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一次創作BLです
瑠生→るい
明日翔→あすか
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「なあ、瑠生」
「なんや明日翔」
「心中できないかな?」
「あぁ…無理やろ」
瑠生は不治の病である。はたして明日翔は健康である。
「えー。そんなこと言わんといてやぁ」
「ほら、ふざけた事言うんやない。今日は学校やろ?早く行けって」
行きたくないなぁ。そんな愚痴をこぼす彼を急かした。
『行きたくない』を『生きたくない』と聞こえるのは何故だろうか?
「瑠生君、朝ごはんよ!」
「あ、おはようございます」
漫画やポテチの残骸を見て微笑まれた。
「あら、また瑠生くん来たのねぇ!優しいわ~」
「はは…。僕的には、遊びとかサボりの感覚だと思うんですけどね…」
「そんなこと無いわよぉ!ほらほら、ご飯食べなさい!じゃあね!」
「はい、ありがとうございます。いただきます」
あの人はずっと昔、俺が入院してきた時から世話してくれる看護士だ。
十六歳の今でも頭が上がらない。
(…ああ、そういえば。この病院で過ごして、六年経ったんや)
独りの病室を見渡す。換気の為に窓が開いていて、カーテンが朧気に揺らめいた。
隙間から見える高校に、嫉妬を抱いた。
「学校、行きたかったなぁ」
あと1ヶ月らしい。
「瑠生ー!ただいま!」
「え、早ない?」
「いや、もう学校終わったんやけど」
もうそんな時間か。昼ご飯食べたっけ…食べたか。いつの間にか差し込む光が淡い橙色になっている。
「そんでな、最終巻が2ヶ月後発売されるんよ!速攻買うからな!」
「せやかー、楽しみにしとるわ」
「おう!しとけ!」
彼は一度も学校の話をしたことがない。気遣いができるところ、モテるんやろうなあと予想した。
「どしたん?ぼおっとして」
「そういやな、俺、1ヶ月後死ぬみたいや」
「え、急やね」
「死ぬ直前に言やええか?」
「ごめんって!えー、いつからじゅみょー分かってたんよ」
「昨日やな」「うわあ…」
幼なじみだから彼とはもうテレパシーで会話出来る様にまで到達したが、今のうわあ、だけはよく分からなかった。
「死ぬ時は俺の手で死んでや」
「やめろ気色悪い。何お前、俺の事好きなの?」
「せやけど」
…冗談だろ?
「冗談だろ?」
同じ事しか言えなかった。
「嘘じゃあらへんよ。俺は、瑠生の事が好きです。付き合ってくれますか?」
たどたどしい言葉が、場の緊張感を更に堅くした。
「…1ヶ月宜しくお願いします?」
ああ、どうして拒否しなかったんだ。
恋人になったとてする事は変わらない。
身体を酷使するような行為は絶対出来ないし、すると言ったら朝のキス、昼のキス、夜のキスだろうか。
ただ、息が出来なくなる程のものは負担が掛かるし、触れるだけなのだ。理性を抑える彼は凄いと思う。
「なあ、瑠生」
「なんや明日翔」
「あと数時間後やろ」
「仕方あらへんよ、もう」
「やっぱ病院でなんかで思い出なんぞ出来んわ」
「いいわもう。未練は無いぞ」
「なあ、瑠生」
「なんや明日翔」
「心中しよう」
1ヶ月前も言っていた。深く、聞かなければ良かったのに。
「どうやるって?」
「落下、絞殺、溺死、なんでもええよ」
スラスラ出てくるそれに恐怖を抱かなかった己はどうかしていたのだろう。
「なるほどなぁ。でも実行はどうするんや」
「今は夜やし、瑠生と病院から抜け出したらすぐに全部出来るで」
「お前マジか」
「じゃあどうするんや?」
「やろう」
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バタン。タッタッタッ。タッタッタッ。タッタッタッ。タッタッタッ。タッタッタッ。タッタッタッ。
「なー明日翔、俺あとちょいで死ぬんやな」
「俺もや。あー、実感湧かんわ」
「だって俺ら今生きてるもんな」
「うわ、海ってこんなデカいんか」
「学校じゃあ修学旅行で海行ったんよ」
「へえ、そうなんか」
初めて明日翔が学校という単語を発した。おめでたい日だ。
「俺さあ、瑠生が居らへんから学校行きたかなかったんよ」
「おん」
「瑠生が早く死ぬのも予想はついてた」
「おん」
「学校行く意味が分からなくなった。そん時に瑠生から寿命の話を聞いた。すぐに心中の手筈を始めた」
潮が満ちてきた。漣に耳を澄ます。
「瑠生。もう用意出来たで」
「ああ、じゃあ飛び込むか」
バシャン。というか、ドボン。というか。
「なあ」
「うん」
口から漏れ出る泡は、銀色だった。月光を頼りにお互いの手を掴んだ。
「来世も一緒だよ」