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放課後、兄を探して歩く廊下。
いつもならまっすぐ教室に行くのに、今日だけ少し足が遅い。
理由は、はっきりしている。
────また、会うかもしれないから。
そんなことを考えた瞬間。
黒名「….いた、いた」
低い声。
びっくりして顔を上げると、
そこにいたのは────
黒名蘭世。
真白「あ…..」
一度しか会っていないのに、すぐわかる。
視線が合う。
あの時と同じ、静かな目。
でも────
黒名「真白」
迷いなく呼ばれる。
真白「……っ」
胸が、きゅっとなる。
真白「覚えてたんですね」
思わずそう言うと、
黒名先輩は少しだけ首を傾げた。
黒名「言った、言った」
短くて、当然みたいな返事。
────忘れない、って。
真白「……はい」
なんだかそれだけで少し嬉しくなる。
黒名「兄貴、探してる?」
そう聞かれて、はっとする。
真白「え、あ、はい…」
本来の目的を思い出すと、
黒名先輩は少しだけ間を置いて────
黒名「後でいい」
また、それ。
この前と同じ言葉。
真白「でも….」
黒名「今、会った」
それだけで理由になるみたいに言う。
ずるい。
そう思うのに嫌じゃない。
真白「少しだけなら…….」
そう答えると、
ほんの少しだけ、彼の目が和らいだ気がした。
そのまま、隣に並ぶ。
不思議と、自然に。
沈黙が続くのに、気まずくない。
むしろ、落ち着く。
黒名「……静か」
ぽつり、と黒名先輩がつぶやく。
真白「え?」
黒名「お前といると」
また同じことを言う。
でも前よりも、少しだけはっきり。
黒名「好き」
一瞬、時間が止まる。
真白「……..え?」
思わず聞き返すと、
黒名先輩は少しだけ考えるように視線を落として────
黒名「違う、違う」
ぽつり、と訂正する。
心臓が変に跳ねる。
黒名「まだ」
その一言に、息を呑む。
黒名「でも、近い」
まっすぐ見られて、逃げられない。
真白「……..っ」
何も言えない私を見て、
黒名先輩は少しだけ距離を詰める。
黒名「嫌?」
静かに聞かれる。
答えなんて、もう決まってるのに。
真白「…..嫌じゃないです」
小さく答えると、
ほんの少しだけ、安心したみたいに目を細めた。
黒名「ならいい」
それだけ。
でも────
そのあと、さりげなく。
私の袖を、軽くつまむ。
真白「……黒名先輩?」
黒名「逃げないように」
さらっと言う。
真白「逃げませんよ….!」
思わず言い返すと、
少しだけ間があって。
黒名「知ってる」
小さく、優しく。
黒名「でも、こうしたい」
その一言で、
もう何も言えなくなる 。
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触れてるのは、ほんの少しだけなのに。
その距離が、やけに近く感じて。
────出会ったときより、確実に。
特別になっている気がした。