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「いま、最後に食べた虫? みたいな生き物が、すごく美味しかったんだ! 美味しいと言うか別格というか? なんか赤くてうねうねした棒みたいな生き物なんだけど、食べた瞬間ぶわーって、全身がこう、とにかくぶわーってぇ!」
興奮して上手く伝えられないナッキに対して、ヒットはイラつき気味に問い質すのであった。
「うねうねってお前、つまりボウフラとか線虫みたいなやつの事か?」
ナッキは激しく胸鰭を振りながら答えた。
「違う違う、全然違うんだよヒット! 見た目は少し似てるかもだけれど、味がもう全く違うんだよ! あんなに美味しいものが世の中に有っただなんて…… 今食べたばかりなのに信じられない、それ位美味しかったんだぁ! ビックリ仰天だよっ!」
いつも頑張り屋だけれど、割と大人しいナッキの、性格が変わったような興奮ぶりは、二匹に対して、十分すぎる説得力を持って、その虫? の別格な美味しさを伝える事に成功していた。
「ええぇ、いいなぁナッキ、そんなに美味しい虫だったら私も食べてみたかったなぁー」
さも羨ましそうに言うオーリに対して、ヒットはうーんと唸った切り、じっと流れ込んでくる水を見上げて固まっていたが、暫(しばら)くすると目線はそのままでナッキに声を掛けた。
「ナッキ、赤いやつだったんだよな? 大きさはどれ位だったんだ?」
「えーっと、僕の口をいっぱいに広げて何とか食べきれた位だったからぁ……」
ナッキはそこまで言うと一旦言葉を切って、申し訳なさそうに続けた。
「あー、食べる前に君たちに見て貰ってれば良かったのに…… それか、少し食べて皆で分け合えば一緒に喜べったていうのに…… 僕って奴は…… ごめんヒット、オーリ……」
「「……ナッキ」」
そう言って、真顔で頭を下げるナッキに対して、二匹の心は一瞬で食欲に対する執着から開放されて、いつもと変わらぬ優しい笑顔を、この小さな、然(しか)し善良で思いやり溢れる友達に向けさせたのであった。
「おいお前等、そいつはな、ミミズってんだ、旨いもんだが滅多に食べられる代物じゃないんだぞ? それになかなかに危険な食い物でもあるしな」
そう声を掛けてきたのは近くで食事をしていた年長の銀鮒だった。
「き、危険? って言うと、い、一体どう言う事なのかな?」
聞いていて心配になったナッキは不安そうな顔でそう尋ねた。
年長の鮒はナッキたちを見回して、一番大きな体のヒットを見ながら首を傾げて言う。
「まだ教えられてなかったのか、お前ら学校には通っているんだろう?」
問われて三匹は揃って頷いて見せ、その様子を見て年長の銀鮒は言葉を続けた。
「なら、学校で先生に聞いて見な! その方がきちんと教えてくれるだろうし、何せ命に関わる事だってあるんだからな? そうした方が良いぞ、絶対」
そう言うと、その鮒は食事を再開し、忙しく周辺を泳ぎ始めてしまった。
三匹は顔を見合わせたが、まだ不安そうなナッキを心配したのかヒットが言葉を発した。
「そんなに心配するなよナッキ、美味しい物が食べられて良かったんだよ、なっ? さっきの鮒だって危険って言い切ってた訳じゃあないし、命に関わる事もあるって言っただけだろ? あくまでも可能性ってことだ、なぁそうだよなオーリ?」
「うん、私もそうだと思う、それに学校で聞いて見ろって言ってたんだから、今すぐに危険が有るって事では無いんだとも思うわ、とにかく学校に行って聞いて見ましょうよ? 今から向かえば丁度授業が始まる位には到着出来るから」
「う、うん……」
まだ心配そうなナッキを促しながら三匹はそそくさとその場を後にして学校へと向かって行った。