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宇津Q
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野々さくら
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「うーん」 病院のサイドテーブルに両肘を乗せ、額に両手に当てたこいつ。
目の前には起動させたパソコンがあり、文字を睨み付けてやがる。
「おいおい、まだ時間あんだろ? こんな湯沸かしヤカンみたいな顔してんじゃねーよ」
「書けるまでダメー!」って叫ぶこいつなんかスルーして、強制的に電動ベットのギャッジを下げる。
「もぉー!」とむくれようが、「お願い」と目をキラキラされても関係ねぇ。今ぶっ倒れるわけにはいかないんだよ、お前は。
十月下旬、秋晴れの日。病室に暖かな日差しが差す頃。病室に、くだらねぇ痴話喧嘩の声が響く。
今こいつがやっているのは改稿と呼ばれる、一度書き上げた原稿を書き直す作業だ。
受賞が決まってもそのままの内容を書籍化するワケではなく、担当と呼ばれる編集者と密に連絡を取り、作品を作り上げていくらしい。
今まで趣味でやってたことから、これからは仕事としての責任が出てくる。
その現実に直面していく中であいつは時折思い詰めた表情を浮かべることもあったが、絶対にやり遂げたいと一つ一つの文章を綴っていく。
こうしてまた季節は巡り、病室の窓から見えるのは真っ暗な空から落ちてくる白い結晶。初雪とイルミネーションで彩られた街並み。
気付けば、いつの間にかクリスマスの日を迎えていた。
「なんとかやり遂げたよ。これで、思い残すことないな」
ふわふわと舞う雪を細い目で眺め、ふぅっと息を吐くこいつ。
年内になんとか書籍化作業を終わらせ、あとは出版の時をただ待つばかり。
だからこそ。
「何、言ってるんだ? まだ本になってねーだろ? 責任持って見届けろよ」
「あ、そうだね」
細めていた目をパチパチと瞬きし、力強い視線を向けてくる、こいつの姿。
まだ終わってない。そう思い直したようだ。
まだ早いんだよ。お前の物語は、むしろ今から始まるんだろ? 作家人生でいえば、まだ序章に過ぎねぇんだからよ。
……だが、こいつは一年前と比べ、明らかに衰弱している。
もう座位を保つことすらムリなようでベッドで一日を過ごすようになり、窓からの景色を眺める時だけベッドのジャッジを上げていた。
本当はツリーぐらい見せに共用スペースぐらい連れていってやりてーんだが、車イスに乗るのも辛いらしく、俺が撮った動画を見て綺麗だと笑ってやがる。
ああ、こんなことなら街中のツリーを撮ってきたら良かったよ。動画サイトで一番良いイルミネーションとか探したら良かったのに。
一分ほどスマホを見ただけで気分が悪くなったこいつに、一番綺麗なものを見せてやりたかった。
まったく、気が利かねーな俺は。
「……お前さ」
「ん? なぁに?」
「いや、その、お前は。どんな人生を生きてきたのかとか、まあ思ったりして……」
「え?」
閉じていた眼をゆっくりと開いたこいつは、弱い視線を送ってくる。
吉永未来。俺は、こいつの人生を知りたい。
幼少期に小児癌を患い、同世代が外で走り回っている間もこいつは病院で辛い治療を受けていた。
長期の療養生活を経て一度は完治し、フツウに小学校へと通えた時期もあったらしい。
しかし中学生になった直後に微熱が出るようになり、こいつはまさかと思い隠していたらしいが、とうとう倒れてしまい精密検査の結果、再発が確認された。
転移が複数箇所にみられたことから、根治は不可と判断。十八歳の誕生日は迎えられないだろうと、余命宣告を受けた。
人生の先が見えたこいつは、生きるために諦めた学校生活を送りたいと受験をして、高校に入学したと聞いていた。
しかしそんな話だけ聞いても、小説の説明文を読んでいるみたいで、どうにもしっくりこねぇ。
どんな痛みや苦しみに耐えてきたのか。
何を思いながら、治療を受けていたのか。
病室の窓からは、何が見えていたのか。
こいつが見ていた景色は、何色だったのか。
聞こえる音は、匂いは、ベッドで眠る感覚は、どんなものだったのか。
小説は、どうやってこいつを救ってくれたのか。
知りたい、こいつの物語を。病歴なんかじゃあねぇ、こいつがどんな気持ちで生きてきたのかを。
「私か……。私は」
また視線を窓の外に移したこいつは、遠い目をしてポツリ、ポツリと話始めた。