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絹子に手招きされ俺は片方の耳を少し近付ける。
「あんまり美人でスタイルいいし、それに無口なクール・ビューティって感じでしょ?美紅ちゃん。あの連中に目をつけられちゃったらしいのよ」
「あの連中?」
「うちの学校の不良グループよ!ほら隣の3年D組に番長みたいな奴がいる、あれ」
ああ、あれか。どこの学校にもいるとは思うが、うちの学校にも不良生徒のグループがいる。で結構ケンカをよくやらかすタイプだから始末が悪い。もっとも本人たちは、自分たちは「武闘派」だ、とか言って粋がっているが。俺も一番苦手なタイプの連中だ。
「美紅が目をつけられた……どういう意味でだ?」
「あの番長みたいな奴が『俺の女にする』とか言い出したらしいのよ。そういう意味でよ。ねえ、これ、ちょっとヤバくない?」
ううん、確かに。しかもあの手の連中は必ず集団で行動する。間違っても番長気取りの奴が一人で、どこかロマンチックな場所へ美紅を呼び出して告白する、なんて手順は踏まないだろう。いや冗談抜きでレイプしかねない。ユタとか霊能者とか言ってたけど、あんなもん迷信に決まっているから、小柄な美紅じゃひとたまりもない。
「ううん、確かにそれはちょっと……マジでまずいな」
「だから、美紅ちゃんの事気をつけて見といて。あたしもなるべく二年生の教室の方見に行ってみるから」
「分かった。いや知らせてくれてサンキューな」
「うん、じゃあ放課後にでもまた」
そう言って絹子は教室の方へ戻って行った。ううん、やっぱりあいつ、こういう所の気配りは大したものなんだよな。男の俺じゃこう早くは気付けなかった。
幸か不幸か、俺も美紅も絹子も部活は入ってなかったから、俺と絹子は授業が終わると美紅のクラスへ直行し三人で一緒に下校するようになった。だが、十日後、ついに来るべき事態が来てしまった。
美紅のクラスへ絹子と一緒に向かう途中から嫌な予感はしていた。そっちの方向から2年生の生徒が少し青ざめた顔つきで足早に去っていくのと何度もすれ違っていたからだ。
二年C組の教室の前には……やっぱり、いた!いかにもガラの悪そうな男子生徒が五人、教室のドアをふさぐように立ちはだかっている。
数人の女子生徒が身を縮めるようにしてそいつらの横をすり抜けて教室から出て、走るように去っていく。そして、あちゃあ、美紅が姿を現してしまった。
俺は小走りで教室のドアへ行き我ながら情けないとは思ったが、ひきつった笑顔でその不良連中に愛想をふりまきながら美紅に声をかけた。声が震えているのが自分でもはっきり分かったが。
「お、おお、美紅、ちょうど良かった。さ、さ、さ、帰ろうぜ。あ、すいませんね。ちょっと通してもらいますね……アハハ……」
「まあ、待ちな」
不良連中の中でひときわ背の高い、目つきの悪い奴が突然声をかけてきた。俺も中三にしちゃ小さい方じゃないが、こいつはその俺より頭一つ分背が高い。それに体つきもごつい。こいつが俺の隣のクラスの番長だ。以前から遠くから見ては急いで逃げていたが、間近に見ると同じ年とは思えない迫力だ。