本気になってはいけない恋

「うん・・。だからさ、今は透子の過去とか家族とか、楽しいこともツラいことも、そういうのも全部ひっくるめて、オレもわかっていたいっていうか」

「私も」

「今はこうやって透子の隣にはオレがいるワケだから。出来ることをすべて透子にしてあげたい」

「もう充分すぎるくらいだよ。私も樹に出来ることしてあげたい」

「っていうか、透子もオレの過去に嫉妬とかしてくれるんだ？」

「そりゃ・・・。私以外の人にどんな風に接してたのかなとか、気持ちはなくたって、その時はその人が樹を独占してたワケだから・・・」

「へ～そんな風に思ってくれるなんて意外」

「樹のヤキモチと変わんないよ。私は気持ちがないとそういうことだって出来ないけど、樹は気持ちなくてもそういうこと出来るワケだし・・・。でも、私がもしその時に樹とそういう関係だけで出会っていたとしたら、気持ちを手に入れられないとしても樹が欲しくなってたかも」

「透子が？過去のそんなオレなのに？」

「多分。結局いつ樹に出会っていたとしても、樹に惹かれるような気がするんだよね。それがもし樹が好きになってくれてなくても、きっとカラダだけの関係でも繋がっていたいって思うと思うから」

「そんなにオレのこと好きになってくれてるなんて思わなかった」

「樹が気付いてないだけだよ。実際、樹がずっと私を好きでいてくれてるなんて知らなかったままで、私は誰か樹は別の人が好きだって思ってた。それでも樹と一緒にいたかったし、気持ちが別の人にあったとしても、カラダだけでも繋ぎ止められるなら、そんな関係でもいいかなって密かに思ってた」

「ホントに？」

「どんなカタチでも自分を必要としてくれるならって思うくらい、いつの間にか樹のこと好きになってた」

「オレはずっと透子だけだったのに。でも・・知らない間にオレのことそんなに好きになってくれてて嬉しい」

「ねぇ・・私と出会ってからはもうそういう関係の人がいないって思っていいんだよね？」

「はっ！？何言ってんの！？当たり前だろ！？透子と出会ってからは一切他の女とは一人残らず切ったし、そういうことも透子以外興味ない」

「なら安心した。まだいたらどうしようかと思った（笑）」

今は樹のことを信じてるから、こんな風に冗談半分でも言える。

こんな風にちゃんとお互い言葉にして、今思ってる気持ちを言えることが嬉しい。

そして今はこんな関係でいられることに安心する。

って、そんな風に一人安心して浸っていたら・・・。

いつの間にか樹が目の前まで近づいて来て、私を上から見下ろしていて驚く。

「えっ？何！？」

安心して気を抜いていたら、急に樹が目の前にいて驚きと共に心臓が高鳴る。

「そんなにオレのこと好き・・？」

「えっ・・？」

すると、樹は急に更に甘い雰囲気を醸し出す。

じっと見つめて、甘い視線で私を捕らえる。

「ねぇ・・オレのこともう好きでたまんないんでしょ？」

「それ・・は・・」

そんなドストレートに聞かれると本当のことでも恥ずかしすぎて言えなくなってしまう。

「透子・・。ちゃんと言って？」

そんな甘い視線で見つめられたら、そんな甘い声で囁かれたら、素直に言ってしまいたくなる。

「・・好・・き・・」

あぁ・・やっぱりこの雰囲気に負けてしまう。

本気を出した樹の魅力に結局私はこうやってまた捕らわれる。

「オレも透子が好きでたまんない。オレが気持ちもカラダも欲しいのは透子だけ」

まっすぐ見つめながら伝えて来るその言葉に、嬉しさと期待が同時に溢れる。

「今だってそんな素直な透子前にして、正直もう我慢出来なくなって来てるし」

そしてどんどん甘い雰囲気に誘われる。

「いや・・でも今はホラ、ご飯食べたとこだしさ・・」

でも、なんとなくまだ誤魔化してしまう。

「うん。だからもういいでしょ。ちゃんとご飯食べ終わったし、今度は透子の番」

だけどやっぱり樹には通用しない。

「いや、それはまだそんな焦らなくても・・」

「なんで？もう後は好きにしていいって言ったでしょ？」

確かに、それは言ったかもだけど・・。

「だったらいいよね？」

「もうちょっと、ゆっくりしてからでも・・」

「何？逃げられるとでも思ってるの？」

樹はじっくりとまた追い詰める。

すると。

「もう無理。待てない」

そう言って、樹は私の頭を引き寄せ力強く唇を重ねた。

「んっ・・！」

結局こうなることはわかっていて。

樹が今私にこうやって素直な気持ちを見せてくれることで、私への気持ちをちゃんと確認することが出来る。

他の誰でもない樹が、他の誰でもない私を求めてくれる幸せ。

どんな風にしても樹は必ずこうやって私を求めてくれる。

過去の樹はどうやったって手に入れられないけど。

今の樹はちゃんとこうやって触れることが出来るから。

「さっ、もう限界」

唇が離れたかと思えば樹はそう言って私をひょいっと抱きかかえる。

「えっ！何！？」

いきなりのお姫さまだっことか萌えシチュエーションに戸惑う自分。

抱きかかえられて、今度は真近くにある樹の顔。

やっぱり何度見てもこの近くにいてもこのカッコよさにも慣れないし、やっぱりドキドキする。

「もっとじっくり透子愛せるとこに運ばないと」

そう言って優しく微笑んで今度は優しくまた唇を重ねる。

そんな樹に委ねるように、私も樹の首に腕を回してしがみついて、樹の唇に応える。

今は誰も入り込めないこの二人の距離を、この他の誰のモノでもないこの唇を幸せを味わうかのように。

そしてそのままベッドに運ばれ、なだれ込むように、そのままキスを続ける。

過去の樹を、過去の私を、お互いのそんな記憶を、埋め尽くすかのように。

もうお互いのそんな過去を思い出さなくてもいいように。

今の二人だからこそ感じられるこの想いも、この感触も、これからすべて忘れないように。

ずっとこの幸せを覚えていられるように。

こうやって愛しそうに見つめてくれるこの瞳も、この逞しい腕も、優しく触れてくれる手も。

すべて私のモノだと実感出来るように。

これからは私のモノだと実感出来るように。

他の誰ももう触れてほしくない。

「透子・・」

こんな風に甘く愛しく囁いてくれるこの声も、全部私だけにして。

私だけに囁いて。

私だけをもっと触れて。

私だけを感じて。

あなたの心が私だけでいっぱいになるように。

このあなたを想う気持ちも、このカラダも、この快感も、すべて何もかも。

あなたのその過去のすべての誰よりもすべて感じてほしい。

あなたのこの私を求める唇も、指も、声も、すべて。

私だけのモノ。

私だけにすべて感じさせて。

あなたのそのすべてを。

心の奥までもカラダの奥までも、どこまでも深く繋がっていられるように。

ずっとこの幸せを感じていられるように。

いつまでも思うまま私を求めて欲しい。

私のすべてを求めて欲しい。

この重なる唇も、この重なるカラダも、もっと求め合って、お互いこれ以上不安にならないように。

あなたのすべてで私の心もカラダも、この幸せでいっぱいにして。

あなたでいっぱいにして。

ずっと、ずっと・・・。