テラーノベル
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とっても珍しい人間というペットである主達のもとには様々なペットを連れた貴族たちが挨拶に来た。フィンレイはそのたびに主を見せびらかし、相手のペットを褒めて…の繰り返しだ。
主は舞踏会のようなパーティーを想像していたため、ご飯を食べながら適当に挨拶するだけの社交界的なパーティーは退屈で仕方なかった。
『ナック…パーティーって踊ったりするんじゃないの?』
目の前にずらりと並べられたお菓子に手を伸ばしながら主は不満そうにナックに囁いた。
「それは舞踏会ですね…今回のパーティーは昼間の社交を目的としたパーティーですから…」
『退屈…せっかくワルツの練習したのに…』
「ワルツを踊る機会は今後必ずあるので、無駄にはなりませんよ」
『でも私と踊れるのってフィンレイ様か人間だけなんでしょ?踊る機会あるのかな?』
様々な貴族たちがペット(四つ足や犬猫)を連れてきているのをぼーっと見ていると、入り口が騒がしくなった。
何事かと人だかりの中央を見てみると、恐らく人間であろうペットを連れた和装の狼のような獣人が歩いてきた。
「フィンレイ、お前も人間を見つけたと聞いたぞ?」
「フブキ、お前の趣味で飾り立てられている人間を見せに来るのは止めてくれ」
フィンレイが主の前に立って視界を遮るようにするが、フブキはそんなことを気にすることはなく不遜な態度でごつい鎖を強く引く。すると目の前に黒髪の美青年がよろけながらフブキの隣に並ぶ。
「フブキ様…あの子が人間でしょうか?」
『え…』
青年はそれはそれは豪華に飾り付けられたチャイナドレスを身に着けていた。確かに中性的な顔立ちではあるが女装させるにしては筋肉質な気がする。鉄の首輪とごつい鎖で繋がれた青年はフィンレイの後ろに隠れている主を見ようと身体を傾ける。
「フィンレイ、折角同じように人間のペットを持つ者が居るのだから紹介くらいするのが礼儀ではないか?おい、挨拶をしろ」
青年はフブキに言われてシャンと背筋を伸ばして立ち、深々と頭を下げた。
「…フィンレイ様、お久しゅうございます。そちらの人間さんが噂の新たなペットですよね?私、一度でいいから人間と話してみたかったのです。どうかご紹介いただけませんか?」
青年はにこやかに、けれど強かにフィンレイに畳みかける。
「賢い此奴にしては珍しい我儘なのだ。叶えてやりたい」
プライドの高そうなフブキがペットの我儘を優先している。それはフィンレイにも驚きをもたらし、主も多分只事ではない気がしてお菓子を食べる手を止めた。
フィンレイはニコニコと笑っている青年に根負けしたように主に挨拶するよう言った。
主は食べかけのお菓子を皿に置いて立ち上がる。フブキは主の一挙手一投足を舐め回すように見てくる。主は育ちが良くないのを知られたらフィンレイや執事達に迷惑をかけてしまうかもしれないというプレッシャーを抱えながら、できるだけ上品に立ち上がりフィンレイの隣に並んで挨拶をした。
『お初にお目にかかります、フブキ様。わたくしが新たにフィンレイ様のペットとなった🌸と申します』
主が教えてもらった通りにカーテシーをすると、フブキは軽く頷いて青年の首輪から鎖を外して主の近くに行くように促す。青年はフブキに一礼すると主の前に立って手を差し出す。
「初めまして、🌸さん。私はユーハンと申します。よろしければ2人きりで少し話しませんか?私、自分以外の人間を見るのは初めてでして少し緊張してしまっているのですが、貴女となら仲良くなれそうな気がするのです。いかがですか?」
主はユーハンと名乗った彼と2人きりで話すのは良いことなのか分からず、主はナックを見上げて助けを請うように目で訴える。
「…このペットはまだマナーや礼儀作法の勉強中ですので、目を離すことはできません。申し訳ありませんが2人きりはご遠慮願えますか?」
ナックはそう言ってユーハンと主の間に入る。
#クロスオーバー注意
ぷち
179
「あらら、そうなのですね。では私が隣に座ってお喋りしましょうか。それならよろしいでしょう?」
ユーハンはそう言って主の手を強引に掴んでソファに座らせる。
「ふふ、緊張してますか?勉強中ということはパーティーは初めてですよね?色々なペットを見たと思いますが私達ほど賢くて魔力を持っているペットは居ないのですから、もっと堂々としていていいのですよ?貴女も魔力で天使と戦っているのでしょう?」
主はユーハンの言葉に驚く。悪魔執事でもないのに天使と戦っているというのか?ということは魔力を完璧にコントロールできるということに違いない。主は魔力の使い方を具体的に知るチャンスだと思ってユーハンに沢山質問した。魔力の認識の仕方、武器や獣人を強化するための魔力の量の調整の仕方、悪魔の力を使わずに天使と戦う方法などなど…
ユーハンは魔力のコントロール方法や普段のトレーニングは何をしているのかなどを主に丁寧に教えてくれた。主は必死でそれをメモ帳に書き込み、認識の齟齬がないか確認した。
「🌸さんは勉強熱心ですね。大丈夫ですよ、毎日少しずつ鍛えていけば必ず魔力のコントロールはできるようになります。私もフブキ様に献上された時には魔力の感知もコントロールもできませんでしたから、長い目で見ながら鍛えていきましょう。相談があるのでしたらいつでも聞きますからね。お互い主人のため戦いましょう」
『ありがとうございます!』
ユーハンとの会話が終わったところで、会場がわっと盛り上がり地下の執事達が演奏を始めてペット達が会場の中心に集まって踊り始める。
「…あれは…?」
「ペットはただ可愛がるだけではなく、戦闘や娯楽の為に訓練されることが多いのです。あれは踊りを仕込まれたペット達が主人の偉大さを示すための余興のようなものです」
ナックの説明に主はなるほど、と頷いた。通りで普通のペットとは思えないほど優雅でありながらアクロバティックで同じ曲で踊っているはずなのに個性が際立っている。
「私達も行きましょうか。ダンスはお好きでしょうか?」
ユーハンは優しく笑って主の手を取る。主は慌てて首をぶんぶん振って拒否した。
『私ワルツしかまだ習ってなくて…』
だが、ユーハンは笑みを深めて主の手を引いて立たせる。
「珍しい人間同士のペアですからこの上なく映えることでしょう。次の曲はワルツなので参加しましょう?大丈夫です、私がリードしますから。ね?」
主はナックに助けを求めるように目線を投げるがナックはフィンレイと今後の予算について話し合っているので助けてくれなかった。ユーハンに引き摺られるように会場の中心に連れていかれる。フブキは使用人からグラスを受け取って鑑賞に徹するようだ。
会場に2人しかいないであろう人間がペアになってワルツを踊るという事実だけで、周囲の獣人やペット達がざわめく。
「さぁ、最初はお辞儀から。そして私の手をしっかり握っていてくださいね。ステップは間違えても大丈夫です。楽しみましょう?」
主はユーハンに言われるがままお辞儀をしてユーハンと手を繋ぐ。ゆったりとした音楽に合わせてゆっくりとステップを踏み、くるくると回る。ユーハンはリードが上手で戦闘も芸事も幼い頃から仕込まれていたのだろうなと思った。付け焼刃の主のステップとは比べ物にならないほど優雅で優しいステップで回転する方向を手で先に教えてくれた。
音楽が終わってペット達が主人のもとに戻っていく時にペット達は珍しい人間だということで主とユーハンをじろじろと見ながら通って行った。
ダンスの時間は終わったのに貴族達はユーハンと主を囲んで野次馬をする。そして誰かが隣の貴族に耳打ちをして、だんだんざわめきが大きくなっていく。
何かしてしまっただろうかと思って周囲の囁き声に耳を尖らせる。
「あの指輪って悪魔執事の主の指輪ではなくって?」
「まさか!人間が私たちの上に立つだなんてありえないだろう」
「でも戦死した主の代わりが現れたと報告がありましてよ?」
「信じられん…あの人間が主だと…?」
ユーハンはまずいと思ったのか主をさっと抱えてフブキとフィンレイのもとまで走っていく。
「フブキ様、フィンレイ様、この子が悪魔執事の主だというのは本当ですか?」
フィンレイが頭を抱える仕草をする。それでユーハンもフブキも事実なのだろうと察した。
「人間が悪魔執事の主とは異例中の異例だな」
フブキがフィンレイそう言ってから悪巧みするように笑った。
「ユーハン、帰るぞ。悪魔執事の主は置いて来い」
「はっ…それでは私はこれで失礼いたしますね。悪魔執事の主…また会いましょう」
ユーハンは主を下ろすとひらひらと手を振ってフブキについて会場から出て行ってしまった。
『あの…やっぱり人間が主っておかしいですよね…私ユーハンさんみたいに天使と戦えるわけじゃないし、魔力だってコントロールできないから役に立てるんでしょうか…?』
フィンレイは自信を無くしてしまった主に事実を伝える。
「天使と戦うのは基本悪魔執事だけだ。サルディス家が特殊なだけだ。人間を集めて訓練して悪魔執事に匹敵する軍隊を作ろうとしているという話も聞いたことがある。しかし、いつか衝突する可能性もある…私は悪魔執事達が奮闘してくれるのを期待している。それに必要不可欠なのが主の存在だ。もし君が魔力を上手くコントロールできるようになったら執事達の戦闘能力や回復力は跳ね上がる。君の訓練次第で戦局が変わると言って良い。だから日頃から訓練を積んで魔力のコントロールを出来るようになって欲しい。悪魔執事達の勝利のためには君の魔力と主の力が頼りなんだよ」
『…分かりました。できるだけ早く魔力のコントロールできるようになります!』
フィンレイはその言葉に頷いてナックに耳打ちする。
「今日の一件で貴族たちに噂として主が人間であると広がるだろう。そうなると依頼が少なくなるかもしれないし逆に多くなるかもしれない。どちらにせよ戦力の増強をしてほしい」
「かしこまりました」
不安が残るパーティーはお開きになって主達も馬車に乗ってパレスに帰る。
もし依頼が来なくなって報酬金がもらえなくなったらパレスの経営はどうなるのだろうか?自分のせいで皆に苦しい思いをさせるのは嫌だ。主は馬車の中できっと魔力のコントロールを出来るようになるぞと心に決めたのだった。
コメント
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うわ、読了しました…!これはかなり展開が動いた回ですね。まずユーハンという同じ人間のペットが登場したのが大きい。彼の立ち居振る舞い、礼儀作法、魔力の扱い方の差に主人公が焦る気持ち、すごく伝わってきました。そして「悪魔執事の主」であることがパーティー会場で露見してしまう流れ、読んでてヒヤッとしましたよ。 フィンレイが最後に主に伝えた「君の訓練次第で戦局が変わる」という言葉、重みがありました。主人公が自分の無力さに自信を失いかけながらも「絶対に魔力をコントロールしてみせる」と決意するところ、応援したくなりますね。次回、訓練回が来そうで楽しみです。