テラーノベル
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大事そうに死に掛けのクズリを抱いたシンディの脇まで歩み寄ったラマスは、瞑目しながらいつに無く真面目な声で言う。
「『高回復(ハイヒール)』! ……は、やっぱり駄目ね、だったら、グルグルグルグル、もっと早くもっと素早く、体の毛穴だろうが呼吸からだろうが入り込んで浸透する位に、繊細に鋭く、か細くぅ…… くぅっ、お腹が空いたわっ! ねえシンディ、貴女から貰っても良いかしら? 良いでしょ、当然よねっ?」
「は? はいっ、貰って下さい! って、何をです?」
シンディの問いに答えずにラマスは彼女の肩に手を置いていつものグルグルをハイスピードでやり始めている。
「グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル………… 良しっ! これを指先にぃ…… もっと濃密に、もっと純粋にぃ!」
「あああああぁぁー! 奪われるぅー、有無を言わさず、私、大切な物を奪われちゃってるぅー!」
見る見る間にやせ細るシンディは、彼女にとって大切な何かを奪い続けられている様であった。
まだ瞑目したままで額に汗を浮かべて唸っていたラマスの指先、右手の人差し指に薄っすらと明るい光が灯る。
ラマス自身のオーラはピンク掛かったオレンジ色だった筈だが、この光ははっきりと鮮やかなピンク色であった。
ピンクの光が収束し辺りを照らす位に迄濃密になると、漸(ようや)く目を開いたラマスはクズリの胸に指先を当てて驚く程荘厳(そうごん)な声で告げる。
「『自動体外式除細動器(エーイーディー)』」
ドックンッ! ドクントクン、トクトクトク……
「っ!」
「ふぅ~、何とか助けられたみたいね、良かった良かったぁ~♪ 後の面倒は任せたわよシンディ、貴女の獣奴にでもして確り世話してあげなさいよ」
「は、はい! 大切にします、ラマスさんありがとうございます」
笑顔で汗を拭うラマスに憧れとも尊敬ともつかない視線を向けている痩せこけたシンディ。
大切そうに自身の十六匹目の獣奴になるであろうクズリを抱いた彼女の背を見つめながら、残りの新弟子の中から、リーダー的なジョディがレイブに聞く。
「し、師匠、あの、ラマスさんが今やったのって、な、何なんですか?」
レイブは答えた、呆けたまま丸出しの表情でである。
「さ、さあ? な、何だろうね、い、一体……」
クズリの体調はスッカリ落ち着いたようで、お腹が膨れた一行は様々な疑問を持ちつつも、レイブ小屋と急拵え男女それぞれの宿泊小屋へと歩を進めたのである。
いつも通り、例の絞り汁を飲み干す二組のスリーマンセルに興味をそそられた新弟子達の、たっての願いに答えたレイブはまだ、ラマスに因る先程の不思議な技の事に心を奪われていたのだろう、下手をすれば即死ともなる汁を舐めさせてしまったのである。
『『『『『オエエェェーッ!』』』』』
若者たちの嗚咽は、朝方まで賑やかに草原に響き渡ったのである。
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