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翌日、僕とヴェンドさん、そして、「新しい作品のネタになるかも知れない」と、ニタニタした顔を浮かべたブルーノさんと三人で、海洋隊の門前まで来ていた。
「必死で分からなかったけど、こんなに大きな場所に囚われていたんですね……」
「そうだね。雷の神は正義を重んじ、それに報いた人物には相応の地位と名誉を授ける。その取り決めで、三大名家と他の住民たちとの間に、金銭や地位に差ができてしまっているんだ。そのせいで、他の人たちもこの三大名家には逆らえない」
すると、ヴェンドさんの手から、ドロドロした気持ち悪い粘土がゴポゴポと溢れ出した。
「うえ……もしかしてそれが……」
「うん、俺の “岩魔法 ネンドル” だよ。さあ、これを全身に絡めるんだ」
すごくすごく気持ち悪かった。
しかし、塗った箇所からじわじわと変化していくのが、肌から実感できた。
「すごい……本当に変身してる……」
すると、ヴェンドさんとブルーノさんの姿も、今まで見てきた海洋隊兵士と全く同じ相貌になっていた。
僕も今こんな風に見られてるのか……。
「それじゃあ早速行こう!」
「はい……!」
僕たちは「交代の時間だ」と嘘をつき、牢獄内へと侵入を果たす。
幸い、氷の剣士が破壊した穴の工事作業で、どこが牢獄なのかは一目で分かった。
「おい、アゲル! アゲル!」
しかし、反応はない。
「寝てるのか……?」
薄暗くて中がちゃんと見えない……。
コツコツ、と、階段を降りる音がする。
「海洋帯の兵士かな……? 声を落として……」
「その必要はないぞ。侵入者たち」
そこに現れたのは、青髪の女性だった。
「見つけたぞ、異郷者。今度こそ逃がさない……!」
僕を異郷者だと知っている……!?
だとしたら、この人が “守護神” ……!?
「ハァ……やっぱりバレちゃうかあ……」
そう言うと、ヴェンドさんは変身を解いた。
やっぱり……?
「やあ、久しぶりだね、ルビー。海洋隊の隊長になった気分はどうだい?」
すると、ルビーと呼ばれた女性は、露骨に苦い顔を浮かべ、ヴェンドさんを睨んだ。
「あなたのせいじゃないですか……兄様……!!」
「兄様!?」
「あぁ。海洋隊元隊長、この子の兄であり、この国随一のお医者さん。それがこの俺だ」
自分で随一と言うあたり……。
それにしても、妹とは言え海洋隊隊長と、その兵士たちにこんな地下で押し寄せられていると言うのに、二人ともなんだか焦った様子を見せなかった。
「い、急いで逃げないんですか……?」
「大丈夫かなあ。向こうも簡単に手出し出来ない。兵士たちはブルーノさんの風魔法で吹き飛ばせるし、ルビーの水魔法も俺の岩魔法で防ぐことが出来る。バレるかなって思ってブルーノさんをけしかけておいて正解だった」
いいネタ提供はヴェンドさん発信だったのか……。
ヴェンドさんは余裕の構えだし、ブルーノさんはこう見えても有名な冒険者と聞いた。
これなら本当に大丈夫かも知れない……!
バコン!!
いきなり、ヴェンドさんは何も言わずに、僕らの天井に穴を開けた。
「そ、そんなことしたら、罪になりませんか……?」
「自分の家の壁に少し穴を開けただけだよ」
そう言うと、僕にウィンクを向けた。
「逃がさないぞ……!! 外の兵士に伝達! 周りを固めろ!」
「そんなことしても無駄なのになあ……」
ドロドロで土台を形成しながら、ヴェンドさんはため息を溢した。
そのドロドロがなければ凄くかっこいいのに……。
しかし外に出ると、ルビーの声掛けで、既に兵士たちは出入り口を塞ぎ、僕たちを囲んでいた。
「やれやれ……そんなことしても意味ないのにな。ブルーノさん、ちょっとやっちゃってくださいよ」
ブルーノさんは、鉛筆を取り出すと、徐に小さな手帳にメモを取り始めた。
「ちょっと……? ブルーノさん……?」
「これが敵に囲まれている状況……緊迫感……相手からの威圧感をとても感じる……!」
と、今の状況、そして、心境をメモに取っていた。
「ブルーノさん、僕の岩魔法だと最悪、気絶どころじゃ済まないんで、風魔法お願いしますよ……」
「え、嫌だよ?」
ブルーノさんは、真顔で言い切ってみせた。
「ハッ、やっぱりな! クソ兄貴! その男に期待してもダメだぜ! ソイツは海洋隊で指示しても、『戦うのは好きじゃない』の一点張りだったんだ!」
これには、ヴェンドさんも想定外の様子を見せた。
魔物相手には強いが、対人はしたくない人だったのだ。
「あ、あの、僕の魔法なら、泊まった宿まで逃げられますけど……」
しかし、ヴェンドさんの余裕の顔は消えていた。
「意味ないんだ……逃げてしまったら……」
その答えは、ルビーの言葉で明らかとなった。
「海洋隊から逃亡したクソ兄貴ヴェンド! 正義の国、随一の物書き、冒険者ブルーノ! そして、指名手配班の旅人! ここまで条件が揃ってるんだ! この宣言をすれば、もう後には引けないよな!!」
そして、ルビーは青褪めるヴェンドさんに近寄る。
「私たち海洋隊は、“貴様ら雷鳴隊” に、『宣戦布告』を申し出る」
正義を重んじる国で……宣戦布告なんて内乱を起こしたら、それこそ……。
そうか……それが “条件” なのか……!
ルビーは、『宣戦布告』の名の下に、『雷の神の意思にに背く者を排除する』と宣言したのだ。
これなら、罪どころか名誉ある功績となる。
「病弱の隊長さんにでも伝えておくんだな」
そう言うと、兵士たちに「一時撤退だ!」と声を荒げ、敷地内へと去って行ってしまった。
帰路で、ヴェンドさんは酷く苦い顔を浮かべていた。
「こんなことになるかも知れなかったのに……どうして僕に協力しようとしたんですか……?」
不要な話かも知れない。
アゲルも結局見つからなかったし、ただ宣戦布告の条件を突き付けられただけだった。
「この作戦は、クイナちゃん……雷鳴隊隊長の為でもあったんだ……」
「どう言うことです……?」
そうして、ヴェンドさんは僕に向き合った。
「俺も、自分で言うのはなんだが、海洋隊の隊長を務めていた男だ。医師でもあり、腕も立つ。現隊長、妹のルビーの水魔法だって簡単に防げる。そして、更にはブルーノさんもいる。ブルーノさんは本当に凄い冒険者なんだ。『俺たち二人だけにすら、海洋隊は敵わない』って、知らしめてやりたかったんだ……」
ヴェンドさんの手は強く握られ、震えていた。
「この無益な争いを終わらせたかった……!」
「すまない……僕が気弱なばかりに……」
そう言って、ブルーノさんは泣き出してしまった。
本当は、すごく優しい人なんだろう。
しかし、一つ気になることがある。
「あの……こんな状況でアレなんですけど、三大名家ってことは、この国には三つの隊があるんですよね? 一つはクイナさん率いる雷鳴隊、一つは僕が捕えられていた、一番躍起になっているルビーさん率いる海洋隊、もう一つは……?」
そして、ブルーノさんは泣きながら答えた。
「僕が率いていた風漂隊だよ……」
「ブルーノさんが、三大名家の長だったんですか!?」
「ああ……でも、僕はこんな内乱のようなことに賛成できなくて、解体したんだ……」
「なら、風漂隊にいた皆さんに協力を頼めば……!」
言った瞬間に、僕は理解してしまった。
「全員、海洋隊へ所属した……。みんな、家族を養うために働いているんだ。当然のことだ……」
この国のシステムとして、神により多くの正義を示せたものに相応の対価が支払われる。
少し考えれば分かることだ……。
帰宅すると、クイナさん、雷鳴隊の本家には、宣戦布告の日取りが書かれた手紙が届いていた。
明日 夕方より、正義執行 ーーー 。