コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
修学旅行の夜、六人部屋ではひっきりなしに会話が続いていました。
「俺さ、宮下好きなんだよね。」
そう打ち明けたのは誰だったか忘れてしまいましたが、そこから空気が変わったことだけ覚えています。
「えー、宮下って彼奴の葬式で泣いてたじゃん。」
「いや、それは女子同士の付き合いだろ。」
「彼奴のおかげで命の授業とかやらされてさ、まじでいい迷惑だったわ。」
いつしか話題は彼の悪口へと移っていきました。
こんな風になると、僕はいつも困ってしまうのです。
何故なら、施設の先生たちは僕達子どもの生きる世界を美化して、悪口なんて注意すれば消えると信じ込んでいるからです。
優しくやめようって言おうね、なんてアドバイスを真に受けて、いじめに巻き込まれたことは幾度となく在りました。
結局は何も感じないので問題はないのですが、トラブルで呼び出されるのは仕事の邪魔でしょう、いつしか悪口は無視するようになりました。
そう過去のことに思考を巡らせておりますと、ぱっと此方へ話を向けて来ました。
「なあ、お前も彼奴と友達ごっこしてるの、大変だっただろ。」
「……僕、何も感じないからわからないや。」
これは僕の本心であり、一番波風が立たない答えでした。
「ははは、確かにな。お前に聞いた俺が馬鹿だったわ。」
そうやって皆がけらけら笑っていますと、バンッと引き戸が開きました。
「お前ら何悪口言ってんだ!」
優希でした。
怒った様子でつかつかと歩みを進めると、何故か僕の胸ぐらを掴みました。
「落ち着いて。外には上手く聞こえていなかったかも知れないが、僕は悪口を言っていない。」
「そういうことじゃ無いんだよ!」
彼は悲しそうな怒っているような、色々な感情がかき混ぜられた顔をしていました。
「悪口を止めるのが、親友としての務めだろうがよ!考えてみろよ、彼奴はもう言い返すことも出来ないんだぞ!悔しいだろ!」
マシンガンのように捲し立て息を切らした後、優希は我に返り僕から手を離しました。
優希は少し体を落ち着け、今度は静かに言いました。
「綺羅の感情のことだって分かってる。けど、俺は綺羅の思いを聞きたいんだ。俺から、親友から逃げないでくれ。」
「……そのことなんだけどさ。」
僕はあの日からずっと聞きたかった疑問を口にしました。
「僕はその親友というものに入っているのかな。」
その途端、優希は狂ったような勢いで僕を床に押し倒しました。
(ああ、僕も普通の感情を持った『人間』なら良かったのに。そうすれば、彼らを心から理解できたのに。)
あまりの衝撃に、僕の意識はそこで途絶えました。