにおかしかった…?」
「う、うん。別に変な意味ではないんだけどね?」
「…………マジか………」
はあぁと大きく溜息をつき、手で顔を覆っている。
その指の間から見える赤くなった頬がそいつのイメージカラーに合っていた。
だが、俺もそんな阿呆なことを考えている場合ではない。
その間に長い、長い沈黙が続いて二人とも一言も発言をしない。
それが本当に長い時のように感じて沈黙に耐えられなくなって
プツンと一本俺の何かの糸が切れた音がした。
ぶわぁぁぁ
顔がキヨよりも真っ赤に染まっていくのが自分でも分かってしまう。
こんなこと気付きたくなかった。
キヨを、あいつを、キヨ君を好きだということに。
さっき切れた糸は「恋愛」という糸だろう。
一気に爆発してしまった。
何日前からだろう。
一ヶ月前くらいからこの想いには蓋をしていたんだ。
キヨ君と一瞬だけ目がパチリと合う。
俺は顔を手で覆うのを忘れていてバッチリ顔を見られてしまった。
眼鏡とマスクがあって良かった…
だが、気付かれてはいないだろうか…?
そうするとキヨがもう熱が冷めたらしいので手を顔から離してこちらへと歩いてくる
来るな来るな来るな。
勘違いしてしまうだろうが…。
今日とことん優しさが積もって積もって、その重荷に耐えられなかった俺の他の糸も、束ねていたはずなのに何処かに飛んで生きたそうにしている。
あんなに優しくされたら
溢れて、積もって、切れて、
勘違いになっちゃうよ…
ねぇ…キヨ君……
キヨ君が俺の前にいつの間にか立っていた座高は同じぐらいだが身長差は明らかに違う。
俺は座ってあいつは立っていると余計に圧迫感がある。
俺はじりじりと壁へとあっという間に追いやられてしまった。
やめて、やめてよ。
顔は真っ赤で、もうすぐで「涙」という糸も切れそうで目が熱くなって涙が薄く溜まっているはずだ。
その圧に絶えられなくてうつむく。
これで安心だ。
そう思った矢先
「レトさん」
軽く震えた声で上から声が聞こえる。
俺は絶対にそちらを向かない。
「ねぇ………レトルト?」
ビクゥッと体が跳ねてしまう。
さっきの震えた声とは一変して、凄く落ち着いた年下とは思えない低い声で名前を、ふざけてでしか言わない、呼び捨てで呼ばれた。しかも耳元で。
バッと涙と眼鏡とマスクで真っ赤のぐしゃぐしゃの顔を上げる。
そうするとそいつとの距離は残り1cm
やらかした…
「何してんだお前」と口を動かそうとするがそんなことは出来なくなった。
チ
いい音は鳴らなかったが、柔らかい物が口に触れた。
「マスク越しだけど、ね?」
「~~~?!」
「………お前なぁ……」
か細く、消えそうな声で赤くなった顔を押さえるように隠す。
ここまで…やりますか………天然たらしめ…
「ね、レトルト。」
俺はまたもや動揺してしまう。
「そ、そ、それをやめろ…それを……」
精一杯の声を振り絞って言うとなぜかあいつが顔を赤らめて「ご、ごめん。」といってくる。こういう所は年下みたいだ。
「ね、ねえ、レトさん?」
「……お、俺…好きです。ごめん…順番違くて…。」
「…………いつから」
「へ?」
「た、多分、に、2カ月?いや…3ヶ月前くらいからかなぁ」
「へへ」と照れながら頬を書いている君を愛おしくまた感じてしまった。
「お、俺、気付いちゃってさ。ちょっとでいいから優しくしよっかなって…」
「………そのせいだよ」
「え、え?」
「……………………そのせいで…俺も…………好きになっちゃったんじゃん…………」
「は?!」
「俺…さっき、止められなくてキスしちゃって……い、嫌じゃなかったの?」
「は、はずい…」
俺は嫌だとは言わずにはずいと回りくどく一言だけそう告げた。
そうすると、キヨはふぅ、と溜息を一度ついて安心しきった顔でへらりと笑った。
「レトさん」
「なに」
そいつはマスクの耳の部分に指を掛けて「いい?」と、聞いてくる。
「嫌」
すかさず俺がそう言うとムッとしてまた、耳元で囁く。さっきよりももう1㎝近い距離で。
「お願い。レトルト。」
キッと俺が睨みをきかすと、あいつは俺の顔が真っ赤になったのを確認してからはらりと耳のフックを外した。
チュッ
短い幸せな一瞬だけのリップ音が静かな部屋に響き渡った。
end
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“あとがき”
ここまで読んでくださりありがとうございました。
これ、短編で出そうと思ったんですけど最終回に繋げれると思いとても長くなってしまいました。
それでは
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