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夫とだけはしたくありません

57 - 第57話 そして圭太の独立

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2024年11月18日

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離婚して何度めかの、この春、圭太は大学を卒業して、県外の会社に就職が決まった。


「ねぇ、忘れ物はない?引越しの荷物の荷解きについていってあげようか?」


もう成人しているとはいえ、息子の初めての一人暮らしが心配でならない。


「母さん、圭太は大丈夫だよ、何かあったら1時間もあれば帰って来れるんだし」


いつの頃からか、雅史は私を母さんと呼ぶようになった。


「もうっ、男親って冷たいのね、家事もまともにやったことないんだから、心配になるのは当たり前でしょ?」


「それなら俺が教えておいた、母さんがいないときに男同士での話もあったし。な?圭太」



「まぁね、とにかく父さんが言う通り、僕でも多少のことはできるようになったから、心配しないで。じゃ、行くね」


靴を履いた圭太は、荷物を詰めたスーツケースを持って玄関に待たせていたタクシーに乗った。


タクシーが角を曲がるまで見送ったけれど、圭太は一度振り向いただけで行ってしまった。


「あーぁ、行っちゃった……」


「行っちゃった、な」


なんとなく、家の中に隙間ができたような気がする。


「あー、やっぱり寂しいなぁ」


_____わかってはいたけど、圭太の存在は大きかったんだなぁ


じわりと込み上げるものがあり、こっそりと涙を隠した。



「お茶でも淹れようか?最近、美味しいコーヒーを見つけたんだ」


「へぇ、ありがとう、いただく!」


雅史が手にしていたのは見たことがないパッケージのコーヒーだった。


「可愛いパッケージだね」


「だろ?ほら、少し行ったバス停のところにコンビニがあったじゃん?あれがいつの間にかコーヒー専門店に変わっててさ。一回行ったら美味しかったから豆を挽いてもらったんだ」


コーヒーの香りが部屋いっぱいに広がる。


「はい、まずはブラックで飲んでみて」


コトリと置かれたカップからは、ゆらゆらと湯気がたっている。


「え?珍しいね、雅史はいつも砂糖もミルクも入れるのに」


「いいから、いいから」


そのコーヒーは、私の好きな味だった。


酸味は少なく、程よい苦味としっかりとしたコクがあった。


「美味しい!うん、私もこれ好き」


「だろ?そうだと思ったよ」


雅史と二人だけの時間が、今は穏やかで居心地がいい。


時間はいろんなものを薄めて緩めて、トゲを流してしまったようだ。



「あ、そうだ!圭太に言われてたんだった」


雅史は、何かを思い出したように2階に上がって行った。


しばらくすると小さな紙袋を持ってきた。


「なに、それ」


「昨日さ、杏奈がいない時に圭太が渡してきたんだよ。“僕が出て行ったらこれを二人で開けて”ってさ」


「えーっ、なにかな?母の日みたいに感謝の手紙とか入ってたりして」


紙袋には小さなアクセサリーを入れる箱が入っていた。


「なんだろ?」


雅史が開けるとそこには、結婚指輪が二つ並んでいた。


「えっ、これ、なくしたとばかり思ってたんだけど」


「俺も。まさか圭太が持ってたなんて」


その結婚指輪は、雅史と結婚した時に交換したものだった。


離婚したときに外して、どこかにいってしまったとばかり思っていた。


それは雅史も同じだったようで。


「アイツ、いつからこれを持ってたんだ?」


「さぁ、わからない。でも……」


何年も見ていなかった指輪を前にしたら、うれしいような悲しいような苦しいような…複雑な感情が込み上げてきた。


「なぁ……」


「ん?」


「圭太が持っててくれて、よかったな」


「うん」


「なんだか、これを見たら、ほっとした気がするんだ」


「私もそんな感じ、なんでだろうね」


それからしばらく、二人してその指輪を眺めていた。


結婚した日付と、お互いのイニシャルが彫ってある。


「なんだか不思議な気分だわ。これ見ただけで当時のことを思い出した。最初、イニシャルが反対だったんだよね?」


「あー、そうそう!俺が俺に贈ったみたいな書き方でさ、慌てて直してもらったよな」


朝から緊張した結婚式を思い出す。


これからこの人と一生、一緒に生きていくんだとあの日、決めた……のに。



圭太が生まれて、気持ちがすれ違って離婚を決め、経済的な理由と家族としては壊れたくないという私のわがままで、親子3人の生活は続いてきた。


世間から見たら、常識はずれのおかしな家族の形かもしれないけれど、それなりに幸せだったと今は思う。


法律上は独身だから、誰と何をしても問題にはならない関係だったのに、あれから特に何かあったということはない。


もしかしたら、雅史にはあったのかもしれないけれど気にもしてなかったから、わからないというのが本音だ。


雅史は慣れない仕事に転職して、資格も取って家事も育児も精一杯協力してくれたし、私も正社員として採用されてできる限り仕事と家庭を両立させてきた。


離婚してなかったら、お互いに甘えや依存が出て、こんなふうにうまくまわらなかったかもしれない、なんて思う。




「あれ?何か入ってる」


紙袋から雅史が取り出したのは、ブルーのメッセージカードだった。


「圭太からのメッセージかな?」


「なんて書いてあるの?」


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