桃赤
やらかした、と思った。
「今日、声優さんたちとご飯行ってくる」
俺ではない誰かとのトーク画面を見つめて、嬉しそうに笑う君。
いつもは耐えられるのに、
なぜか今日は、耐えられなかったんだよな。
「…ねえ、いつも他の人ばっかりで、俺のことはどうでもいいわけ?」
「……」
「……お前は俺に何を求めてんの?」
やめて、そんな顔を、そんな声を、俺に向けないで。
俺の、声を聞いて。
「さとみく、俺はただ、」
「りいぬ」
言い終わる前に、彼の鋭い視線が俺を貫いた。
「俺は俺のもの。お前だってお前のものだろ」
何にも縛られない、自由な君。
唯一無二の、君。
いつだって完璧で綺麗な君を、誰もが欲しがる。
俺だって、水面下で行われている争いを知らないわけではなかった。
だからといって、試すような真似は彼が最も嫌うことなのに。
ごめんなさい。俺が間違ってた。
精一杯の気持ちを込めて彼に言った。
「…俺は、さとみくんのものだよ」
彼は表情を変えることなく、冷たい瞳で俺を見つめて囁いた。
「……ふぅん、」
「お前が俺のものでも、俺はお前のものにはならないよ」
分かってるよ、そんなこと。ずっと。
そういう君を、好きになったんだ。
でも、だけど、それじゃ、
「…じゃ、もう行くわ」
君はどうしたら俺を映してくれる?
明らかな熱を持った多くの視線を受け止めながら、綺麗に、穏やかに笑う君。
だめ、こんな醜い感情は、潰さなければ。
彼に嫌われるなんて耐えられない。
今まで受けてきた賞賛も、彼の前では無意味だった。
彼の特別じゃない俺は意味がない。
「…っわ、びっくりした…」
「なに、まだ起きてたの?」
日付けが変わってから帰ってきた彼の頬は赤く染まっていた。
しかも、心なしかフラフラしている。
相当飲んだのだろうか。
俺以外の、人の前で。
耐えられなかった。
俺のさとみくんなのに。
耐えられなくなって、彼の唇を塞いだ。
数秒塞いでから唇を離すと、無機質な瞳が俺を見つめていた。
悲しかった。
ここまでしても、その瞳は揺れない。
その程度の存在なのか、俺は。
求めてさえくれない。
「…りいぬ?泣いてんの?」
気付けば涙が止まらなくなっている俺を君が見つめる。
もっと欲してよ。俺を。俺だけを。
「りいぬ、…」
黙って泣き続ける俺に、君は困ったように名前を呼んだ。
「どうしたら…どうしたら俺のものになってくれるの?」
「…だからそれは前にも、」
「俺はっ、さとみくんがいないと、生きていけない」
「好きだから、愛してるから、さとみくんが、俺のものじゃないのは耐えられないの、っ」
それくらい、君が好きなんだ。
分かってよ。
さとみくん、さとみくん。
ひたすら君の名前を呼んで、縋った。
自分でも気付かないうちに、すり減った心は限界を迎えていた。
自分の魅力を誰よりも知っているくせに、無頓着。
惹かれたものには、素直に手を伸ばして
飽きたものは、容赦なく切り捨てる。
誰にでも平等で、誰からも愛される。
それでも、誰かを愛すことはしない。
だからこそ残酷で、美しい。
「俺を捨てないで、俺を選んでよ」
「 」
俺を突き放すのも、引き寄せるのも、いつも君だ
コメント
12件
フォロー失礼します🙇♀️"
わっしょーーーい!!!天才じゃん!!!こういう桃さんがわたし好きなんですですです!!!!!!!!!!!!!
せいな最近浮上多くて助かるすき