テラーノベル
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子供の姿になってから一週間経過。
仕事の合間に、健全な手段で元に戻る方法を調べてみたところ、
やはり、治す方法が『アレ』しか思いつかない。
「……もう、受け入れた方が良いのかな…」
小さくため息をついて、仕事の帰り道でうずくまる。
辺りは深海のように真っ暗で、街灯がチカチカと点滅している。
早く帰りたいのに、なんだか憂鬱な気分で足が重たく感じる。
そんな時、
街灯とは違う、一つの光が視界に入った。
何やら、足音と同時に光はこちらへ向かってきており、
アホ毛をしおれたように垂らしながら、
僕はゆっくりと顔を上げた――
「君、こんな時間になにしてるの?」
どうやら、その人物は長年警察官をしている山崎さんだった。
山崎さんは僕が安倍晴明だと分かっていないようで、
『子供がこんな夜道を出歩いちゃダメだよ』と、優しく接してくれている。
「とりあえず、親御さんに連絡しないと…」
このまま黙っていると、確実に僕の家族がここに呼び出される。
その一言で、僕は慌てて山崎さんに説明しようと口を開く。
「あ、あの…実は僕、かくかくしかじかで…」
「え⁉君、安倍先生だったの⁉⁉‼⁉」
「はい…」
「確かに、安倍先生に似てる子だなぁ、って思ったけど、まさか本人とは…」
本来なら信じられないことだが、
山崎さんは僕の顔を見て、納得したように頷いている。
「う~ん、…子供ではあるけど、本人だからなぁ……、仕方ない…」
何やら決心がついたようで、僕と視線を合わせるためにしゃがみ込む。
「安倍先生、両手を出してください」
「?、両手ですか?」
山崎さんの言葉に疑問を持ちながら、自分から進んで両手を差し出した。
すると――
ガチャン!
「え?」
僕の両手に手錠がかけられた。
困惑で言葉を詰まらせていると、軽々と山崎さんに持ち上げられて、
抱っこのような形になる。
「なななんで⁉‼⁉」
「僕まだ何もしてませんよ⁉‼⁉なんで手錠するんですか⁉‼⁉」
「『まだ』っていうのは置いておくけど、着いたら説明してあげるから」
混乱している僕を落ち着かせようと
ポンポンと背中を一定のリズムで叩く。
まるで赤子をあやすようだ……。
そんなこんなで、
緊張感のかけらもない世間話をしながら僕は連行されている。
「安倍先生って本当に不幸体質なんですね~」
「そうなんですよ…昨日なんか何もない所で転んじゃって…」
急に手錠をかけられたので最初は混乱していたが、毎回逮捕されてからの流れは知っているので、
案外、僕は気軽な気持ちで構えていた………のだが。
今回は初めての事が起こった。
(…あれ?牢屋じゃない )
そこは、お馴染みの牢屋ではなく、全体的に白い壁に、綺麗なベッドや机が置かれていて、
警察署というよりはどこかの病院のような雰囲気だ。
たしか扉には『医療室』と書いてあった……。
辺りをキョロキョロと見渡していると、
山崎さんに抱っこから床に降ろされて僕は自由の身になった。
「はい、じゃあこれから身体検査やるんだけど。えっと、その~…」
「大変言いづらいんだけど……」
「?」
「……ごめんね、安倍先生」
「えっ?」
山崎さんは申し訳なさそうに顔を伏せている。
どうして僕に謝るのだろうか。
なぜ僕がここに連れてこられたのか、なぜ山崎さんはそんな顔をするのか、
状況が理解できずに首を傾げていると、突如――
「やっほ~!来ちゃった!」
後ろの医療室の扉がバン! と勢いよく開いた。
聞き覚えのある声、まるで鼻歌でも歌い出しそうなテンション、
頭の中で危険信号が全身に流れ始める。
いやだ、そんな、嘘だ……。
顔を真っ青にしながら、ゆっくりと扉の方を振り向くと、そこには、
ニコニコと満面の笑みを浮かべている、たかはし先生がいた。
「キャアアアアアア‼‼」
女子にも負けないほどの悲鳴を上げながら、
勢いよく山崎さんの方を振り向き、慌ただしく問い詰める。
「な、なななんで!!僕牢屋に連れてかれるんじゃないんですか⁉‼⁉」
「えっと、その…あんまりに安倍先生が逮捕されるものだから、
一度心身の状態を確認すべきじゃないかという話が上から出ちゃって……」
「僕に人権はないんですか⁉」
「でも、安倍先生に痛いことはしないって、たかはし君と約束したから…」
そんなこと言って、絶対に精神的にきつい事してくるに決まってる。
せめて逝ってしまうくらいなら、たくさんのセーラーに囲まれて逝きたい……。
「それじゃあ、僕はまだ仕事が残ってるから……。安倍先生をお願いね」
「はぁ~い♡」
「え…山崎さん僕を置いて行くんですか⁉‼⁉」
「本当にごめんね、安倍先生……」
「ちょ、まっ、やだ!山崎さん!山崎さーん!!!」
大声で山崎さんに助けを求めるが、僕の必死の願いを拒絶するように。
山崎さんは医療室から出て行った。
「ねぇねぇ、おにーさん♡」
「ひゃい!!!」
突然背後から声をかけられて、悲鳴に近い声で返事をする。
「噂によると、おにーさんはセッ○スしないと元の姿に戻れないんでしょう?」
「え、ぁ……はぃ……」
一体どこの噂で、なぜ知っているのか聞きたいが、今はそれどころじゃない。
まるで好物を見つめるかの様な瞳に、恐怖でガクガクと身体が震える。
「じゃあさ、僕とエッチなことしようよ♡」
「why???」
「僕はおにーさんが大好きだから診察できて嬉しいし、
おにーさんは知らない相手に怖い思いされなくて済むし、もしかしたら元に戻れるかもしれない」
「僕もおにーさんもハッピーじゃない?」
「ハッピーじゃない!ハッピーじゃないです!!!」
僕は勢いよく顔を横に振る。
なんでいつも、こういう流れになってしまうのだろうか……。
「大丈夫大丈夫、怖くないよ 」
「ちょっと検査のついでに僕の好きなことに付き合ってもらうだけだから♡」
「ちょっ………本当にシャレにならないですって!!!」
「……あっ、やだ…!」
いつのまにか腰に腕を回され、耳や首筋など、
皮膚が薄いところを舐めとられて反射的に身体が跳ねる。
こんな状況でも身体が感じてしまうのが無性に腹立たしくて恥ずかしい。
「あ~クッソ興奮する……僕の好きなように安倍先生を診察できるなんて夢みたい……♡」
「ひっ……」
冷たい室内の空気とは別に、熱い吐息が肌に感じる。
たかはし先生の瞳の中は両目ともハートになっていて、やけに優しく抱きしめらる。
けれど、決して力は弱いわけではなく、
僕にはもう逃げ場がないと理解してしまった……。
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