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「い、いや、あの……そろそろ帰りたいなあと思って、その……」
俺は言いながら声だけでなく膝ががくがく震えるのを自覚していた。俺は自慢じゃないが、いやほんとに自慢にもならないが、ケンカはからっきしダメなんだあ!
「そうあわてて帰る事はねえじゃねえか。まだまだ外は明るいんだからよ。ああん? おう、そうか、おまえが噂の『お兄さん』だな。俺はよ、おまえの美人の妹にちっとばかし用があるだけだからよ。だからな……今日は独りでお家に帰んな!」
番長がドスの利いた声で俺の顔に自分の顔を近づけながら吠えるように言った。すでにこの時点で俺はもう小便ちびりそうにビビっていたが、しかしさすがに美紅をこのまま置いて行くわけにはいかない。
「ちょっと、あんたたち! いいかげんにしなさいよ! その子だって嫌がってるのが分かんないの?」
そう声張り上げたのは絹子だった。あの馬鹿! いくらおまえが男勝りでもこいつらにかなうわけないだろ。それも相手は五人もいるんだぞ。
案の定、子分格のうちの二人が絹子を窓側にいきなり突き飛ばした。
「うるせえんだよ! ブスに用はねえ。引っこんでろ!」
一人がさらに尻もちをついている絹子に蹴りを入れようとした。俺はとっさに二人の体の間に割って入った。その不良が繰り出した蹴りが俺の腰のあたりに当たる。
「い、痛。まあ、あの落ち着いて……暴力は……」
その時、不良達の後ろから聞き慣れない女の声が鋭く響いた。
「やめなさい……それ以上はあたしが許さない……」
俺は一瞬背中がぞくっとした。特にすごみがあるわけでもなく、どちらかというと抑揚のない棒読みのセリフみたいな言い方だが、どこか人を圧倒する迫力がある声だ。その声のした方向を見て俺は心底ぶったまげた。なんと、その声を放ったのは美紅!