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「まだ帰ってこんのかあの莫迦は!」
同じ時分、探偵社の一室で国木田は痺れを切らしていた。
原因は勿論太宰。彼の完璧で緻密なスケジュールは四六時中太宰に狂わされている。
「まず敦、お前がきちんと見張っていないからこうなるのだ!」
「ええ……!?ぼぼぼ僕のせいなんですか!?」
3、4時間程前、敦と太宰は買い出しをする為に街へ繰り出した。商店街にて、敦が(ええと、何を買えばよかったんだっけ…)と、与謝野から言付かったメモを真剣に読んでいる隙に太宰は姿を消した。
「妾は敦にしか買い出しの件は頼んでない筈なんだけどねェ」
「あれ、そうでしたっけ」
確かに与謝野さんから買い物を頼まれたのは僕だけだったし、お金とメモを預かったのも僕だし…あれ、じゃあ何で太宰さん付いて来たんだろ_ と敦は思い返す。
「ああ、太宰なら国木田がいない隙を見計らって敦に引っ付いて出てったよ」
「”国木田くんによろしく!”って云いながらね」
乱歩がデスクからひょっこりと顔を出して云った。
「そうだったんですか!!…それならそうと云って下さい!くそ、許せん、許せんぞ太宰!」
国木田は又頭を抱えた。
*
結局敦は今回も太宰の捜索係に任命された。
太宰が業務中に姿を暗ますのはよくある事で、敦はまだ”新人社員”という扱いであるのでこういう太宰探しにはよく抜擢される。
これには慣れたものだが、発見が遅れると国木田から「遅い!」と何故か敦までもが叱られてしまうので毎度苦い思いをしている。
ついに川岸にてぷかぷかと浮かんでいる太宰を発見した。
太宰が居る可能性が高い場所を社員に何個かピックアップして貰っていたのだが、1つ目の候補の川で見つかるとは思ってもいなかった。
「太宰さん!やっと見つけましたよ、早く上がってきて下さい!」
太宰の側まで近寄って云った。
「………」
返答無し。
敦は知っている。 こういう時の太宰は何を云っても動こうとしない事を。
敦は待つ事にした。
*
「誰かと思ったら敦くんかい。私の素晴らしい入水タイムを邪魔するなんて非道い!はい、自殺ソムリエ失格!!」
やっと目を開けたと思ったら勝手にソムリエとやらを失格にされた。
倂し何の事か全く分からない敦にはノーダメージである。
取り敢えずさっさと上がってきてくれないかな。と敦は思った。
「何ですか自殺ソムリエって…ていうか太宰さん絶対僕に気付いてたでしょう?本当に勘弁してください!国木田さんカンカンですよ!」
「あー国木田くん?大丈夫大丈夫。あ、敦くんその手に持ってるの、何?ちょっと見せてみて」
よく浸かった浸かった、あー、良い川だった。と呟きながら太宰はゆっくりと躰を起こす。かなり上等な外套の筈なのに水浸しにしてしまって大丈夫なのか?と敦は何時も思う。
敦が手にしていたのはポーチだった。グレーを基調としたシンプルな造りの物だ。
「此処に来るまでに拾ったんです。後で交番に届けるつもりで……えっ、ちょっと。中身見て大丈夫なんですか」
敦からポーチを奪うと、太宰は敦が云うことには耳を貸さずゴソゴソと中身を漁り始めた。
「危険物かもしれないからね!観察観察!」
「そうだとしたら尚更危ないですよ!何やってるんですか!」
「学…生証?」 「のようだね」
ポーチから引っ張り出された物を囲んで二人が云った。
「おやおや、先刻の子じゃないか」
学生証に印刷された顔写真を見た太宰が云う。
「え、お知り合いの方ですか?」
「知り合い…と云っても3分も一緒に居なかったけどね。川流れをしていたら助けに来てくれた。持ち主はその子だと思うよ」
「もっと早く来るんだった!だったらこのポーチを渡せていたのに」
「いやそれは無理だね。なんせ私が彼女と会ったのは1つ前の川だから」
「……1つ前?太宰さん、真逆別の川でも入水を?」
「あの川はあまり良くなかった。ゴツゴツした石が多くて流れ心地が悪かった様な。そしてやけに藻が多かった。衣服に絡み付いて大変だったよ。もう少し下流を選ぶべきだった」
何が良い川で悪い川なのか敦には見分けがつかない。が、太宰にはそれが判るようだ。
流石自称・自殺愛好家、恐るべし。
間も無くして太宰は社へと連れ戻された。