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あんにん
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飴玉
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三月。
長かった受験が終わった。
マナは高校受験を終え、ようやく一息ついていた。
解放感はある。
けれど、それ以上に気になっていることがあった。
ライとの約束だ。
『受験終わったら、どっか行くか』
あの日の言葉を、マナは何度も思い出していた。
⸻
待ち合わせの日。
春らしい暖かな朝だった。
マナが家を出ると、隣の家の前にはすでにライがいた。
「おはよう」
「おはよう」
昔から何度も交わしてきた挨拶。
なのに今日は少し緊張する。
ライもどこか落ち着かない様子だった。
⸻
二人は電車に乗り、少し離れたショッピングモールへ向かった。
ゲームセンターに行ったり。
昼ご飯を食べたり。
雑貨屋を見たり。
特別なことは何もない。
でも。
マナにとっては全部が特別だった。
隣を歩くライ。
笑うライ。
自分だけに向けられる優しい声。
全部が好きだった。
⸻
「マナ」
帰り道。
ライがふと呼ぶ。
「ん?」
「ちょっと寄り道しない?」
「いいよ」
二人が向かったのは、小さい頃よく遊んだ公園だった。
⸻
夕暮れ。
ブランコも滑り台も昔と変わらない。
ただ、自分たちだけが大きくなった。
「懐かしいな」
マナが笑う。
「ここでよく鬼ごっこしたよな」
「したな」
「俺、全然捕まらなかったし」
「いや、毎回転んでた」
「それは言うな」
二人とも笑った。
昔話は尽きない。
⸻
けれど。
しばらくして沈黙が訪れる。
ライの表情が少し変わった。
真剣だった。
マナの心臓が大きく鳴る。
なんとなく分かった。
今から何か大切な話をするのだと。
⸻
「マナ」
「うん」
ライは少しだけ息を吐いた。
そして。
「俺さ」
声が少し震えていた。
「ずっと好きだった」
マナの時間が止まる。
⸻
「初めて会った日から」
ライは笑った。
少し照れながら。
「いや、正確には初めて会ってすぐ」
「……え?」
「一目惚れだった」
マナは目を見開く。
信じられなかった。
だって。
ずっと片想いだと思っていたから。
⸻
ライは続ける。
「小学生の時も」
「中学生の時も」
「受験の時も」
「ずっと好きだった」
静かな声だった。
でも。
何よりも真っ直ぐだった。
⸻
「お前が友達と遊んでるだけで嫉妬したし」
「高校入ってからは、会えないだけで寂しかった」
ライは苦笑する。
「情けないよな」
マナは首を横に振った。
何も情けなくなんてない。
だって。
自分も同じだったから。
⸻
「マナ」
ライがまっすぐこちらを見る。
夕陽が横顔を照らしていた。
「俺と付き合ってください」
⸻
胸がいっぱいになる。
苦しかった片想い。
隠してきた気持ち。
全部が溢れそうだった。
⸻
「……ずるい」
「え?」
「俺も」
声が震える。
「俺もずっと好きだった」
ライが目を見開いた。
⸻
「ライが高校行ってから寂しかったし」
「文化祭で女子と話してるの見て嫉妬したし」
「誰かに取られるの嫌だった」
涙が出そうになる。
でも笑っていた。
嬉しかったから。
⸻
「だから」
マナは深呼吸する。
そして。
「よろしくお願いします」
そう言って笑った。
⸻
数秒。
ライは固まっていた。
それから。
信じられないくらい嬉しそうに笑った。
マナが今まで見たことのない顔だった。
⸻
「よかった……」
ライが小さく呟く。
本当に安心したような声だった。
その姿がおかしくて。
マナは笑ってしまう。
⸻
「ライ」
「ん?」
「恋人になっても隣の家だけどな」
「確かに」
「毎日会えるじゃん」
「最高かもな」
二人とも笑った。
⸻
帰り道。
いつもと同じ住宅街。
いつもと同じ景色。
いつもと同じ隣同士の家。
何も変わっていない。
はずだった。
⸻
家の前で立ち止まる。
ライが言う。
「これからもよろしくな」
「こちらこそ」
マナが笑う。
⸻
小学二年生のライと、五歳のマナが出会った春。
そこから始まった長い長い片想い。
兄弟みたいだった二人。
幼なじみだった二人。
隣同士だった二人。
⸻
そして今。
二人は恋人になった。
⸻
窓を開ければ相手の部屋が見える距離。
歩けば数秒で会える距離。
それは昔と変わらない。
でも。
これから先は少しだけ違う。
⸻
隣のお兄ちゃんではなく。
幼なじみでもなく。
大切な恋人として。
⸻
二人の春は、まだ始まったばかりだった。
コメント
1件
しろまるさん、第8話読み終わりました。もう、ずるいですよこれ……!「隣の家」という距離感が変わらないのに、二人の関係が「恋人」に変わるだけで世界の見え方が変わるっていうラスト、すごく好きです。公園のブランコとか滑り台とか、昔と変わらないものの中で互いの気持ちを確かめ合うシーンが本当に胸にきました。お互い片想いだったのに、タイミングが合わなくて……「ずるい」って言うマナの返し、最高でした。春の空気がそのまま詰まったような、優しいお話をありがとうございます。