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いつも通り黒のリュックサックを背負い夕暮れの中を歩いていた。
夕暮れを見て思い出す、あの日の思い出。彼女は今どうしているだろうか。
俺の好きだったあの子は、まだあの「約束」を覚えていてくれるだろうか。
小学生の頃、俺には好きな子がいた。悪ガキだった俺は、構ってほしい気持ちから悪口を言った。
よくある、好きな子に意地悪したくなる心理ってやつだ。まぁ、それはどうでもいい。
その言葉はかなりあの子を傷つけたみたいで、彼女は心を壊してしまった。泣かないあの子をクラスのやつらは虐め始めた。
最初は自分のせいじゃないとごまかしていたが、さすがに責任感と罪悪感を隠し切れなくて、彼女をかばい始めた。
そうして何度も謝った。彼女は許してくれた。それから、彼女を元に戻す方法と題して色々なことをした。
正直そんなこと全然考えてなかった。ただ、遊びたい一心で適当なことを言っていた。
それから小学校最後の夏に一緒に花火大会へ行った。そしてその子と約束をした。十年後に再開できたら、一緒になろうと。
彼女は優しい笑顔で受け入れてくれた。とても嬉しかった。
あの少しあどけない感じのする笑顔は、一生忘れることはないだろう。
しかし彼女は卒業と同時に引っ越していった。もう今では俺のことは忘れているのだろうと思う。
それから退屈な月日が経ち、十年目の花火大会の日になった。
正直、覚えていてくれているとは思っていないが、祈るような気持ちで、約束を守りたくて、またあの丘へ向かっている愚かな自分に溜め息をつきながら、ゆっくりと歩を進める。
楽しそうに騒ぐ人々の間を抜けていきながら、切なさと少しの希望で満たされた心で、丘に着いた。
誰もいなかった。
ああ、やっぱりな。
その時にはもう、俺の心は空っぽになっていた。
さっきは気にも留めなかった人々の群れが、急に羨ましく感じる。
人並み以上に、人恋しかった。
丘を降り、家路に着く。ただそれだけの行為だった。
青黒い闇に染まった道の脇、バス停のベンチに、一際目立つ水色の浴衣が目に入った。
そうか、これが運命ってやつなんだな。
実に、十年ぶりに、その名前を呼んだ。
「瑞希」
「茜くん…?」
これが俺の人生で最初で最後の幸運だった。
十年ぶりに見た彼女は、驚いたような顔をして、それからまたあの時と同じように、優しく笑いかけてくれた。
月に映えて、とても、綺麗だった。