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佐伯 星導

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佐伯 星導

1 - 患い、煩い

♥

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2025年06月23日

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ヒーロー敗北

ーーーー


精神科から帰ってきて、薬局からの袋を地面に投げ置く。

『どうでした?』

『やっぱり悪化していましたか。安定剤、また出されてますね。』

佐伯イッテツ。統合失調症を患っている。2週間前に退院したばかりで、完全に治ったわけではないのがまたつらい。

『今日は早めに寝ちゃいましょうか。ほら、眠剤持って来てください』

星導ショウ。小さな町の鑑定士。佐伯イッテツとはただの友達。医者に佐伯の世話を任されている。

「るべくん、持ってきたよ」

『あれ、前出されてたやつより強い薬じゃないですか。眠り浅いですか?』

コクコクと頷く佐伯。

「頭の中で飼ってる怪物が暴れるんだ。世話をしないといけないから眠れない」

なるほど、どおりでクマがひどいわけだ。早く寝かせるべきですね…

『ん、飲めましたね。今氷枕を持ってきますから、横になって待っててください。』

「ありがとうるべくん」


冷蔵庫の扉を開け、水色の氷枕を抱えて戻る。

『今日は怪物暴れないといいですね。何かあったら起こしてください』

「ありがとう、おやすみ」

『はい、おやすみなさい』


ーーーー


眠剤の効果が強すぎたのか、結構な時間までベッドから音沙汰無かった。死んだかと思って少し心配したが、昼過ぎになって漸く起きてきた。

『お、起きましたか。よく眠っていましたね』

「おはよう、久しぶりにぐっすりだったよ」

『よかったです。申し訳ないんですけど、さっき本部から連絡が来て「嫌だ」

『え?』「行かないで」


内心かわいいななんて思いながら『大事な任務なので』と優しく返す。

『寝起きからこんな思いさせてしまってすみません。終わったらすぐに帰りますから』


ーーーー


……


一人は嫌だよるべくん





ーーーー


任務を終え、急いで帰ると、やけに楽しそうなイッテツが目に入った。

「おかぇりるべくん!!!!」

『おや、元気そうでよかったです。何かいいことありましたか?』


何かがおかしい。


「今日はね、るべくんが外に出た後小さなおとこのこがはいってきぇたくさんおはなししたの!!大きいきょうりゅうはたまごをうんでしぼんだよ」

『イッテツ』

「そしたらけむりがわたあめになって空にいったの、おれのたましぃは地面にバチンって『イッテツ!!!』


すぐさま抱きしめる。枕元には空になった薬のシートが3枚。

『イッテツ、お水飲みましょ。そしたらすぐ寝ましょうね』


少し多めに水を飲ませ、少し杞憂して 飲むゼリーも渡す。うまいうまいと言って食べてくれた。

氷枕をベッドに置き、横たわせる。

「でもけっこううまいこといったんだよ!!!ガラスのうさぎは割れて、わた編みタイガーは...」


眠ってくれたみたいだ。寝たままぽっくり逝ってしまわないように、朝しっかり起こそう。


『明日は一緒に映画でもみましょうか。それともイッテツはゲームがいいですか?』

『明日は何を食べましょうか。イッテツの好きなものなんでも頼んでください…』


ーーーー

るべくんが眠った後、静かにベッドを抜け出す。

小瓶に入れられた薬を棚にしまい、タバコを吸いにベランダに出る。

時刻は22時。るべくんが眠るには早すぎる時間だ。


俺は統合失調症なんかじゃない。ただるべくんと一緒にいたいだけ。

だから入院中は苦労した。演技が下手くそだったから、重症患者と捉えられて病院にぶち込まれた。


だからもうヘマはしない。


クマがひどいのはバレない程度のメイク。そして



さっきの小瓶は惚れ薬が入っていたもの。

るべくんのドライヤーを手伝った時に、ヘアオイルと称して髪の毛になじませた。

遅効性だから、本人も自覚できないだろう。


毒の煙と混ざった甘ったるい声がベランダに響く。


これでずっと


「俺と一緒」



ーーーー

佐伯は星導に恋しているわけではなく、ただ誰かと一緒にいたかったんですよね。星導じゃなくてもいいとか思ってそうでぐうクズ



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