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私の初恋はお兄ちゃんだった。生まれたときからずっと一緒にいて、いつも私と遊んでくれたお兄ちゃん。いつも手を繋いでくれる優しいお兄ちゃん。安海と泉が生まれてからは、2人で遊ぶなんてことは少なくなったけど、いつも一緒にいてくれる私だけのお兄ちゃんだった。だから、楓と出会ったときは嫌だった。私だけのお兄ちゃんが取られてしまったから。
でも……楓は理事長の娘だから怖くて逆らえなくて、そのまま何もできずに話が流れてしまって、お兄ちゃんと楓が将来結婚するなんて話がでたときは、壊れるくらい涙を流した。その時もお兄ちゃんは頭を撫でて慰めてくれた。
だけどもう、私の頭を撫でてくれないんだね。私のことを追いかけてもくれないんだね。
(あの……海未さん…?)
部屋の扉の向こうからいきなり聞こえてきた声。誰かが私のことを呼んでいるの…?でも、なんか話しかけられているというより、頭に…心に直接声が届いてくるような気がする。
(あの…白梨花月です。私は……テレパシーが使えるみたいなので……海未さんの心に言葉を念じています。きっと…私とは直接話したくないと思うから……。だから、心に聞いています。もちろん、聖さんたちには聞こえないように能力は調整してますので安心してください。海未さんが私のことを嫌っていることも伝わってきます。寂しさも…伝わってきます。)
(は?あんた何なのよ、人の心を覗くなんてプライバシーの侵害よ!それに私が嫌っているのを分かるなら、お兄ちゃんと別れて今すぐ出て行ってよ!)
(ねえ、海未さん。海未さんと聖さんは小さいころどんな人でしたか?)
(あんた人の話聞いてんの!?それに昔のお兄ちゃんのことも知りたいなんて、どんだけ欲まみれなのよ!)
(私は……聖さんのこと…もっと知りたいと思うこともありますが、今は海未さんがどんな人だったのかを知りたいです。きっと海未さんにとって私は大好きな人を取った最低な人間だと思います。でも……私はどう思われているとしても…大切にしたいから。聖さんの家族がどんな人なのか…お父様やお母様、安海くん、泉くん、そして海未さんがどんな人なのか聞きたいの……。)
(……お兄ちゃんは私の初恋なの。きょうだいのくせにバカみたいっていう…?もっと大人になれって思うでしょ。別にいいわよ、そんなの言われ慣れてるもの。)
(いいえ、思いませんよ。)
(は?あんた偽善ぶってるわけ!?私を取り込めば聖とも上手くいくし、家族とも親交を深められるとか思ってるんでしょ!?)
(……海未さんの言うことは一理あるのかもしれません…。でも私はそんな卑怯な手を使って聖さんや海未さんと話したいなんて思いません。今の聖さんのことは私の方が知っていることが多いかもしれません。ですが、私が出会う前のことは海未さんの方がよく知っていると思いますし、その思い出までをも奪おうだなんて思いません。)
(あんた、なんか掴めなくてムカつく。話し方も謙遜なのか距離が遠いし、人間らしくない。人間なんてもっと悍ましくて汚い汚れた生き物のはず。)
(海未さんは…そういう人間を望みますか…?)
(別に望むわけじゃないわよ。ただ…あんたからはなんか気持ち悪さを感じる。元人間なら図々しさとか穢れを感じてもおかしくない。あんたあれでしょ、いい子ぶって親とかも騙して心の中でだけ笑うようなタイプ。そういうやつが1番質が悪いのよ。)
(いい子ぶる……そうかもしれないですね。私には……確かなものがないので、その場しのぎの自分を作っていることはあるかもしれません。)
(ほら、急に自分を認めるふりをしてまた騙そうとする。)
(海未さん……海未さんはよくそういう考えかたをされるんですか…?)
(何、嫌味?)
(いえ…ただ、どこか寂しさを…感じたんです。海未さんの人生は海未さんの人生ですから、私が口をはさむようなものではないと思います。でも…どこか苦しげで助けを求めているようにも感じます。虚勢をはって何かを自分に言い聞かせているように感じます。)
(……。)
(海未さん……これ以上、私とは話したくないと思うので下に戻りますね。1度このテレパシーは切れますが、何かを念じてくだされば、また話をすることはできると思います。何か私でも……私なんかでも役に立てることがあったら教えてください。)