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二人組での練習の後に、近くの家から借りた二つの木製のゴールが草地の両端に設置された。十八人の生徒を九人の二チームに分けて、シルバは試合を始めさせた。自身は笛を首に掛けて、審判を務めていた。
二十分が経過し、スコアは三対ゼロ。一人の選手の大暴れで、ほとんどワンサイド・ゲームだった。
「こっちこっちー! あたし、ガーラガラのガラ空きー!」
敵コートに位置取るジュリアが、頭上にピンと張った腕をぶんぶんと振り回す。包囲されたボール保持者の女子生徒が「ジュリアちゃん!」と、爪先でキックをした。
勢いのないパスが転がる。機敏な動きで迎えに行ったジュリアは、ボールを収めた。くるりと前を向き、少し前にボールを晒す。
相対する男子生徒が、ひゅっと左足でボールを狙った。見切ったジュリアはにかっと笑い、左足を大きく横に出した。残した右足の内側でボールを引き摺り、左へと持ち込む。男子生徒は完全に置き去りだった。
(ありゃあカポエィラのパッソ(サイド・ステップ)の応用か? よくあれだけとっさに動けんな。十代前半特有の飲み込みの早さってやつかよ)
シルバが感嘆していると、慌てた後続の選手が、ジュリアに詰めた。ジュリアはぐるんと、わざとらしい挙動で首を右に向けた。
少し間を置いて、視線と逆の左斜めにボールを転がす。
後ろから走っていた女子生徒がぎりぎりで追いつき、ぎこちない動きでシュートをした。ボールは無人のゴールにころころと向かい、ネットに収まる。
得点者に抱き着くジュリアを横目に、シルバは長く笛を吹いた。授業終了の合図だった。
(まあ何というか、つくづくジュリアはガキどもの中心人物だよな。……にしても毎日元気だ。そのあたりが人気の理由なんだろうけどよ)
シルバは一人、静かに考えを巡らすのだった。
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