「ふぅ」
3年1組の前で私は1人深呼吸をする。いよいよ初授業だ。
「悠希乃ー、頑張ってね」
「あ、新井先生。すごく緊張します…」
「わかるわかる、私もそうだった。特にさ体育だからさ怪我させたらやばいじゃん。もうガッチガチだったよ。」
「えー!見てみたかったなー」
「やだぁー!」
「あ、悠希乃さん。初授業ですね。」
高科先生!私の心臓がドクンと大きな音を立てる。
「すごい緊張しちゃってるぽいですよ。応援してあげてくださいよ。」
「頑張って。大丈夫だから、自信もって!悠希乃さんなら馴染めるよ。」
多分私の顔は今絵の具を塗ったように真っ赤だろう。
「高科先生、私一時間目空きなんですけど悠希乃の授業見てってもいいですか?」
「あぁ大丈夫ですよ。」
「あほんとですか?悠希乃いーい?」
「あはい!大丈夫です!なんなら心強いです!」
「俺も空きだから少し見てこうかな」
「ふぇ!」
「え?だめですか?」
「あいや、違います。そうなると思わなくて。」
だめだ。余計緊張してしまう。その緊張を誤魔化すかのようにして教科書に目をやる。自己紹介はやった方がいいのだろうか。
「あ!悠希乃先生!」
「ん?あ、朝の子だ!」
「そう!名前言ってなかったか。奥野楓でーす!」
「楓ちゃんか。1時間目よろしくね!」
「うんうん!ほんとは理科やだったけど悠希乃先生の授業なら6時間全部受けられちゃう!」
「えぇー嬉しいな。じゃあ私も頑張らないとね!」
「すごいじゃん悠希乃もう人気者だね」
「やっぱ若いっていいっすね」
「楓なにしてんの?」
「あ、みーちゃん!教育実習の先生と話してたの」
「え!いいなぁ。てかめちゃくちゃ美人じゃん。スタイルもいいし」
「それな。これで理科の授業とか神すぎ」
「2人ともありがとう!」
「2人とも時間ですよ」
「はーい」
「じゃあ私たちも入りますか」
「ですね」
1つ呼吸を終えてから教室へ繋がる扉を開ける。足を一歩踏み入れるとそこは、恐らく私に向けられているのであろう、期待や興味の籠った眼差しに溢れていた。先生たちはこういうものを何回も向けられていたんだな。こんなときでさえも他人事に考えてしまう自分に思わず変に口角が上がりそうになってしまった。教卓につくと生徒たちはシンと黙って私を眺めていた。それに耐えきれず思わず口を開く。
「みんなまだ時間あるからしゃべってても大丈夫だよ?」
「あじゃあ、早く授業始めちゃおうよ!悠希乃先生の授業は限られてるんだから」
「たしかに先生いいですか」
「私は全然いいけど」
みんなの胸中の思いが聞こえるような眼差しを向けられる。
「じゃあ、授業始めさせてもらおうかな」
よし!授業だ。まずは自己紹介から軽く済ませよう。楓ちゃんの言うように授業は限られている、その思いを胸に刻み生徒に向き合う。
「はい、みなさん。初めまして。教育実習生の一ノ瀬悠希乃です。皆さんの授業を担当できてとても嬉しく思います。では、早速進めていきましょう。」
「はーい」
よかった。滑り出しは順調らしい。
後ろの方で新井先生と高科先生が微笑んで話しているのが見える。少し、ずるい。
その後も教科書と照らし合わせつつ授業を進めていく。私の好きな生物分野だから少々熱が籠ってしまうがそれはご愛嬌。
「悠希乃授業よかったよ!すごいね。」
「俺もすごいと思うよ。やっぱり才能ありますね。」
「あ、ありがとうございます。そんな褒めていただいて嬉しいです。」
ただでさえ、褒めてもらえるのは嬉しいのに大好きな2人に褒めてもらえるのは天にも昇る心地だ。
「じゃあ次もがんばってくださいね」
「はい、ありがとうございます!」
つづく
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