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「な、ショッピくん!ナマモノって知っとるか?」
突然押し掛けてきて早々何を言い出すんだこの人は、と思ってしまうが恐らく俺のリアクションが正しいハズだ。
いきなり人の家に来たと思えば、意味くらい知っているであろう言葉を放たれ一瞬固まる。なまもの……一般的なヤツなら刺身とかケーキとか早めに食べろってゆー意味になるが…この場合は違う方を考えていいと思う。
ってかそもそも何でこの人がそんな事知っているのか。どこかの女誑しじゃあるまいしエゴサなんてしないのに…。あ、決して悪口とかやないですよ?兄さん♡
「なんかなぁ、大先生が教えてくれてん」
「ショッピくんに聞いたら分かる言うてたから」
あの屑
兄さんったらお茶目なことしますね。帰ったらみっちり事情聴取せな。
…なんて脳内ではおちゃらけているが実際問題、どう対処すればいいのか検討もつかない。よりにもよってなんで俺に聞いてくるのか…。意味を知った後の居たたまれない空気を想像しただけで逃げたしたくなる。
でも、あいにく俺にはこの人の子供みたいな好奇心を抑える術は持ち合わせていない。腹を括って、溜め息をつく。
「教えてもええですけど…その……変な空気になるとか止めてくださいね?」
「おう?わかった!!」
駄目だ、絶対分かってない。
すぐ先の絶望的な未来を思い浮かべながら、どうせならドン引かせてやろうと思い切りエグいものを見せた。
「どーぞ、これがコネシマさんの知りたがってた”ナマモノ”ってやつですよ」
ずらりと並ぶ小説と、嫌に目につくタグ。
「おー!食害…はゾムとロボロやな。んで毒素は……トントンとグルッペンか?」
スマホの画面を楽しそうにスワイプしては身内の名前を呼び上げていく。幸い、俺とコネシマさんの組が呼ばれないのを聞くと少しほっとして
「もう分かったでしょ?ナマモノってゆーのは」
俺が話しているのも聞かずに喋りだしたコネシマさんを殴ってやろうと思ったが、それ以上に殴り殺してやりたくなったのは、そのサイトをまとめた奴だ。
「先輩後輩、厳選まとめ……?」
「ちょ、コネシマさん!!!」
慌ててスマホを奪おうとするが持ち前の運動神経で難なくかわされてしまい、コネシマさんの指はリンク先をタップする。
「うわ、えっろ」
コネシマさんが見たのは丁度致しているシーン。しかも俺が!目の前の奴に!!
最悪だぁ……
「なぁなぁ、ショッピくん」
「なんですか……もういい加減に”ッ!?」
これ以上まだ何かあるのかと名前を呼ぶ彼を睨み付けようとすると、短い浮遊感に続いて視界がぐるりと回る感覚に襲われる。背中に伝わるソファ独特の柔らかさと、彼越しに見える我が家の天井に、押し倒された、と理解するまでそう時間は掛からなかった。
「…何してんすかアンタ」
キッと睨み付けながら”退いてください”と相手の肩を押す。が、いくら押してもビクともせず、なんなら押し返されているような気さえした。
本当に何がしたいんだと不満げに彼を見上げれば、俺の気持ちに反してワクワクと目を輝かせながら
「コレとおんなじこと、してみーひん?」
と指すのは、先程俺が見せた18規制のかかったサイト。
「………………は?」
一瞬意味が分からず気の抜けた声を出すが、そんな事気にしてもいないように
「大丈夫、俺上手いで?」
と、何処から来るのか分からない自信と共に服の下から手を這わされ横腹をつう、と触れるか触れないかくらいに撫でられる。
思わず肩をビクリと揺らせば楽しそうにどんどん上へと撫で上げていく。
「ちょ、今ならまだ無かったことにしてあげますから」
「正気に戻れくそ先輩!!」
流石に俺も焦って大声を出すが、それでも向こうが止める気配など無い。
それどころか
「俺は正気やし、無かったことにせんでもいい」
と、今までとは違う真剣な声色に思わず動きが止まる。
それを狙ってか、フリーズする俺の唇に自分を刷り込むように何度も何度も触れるだけのキスをする。暫くすると歯列をなぞるそうに舌が侵入し、ゆっくりと俺の舌を絡めとっていく。
段々と酸素が頭に回ってこなくなり意識がボーッとして思考が上手くまとまらない。
…けど、今の状況がマズいことくらいは分かる。力の入らなくなった腕で彼の胸板を押すと、名残惜しそうに離れていく。
二人の間を繋ぐ銀色がやけにテラテラとするのが恥ずかしくて、どこか官能的で無意識に目を逸らせばがら空きになっていた首筋にも舌を這わせ、耳まで到達すれば いつもより低めのゆったりとした声で
「好きやで、ショッピくん」
なんて愛おしげに俺の名前を囁く。
俺たちはそんな関係じゃないのに、知らなくていいはずの気持ちが煩いほどに主張してくる。変に勘違いするくらいなら、最初から何も無い方がいい、のに。悲しいくらいの錯覚が俺の中をぐちゃぐちゃにする。
「も、やだぁ…」
視界がジワジワと歪んでいけば 彼の少し驚いた顔なんて見えなくなっていく。
「ッえ…ごめ、」
「嫌なことしてもうたな……」
ほんまごめん、だから泣かんでや。
そう言われて初めて自分の頬を濡らすモノの正体に気付いた。
でも正直、コネシマさんから与えられたキスを拒むほど嫌がる自分がいたわけでもない。寧ろ”もっと”と縋るように求めていた。
じゃあどうしてこんなに涙が溢れるのか…
「ちが、う…んです」
考えるより先に口が勝手に動き出す。
きっと俺の本音は今しか言えない。今を逃したら、この気持ちにも全部蓋をして、無理矢理にでも忘れてしまおうとするから。
「おれは…ッ、アンタのことが……すき、なんですよ」
「けど、アンタはそうやないでしょ」
「なのにそうやって……ッ簡単に、好きとか、言わんでくださいッ…」
溢れだした言葉は涙と共に、彼を染めていく。どうせ叶わない恋だったら今だけは我儘させてくれ、そう願っていたのに…
俺を強く抱き締める彼の腕は小さく震えて、俺を混乱させるには十分だった。
「なん…で……?」
自然と耳元に口が寄せられると、俺を安心させるみたいに優しい声が流れてくる。
「勘違い、させてたんやな」
「じゃあ今から言うから、ちゃんと聞いてや?」
そこからの時間は酷く長いようで、案外短いようで。
実際はたった数十秒のことだったかもしれないが、俺には時間の感覚さえ無くなっていた。
「俺はお前が……ショッピのことが好きや」
もっと早くに言えばよかったなぁ、と照れ臭そうに笑う彼に 俺もつられて笑っていた。
fin.