どーゆーとこが好きなの?
その質問に、全部と答えてて僕は驚いた。
「シヴァさんは、好きなひととかどうなの?いないの?」
切り上げのタイミングを見誤ったなぁ。
よくないなと思いつつもシヴァさんとだらだらとお酒を口につけていた。
僕たちは仲が良かった。
結成当時数少ない成年した大人組だったこともある。
ふたりともシェアハウスには住んでいなかったから撮影がえりによくご飯を食べに行った。
確かあの日は、僕の家で飲みなおしていた時だった。
「…いる」
「えっ、いるの?」
素直に答えてくれると思わなかった。
誤魔化される前提で聞いたのに、僕の方が心の準備ができてなくて慌てた。
「…聞いていいの?だあれ?」
「聞いてんじゃん」
「いやだって、シヴァさんが素直に白状するから。」
その日シヴァさんは饒舌だった。
普段よりもよく話した。様子がおかしいな、なんて思いつつまぁ色々あるのだろうと深入りはしなかった。
「でもさ、だからどうってするつもりはないんだ」
「え、なんで?」
「好きすぎるから、困る、し」
「好きすぎて、はシヴァさんがってこと?」
「うん」
会話がうまく噛み合わなかった。
だけどこの際どうでもいい。
普段恋愛の話は恥ずかしがってまったく喋ってくれなかったから、僕は聞くに徹したんだ。
「としもはなれてるし、向こうはまだ未来がたくさんあるから…邪魔しちゃ、悪いと思って」
「邪魔って、なんだよ」
シヴァさんの悪い癖だ。
すぐ自分を蔑ろにする癖がある。
酔うと余計にその癖が出た。その時だけは口調をキツくした。
「自分のことを邪険にしちゃだめだよ」
「…でも」
「怖いから、そんなこというの?」
「…かもな。」
空になった缶をコツコツ音を立てて遊んでる。
素敵なところがたくさんあるの、僕は知っている。
「かわいーんだよ。表情がね、くるくる回るの。みててこっちまで顔が緩む…最近それに気づいてさ。目で追っちゃって。やばいよなぁ」
誰、とはもう聞かなかった。
聞く必要がないような気がした。うっすらと浮かぶシヴァさんのだいすきなひとは、たぶん
「愛おしい、なんて初めて感じたよ」
寂しそうに笑った。
なんでそこで寂しそうに笑うんだよ、イラっとして何かがふつふつ沸き起こる。
ねぇ、もっとにやけたっていいんだよ。照れたっていいんだ。
男も女も、恋する時の顔はこうじゃないでしょう。
その笑顔は
諦めている顔なのだと、僕はすぐに気づいた。
「行っておいでいますぐ」
「は、は!?無理だろ流石に」
シヴァさんのぼんやりの原因がわかった。
背中をここで押さずして、いつ押すのだと。謎の使命感にかられた。
「だめ、行くの」
「もう終電ねぇよ」
「んじゃ、明日行ってきなよ」
若干喧嘩腰になりそうなところ、うりさんが助け舟を出す。
こういった時、うりさんは場の空気を読むのが格段に上手かった。
「気持ちはいますぐ伝えたほうがいいよ、明日だな。な、なおきりさんもそうだろ?」
つとめて明るい声で提案し、次に僕へ目配せしてきた。
怒るなよ、だそうだ。
「会いたいだろ、るなに。」
「…ん」
短い返事だった。でも顔はどこから固く決意した色がみえる。お願いだからもう悲観しないでよね、と強く願った。
「悪い、俺帰るわ…明日行ってくる」
「っ、シヴァさん」
必死だったとはいえ、強く言いすぎたかもしれない。人の恋愛に口を出しすぎたかもしれない。
謝っておかなければと、声をかけたらシヴァさんが僕の顔をまっすぐ見てきた。
「ありがと、なおきりさん。背中押してくれて」
じゃあね、それだけ言って部屋から出ていった。
…柔らかく笑っていた。
「なおきりさん、大丈夫だよ。あれでもいい男なんだからシヴァさんは」
「…いじける癖だけ直して欲しいよ僕は」
「心配なんだな」
揶揄うわけではなく、本心で言っているんだろう。
「なおきりさんとシヴァさんてさ、ふたりでいると、なおきりさんがすごくお兄さんしてるよなぁ」
「そう?…言われてみればうーん、そうかもね」
「シヴァさんもあながち、嫌ではなさそうよ。よかったな」
四つ年下の彼に言われて、恥ずかしくなりほおを掻いた。僕そんなにお兄さんしてたかな、なんて。
side sv
家につき部屋の明かりをつけた。
デスクの上真ん中の、膨らんだ黄緑色の封筒を手に取る。
告白された後もらった手紙はラブレターだった。
もらってから毎日眺めている。
眺めているというのは、今までうまく読めずにいたからだ。
かわいらしい、丸い字で一生懸命に書いてあった。
---俺のどこが好きだとか、ふたりで朝ごはん当番をしたときのこととか、テストでいい点をとって褒めたこととか…
俺が忘れていたこと全部書かれていた。
嬉しかったなんてもんじゃない、夢かと思ってしまった。
そんなに好いてくれていたのかと、顔を赤ながら手紙を見つめた。それと同時にいろんな感情が渦巻いた。
…置かれた状況はあの歳にして辛かったはずなのに。
10代で未来を決める大きな選択なんて、酷だと思った。夢をもてなりたい職業をみつけろなんて、学生生活が全ての高校生に選ばせるのは酷だよ。
社会人になり、無理難題に近いと気づいたのは最近のこと。
それでも、はっきりと未来を定めて突き進むことにきめたるなさんが眩しかった。…離れていくのかと、素直に応援できずにいた。
馬鹿だな俺は。
最後、るなさんはずっと咳をしていた。
風邪治らないんですよね、なんて笑っていたが
…アレは心身的ストレスからきてるんじゃないか。
だからって、俺ができることなんて何もないと思っていた。
だけど
まだ一緒にいられるのなら
俺にその権利があるのなら
守ってあげたい、今すぐ。
スマホを強く握りしめ、深呼吸した。
コメント
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名作すぎる…!!!もっと早く見たかった😭 のななさんの🐸❄️は良すぎるもん…まじで続きが楽しみです!!!
ここでの🌷さんと🐸さんの関係は、🌷さんがお兄ちゃんしてたらいいな、という願望を表したものです。