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「……」
休み時間、なつは教室の端で、楽しそうに話すすちを見ていた。
(あいつ、結構人気者なんだよな。……今まで、気にしたことなかった。)
自覚して以来、当たり前のことに一喜一憂する自分に、もうずっと嫌気がさしている。
「おいなつ?誰のことみてんの?」
背中を叩かれ振り返ると、腐れ縁の友人がニヤニヤしながら立っていた。
「あぁ、お前か。誰だと思う?」
隠し通す段階はもうとっくに過ぎている気がして、意地悪く問いかける。
友人は一瞬驚いたような顔をし、失笑した。
「え、何?お前好きな奴でもできたの。」
「まぁな。」
「まじか、意外だわ。本気の恋愛とかしなさそうなのに。」
自分でもそう思っていた。
まさか、これほど深く意識を奪われる日が来るなんて、想像すらしていなかった。
「……まぁ、する気なかったんだけどな。」
「はは、恋煩いってやつ?」
「うっせぇなぁ、」
恋煩い、か。友人の言う通りなのかもしれない。
今まで恋愛経験がないわけではないが、こんな気持ちになったのは間違いなく初めてだったし、自覚してから今日に至るまで、この熱が冷める気配は微塵もなかった。
(てか、何嫉妬してんだよ。だせぇ。)
別に自分は、すちからしたらただの「親友」だ。
付き合ってもない自分が、嫉妬なんかする権利、あるわけがない。
(まじで……最悪だ……。めっちゃ好き、だわ。これ。)
もう逃げられないほど深い場所まで、引きずり込まれてから随分と時間が経っていた。
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「……ひまちゃん。生きてる?」
放課後の教室。机に突っ伏していたなつの頭上で、聞き慣れた、そして今一番遠ざけたい声が響いた。
すちがひょいと覗き込んでくる気配がして、なつは反射的に顔をさらに腕の奥へと埋める。
自覚してからもう何度目になるか分からない、この拒絶反応。
「……生きてるわ。寝てんだよ、話しかけんな。」
「またまた。寝てる人の返事じゃないでしょ。ほら、これあげるから顔見せて」
カサリ、と机に置かれたのは、なつが好きなミルクティーだった。
以前の自分なら、迷わず「サンキュ」と言って受け取っていたはずだ。
けれど今のなつには、その何気ない優しささえも、心臓を抉る鋭い刃のように感じられた。
(……無理。今顔見せたら、絶対全部バレる……)
「ひまちゃん……? 本当に具合悪いの?」
心配したすちが、なつの肩にそっと手を置く。
その熱が、服越しに肌へ伝わった瞬間。
「っ……!」
なつはビクッと肩を揺らし、弾かれたように顔を上げた。
「触んなって! びっくりすんだろ!」
勢いよく上げた顔が、すちの至近距離で止まる。
一秒。すちの長い睫毛が瞬く。
二秒。彼の美しい瞳が、不安そうになつを映す。
三秒。
(……あ、ダメだ。やっぱり、全然慣れねー……)
なつは限界を迎え、バッと視線を逸らした。
心臓がうるさいくらいに警鐘を鳴らし、耳の裏まで一気に熱が広がる。
「……ひまちゃん、やっぱり顔赤いよ。保健室、付き添おうか?」
「いらねーよ! 暑いだけだわ、この教室!」
なつは差し出されたミルクティーをひったくるように掴むと、椅子を派手に鳴らして立ち上がった。
「俺、先に帰るから! 追いかけてくんなよ!」
「えっ、ちょ、ひまちゃん!?」
後ろで困惑するすちの声を振り切り、なつは逃げるように廊下を走った。
(……自覚しなきゃよかったなんて、今更、遅すぎる。)
階段の踊り場で立ち止まり、冷たいペットボトルを頬に押し当てる。
今までみたいに隣で笑って、下らない話をして、一緒に帰る。
自覚する前までは当たり前にできていた「普通」の正解が、どうしても思い出せない。
時間が経てば経つほど、その距離感は分からなくなる一方だった。
視線を合わせれば、この溢れそうな想いが瞳から漏れ出してしまう気がして。
なつは、濁った感情を巡らせながら、独り静かに天を仰いだ。
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ミルクティーを握りしめ、逃げるように校舎を出ようとしたなつだったが、ふと旧校舎側の陰に、見覚えのある後ろ姿を見つけて足を止めた。
(……すち?)
女子生徒と向かい合って立っている。
その女子生徒の顔は赤く、手には一通の手紙。空気感だけで、そこがどんな場なのか、察したくないのに理解してしまった。
なつは、咄嗟に物陰に身を隠した。
見てはいけない。逃げるなら今だ。
そう分かっているのに、足が地面に縫い付けられたように動かない。
「……ありがとう。気持ちは嬉しいけど、ごめんね。」
すちの、穏やかで、でも一切の迷いがない声が聞こえてきた。
女子生徒が何かを言い返し、泣きそうな顔で走り去っていく。
(……断ったのか。)
女子生徒が走り去った後、なつは物陰で息を殺していた。
安堵と自己嫌悪が混ざり合って、なつの心臓はうるさいほど脈打っている。
「あれ、ひまちゃん、まだ帰ってなかったんだ。」
不意に横から声をかけられ、なつは心臓が飛び出しそうになった。
振り向くと、そこにはさっき告白を断ったばかりとは思えないほど、いつも通りの穏やかな表情のすちが立っていた。
「……っ、あぁ、忘れ物思い出しただけだわ。」
なつくんは咄嗟に目を逸らし、早歩きでその場を去ろうとする。
「待ってよ、ひまちゃん! やっぱり最近変だよ。顔、真っ赤だし……ずっと目合わせてくれないし。」
すちがトテトテと追いかけてきて、なつの腕をぎゅっと掴んだ。
「……っ、触んなって!!」
「……ごめん。……やっぱり、俺、何か嫌われるようなことしちゃった?」
すちの手が離れる。その声があまりに弱々しくて、なつは思わず足を止めてしまった。
恐る恐る振り返ると、すちが捨てられた子犬のような顔で立ち尽くしている。
「……嫌ってねーよ。……ただ、その……、色々、あんだよ。……てか、お前、さっき、告白されてたろ。」
「え?あぁ、見てたんだ。……うん、断っちゃった。今はそういうの、興味ないから。」
すちは何でもないことのように言って、再びなつの顔を覗き込もうとする。
「そんなことより、ひまちゃんの方が大事だよ。……ねぇ、本当はどこか悪いの?」
そう言ってすちは、そのまま顔を近づけて、なつの額に手を当てた。
(……っ、近い……!!)
鼻先が触れそうな距離。すちから漂う、いつも通りの優しい匂い。
すちにとっては親友を心配する行動でも、なつには致死量の刺激だ。
「……熱い。ひまちゃん、これ絶対熱あるよ。今日は俺が家まで送っていくから」
「いいっつってんだろ!自分で帰れるわ!……絶対ついてくんなよ!」
なつはすちを突き放すようにして、今度こそ全速力で走り出した。
背後から「ひまちゃん!待ってよ!」と呼ぶ声が聞こえるが、今のなつには振り返る勇気なんて残っていなかった。
あいつは、何も気づいていない。
俺がこんなに苦しいのも、あいつが断った告白に勝手に一喜一憂していることも。
(……っ、まじで……、しんどすぎんだろ……)
自分の片思いの重さと、すちの無邪気な優しさ。
その埋められない差に、なつは泣きたくなるような心地で、夕闇の中を駆け抜けた。
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#sxxn
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#いるなつ
3e1
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コメント
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ああもう…第7話も刺さりすぎて息苦しい😭💔 なつの「自覚してから普通ができなくなった」感、めっちゃわかる…。ミルクティー受け取るだけのシーンがこんなに切なくなるなんて思わなかったよ。すちが告白断った場面を偶然見ちゃう展開も、なつの複雑すぎる胸中が痛いほど伝わってきた…「触んなって!」って叫びながら、実は触ってほしくてたまらない矛盾がもう…好きが溢れてるよなつくん…!🫠💕